父が空に帰ってから
私を、私達家族を笑わせた
いくつかの出来事。



【聖水でのお財布お清め事件】

父が亡くなってすぐ
体をキレイにしてから
着せる浴衣がなかったため
私は慌てて売店に向かった。

心臓がドキドキしていた。
とうとうこの日が
来てしまった。

浴衣を買い
病室に戻る前にトイレに行った。

用を済ませて立ち上がった時
脇の手すりの上に置いておいた
浴衣と財布を
肘で押してしまい、落下。

あっ!と思って手を伸ばす。
浴衣は押さえることができて
事無きを得たが

財布がまだ流していない便器の中に
ぽっちゃんと落ちた。

「あああ…
 お母さんに預かった財布、
 まだ2万円
 入ってたのにもったいない…」

そう考える時点で
拾う気なし(笑)

いや、拾わなくちゃ!

気を取り直し
おそらく過去最大の勇気を振り絞り(笑)
トイレットペーパーで
手をぐるぐる巻きにし
聖水でお清め中の財布を拾った。



拾ったはいいけど
どうするよ、これ?

しばらく考えた私は
洗面台に財布を置いて水を流した。

そして
財布の表面はもちろん
内側、中のお札まで、全部水洗い。

これでもかってくらい水洗い。

びしょびしょの財布に
濡れてれろれろになったお札と
小銭を戻し

これまた
これでもかってくらい手を洗い

何事もなかったかのように
病室に戻った。



母は泣いている。
あぶもアンナもうつむいている。

おしっこの中に
お財布落としちゃったなんて
言えない…



私はこう言って
水滴だらけの財布を母に返した。

「ごめんね。
 手を洗ってる時に
 洗面台にお財布落としちゃった」

いいよ、いいよ
そう言ってうなずきながら
母は財布を受け取った。

父が体を清めてもらう間
私達はロビーで葬儀屋さんと
やり取りを始めていた。

その合間に
母にこっそり言った。

「お母さん、嘘ついてごめん。
 お財布、本当は洗面台じゃなくて、
 流してないトイレの中に落とした。
 一応全部洗ってきたけど…(;゚;ж;゚; )」

母が目を丸くした。

「えええっ!?」

合掌。



【オカメインコ事件】

身を清めてもらった父が
病院から自宅に
搬送されてきた時のこと。

私達は神妙な面持ち
で父を迎えた。
心臓が異常にドキドキした。

亡くなった父との対面
父の死との直面
頭がぐらぐらした。

白い布にくるまれ
布団に寝かせてもらった父。

葬儀屋さんが
静かに布を外した。



何を覚悟したんだか
わからないけれど
私は覚悟して父の顔をのぞき込む。

「えっ、えーーーっ!?
 お父さんっ、
 どしたの、その顔っ!!!」

死化粧をほどこしてもらった父は、
まんまオカメインコだった。

しっかり
ファンデーションを
塗ってもらって

ほっぺにはまあるく
オレンジのチークが
濃く入ってて

それはそれはおてもやん。

しかも、
まぶたには
パーブルのアイシャドウ

しかも、しかも
ラメ入りでキラキラ。

さらに
口紅はピンク
しっかりピンク。

これじゃ場末の酒場の
おかまじゃん!!!



悲しみが吹っ飛んだ。

厳密に言うと
悲しみを超えたおかま顔だった。
眉毛のないバカ殿。

悲しみと込み上げる笑いが混在し
私はどういう顔を
していいかわからなくなった。

でも、つい口にしてしまった。

「お父ちゃん
 おかまみたいだね…」

全員が
ぶっ!と吹いたのを、
私は見た。

もちろん
納棺の前に
葬儀屋さんにきちんと
きれいな顔に戻してもらいました。
(;゚;ж;゚; )

さすが葬儀のプロ。

合掌。



【蚊と住職と私事件】

父の戒名と
拝んでいただくお布施の相談で、
母とお寺を訪ねた。
住職が直々に
お出になってくださった。

話している時
ふと気づくと
住職のほっぺに
蚊がとまっていた。

住職は色白で、
そこにでかい黒いヤブ蚊が。
そのコントラストで
蚊がやけに目立つ。

家族なら
蚊!とか言って
ぺしっ!とできるんだけど
ここは当然放置。

しかし
その蚊が
いつまで経っても
住職のほっぺにいる。

穏やかにほほえむ住職と蚊。

だっ、だみだ~、
ツボだ~、たすけて~!

ひょっとしたら
住職は
大切な話をしているので
かゆいのに
耐えているのかもしれない。

頭が下がる。
下がるけど
その組み合わせと
タイミングと
シチュエーションが絶妙過ぎ。
(;゚;ж;゚; )

合掌。



【名前を間違えてはいけません事件】

告別式が始まった時。
開始に当たり
司会の方から故人の紹介があった。

この紹介のために
前日私達は打ち合わせをした。

父についてや
生前父がしたことなど
細かく伝えた。
それを元に紹介文を作るのだという。

父の紹介が始まった。
誕生日から始まり
生い立ち、趣味、仕事…

紹介が進んでいった。

「また、故人は動物好きで
 犬も飼っておりました」

私は心の中で思い出していた。
お父さん、犬が大好きだった。

ミッキー(飼い犬の名前)を
すごくかわいがってた。
よくお父さんと
ミッキーの散歩に行ったっけ。
楽しかった…。

目頭が熱くなった。

話は続いた。

「愛犬の名前は、ラッキー

私は
ぐっ!と
変な音を立てて
吹いてしまった。

瞬間的に
ツボに入ってしまって
おかしくてこらえきれなくなった。

笑って肩が
ぷるぷる震えているのがわかる。

ラッキーじゃないよ
ミッキーだって言ったじゃん
確認もしたじゃん
名前違うから、違うから!

ゆうべのオカメインコで
笑いに火がついていた私は
不謹慎だと思いつつも
反応してしまった。

肩の震えがおさまらなかった(笑)

ふと周りを横目で見ると
笑いをこらえる私を見て
家族も笑いをこらえ
肩を震わせているではないか。

みんな
ミッキーがラッキーに化けたことに
気づいていたらしい。

告別式が終わり
従兄弟が私の肩を、ぽん、と叩き

「辛いだろうけど
 しっかりな」

と言った。

爆笑をこらえて
肩を震わせていた私が
泣いていたと勘違いしてたらしい。
(;゚;ж;゚; )

合掌。



ばいばい、お父さん<笑い編>は
これでおしまい。