ウチのばあちゃんは
認知症で施設に入ってる。
もう長いなぁ。
コロナで面会できなくなり
それが落ち着いてきて
面会できるようになったものの
時間制限がありゆっくり会えず
唯一、母親と
ゆっくり過ごせるのは
定期的にする身体検査の時。
なるべく家族が付き添い
病院に連れて行くことになってて
たまーに行くのよね。
施設は大きな病院に
併設されていて
そこに行くもんだから
時間がかかって
それゆえゆっくり一緒に
いられるんだな。
つい先日も検査があり
私がついていった。
ばあちゃんは
私のことをすっかり
忘れていて
行くと
「だぁれ？」
と聞く。
娘と言うと混乱するので
お手伝いに来た者です
と言う。
なもんで
ばあちゃんのことを
大関さん、と呼ぶ。
検査の時は
検査着に着替えるので
大関さん
お着替えしますよ
服を脱ぎましょう
と言ってる自分がツボ（笑）
ばあちゃんは
歩くのがおぼつかず
車椅子で移動する。
検査が終わった帰り道でのこと。
私が押す車椅子が
敷地内の軽い登り坂で
押しても、押しても
前に進まなくなった。
見てみると
道に大きな石があって
車椅子の車輪が
それに乗り上げていた。
石をどかそうと
足を伸ばしてつついたり
しまいにはしゃがんたり
石と格闘していたら
ばあちゃんが言った。
「大丈夫？
あ重いでしょ？
あ降りようか？」
その声に顔を上げると
車椅子の上で
にこにこ笑ってる。
↑
降りたらコケるがな（笑）
そんなことさえ考えてない。
私が坂道で
車椅子を押せないのは
自分が重いからだと思い
だから降りようと
そんな心遣いだった。
ボケてるのに、ボケてない！
打ちのめされた。
ばあちゃんの中では
娘ではなくお手伝いに来た人
それがその日の私。
そんな見も知らぬ私に
差し出したあたたかい心遣い。
そして、それは
彼女がいつでも
誰かに差し出していたもの。
一緒に暮らしていて
家族だからこそぶつかって
介護で大変な頃は
それこそ憎悪の嵐で
私の目には
見えてなかったものが
その日はっきり見えた。
純粋なやさしさ。
人を思う心。
そうだ、これこそが
ばあちゃんの本当の姿なのだ。
赤の他人としての私にも
ばあちゃんが差し出した
その尊い心は
いつだってそこにあったのだ。
私はこの愛に包まれていたのだ。
見えない時も、いつも
いつでも、ずっと。
認知症で
いろいろなことを忘れ
私のことも忘れ
自我の記憶が
なくなって行く中で
愛はなくなってなかった。
愛だけが残ってた。
下の石をどかし
また動き始めた車椅子の上で
ばあちゃんはゆらゆら
静かに揺れていた。
車椅子を押しながら
私は泣きそうだった。
心の中で
お母さん、ありがとう、って
何度も繰り返した。
建物内に入り
飾られたクリスマスツリーの前で
ほら、大関さん
見て、きれいね
と車椅子を止めた。
ばあちゃんはツリーを眺め
本当だねぇ、きれいだねぇ
何とも言えないねぇ
と言った。
彼女の記憶の中に
私はいなくても
私たちは繋がってるんだなって
すごく思った。
それは、奇しくも
私の誕生日の前日の出来事だった。
聖霊からの
粋なプレゼントを受け取り
翌日私は57歳になった。
そして、夢を見た。
夢の中で
ばあちゃんが遠くに行くと言う。
（夢の中ではボケてなくて元気）
それを聞いて止めはしなかった。
そこはかとない
さびしさがありながら
そうか、遠くに行くんだね、と
納得していた、そんな夢だった。
あ、お母さん
スマホ持ってないじゃん
スマホ持ってれば
連絡つくんじゃない？
なんて話してた。
朝起きて
あ、ばあちゃん、そろそろ
天国に帰るのかもしれない
そんな風に思った。
静かな朝だった。
私は本当のことを見た。
愛を見た。
ずっと見たかったもので
そして、それは
ずっとそこにあった。
お母さん、ありがとう。
すべてがとても順調に
そして、順当に
流れているのを感じる。
彼女がやがて
永遠の中に、愛に
戻って行くのを見ていよう。
先日のみお塾
「何かを失うとき」をはじめ
コオさんのコースのいろんなお話や
みお塾での美保さんのお話が
音声ファイルになって
やすらぎの部屋で販売されてます。
すごくいいです。
ぜひ聴いてみてください。
