「丘の伏兵」 その3 | ジョジョの忠義な哲学ッッ!

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ジョサイア・ロイスの名著『忠義の哲学』(Philosophy of Loyality / Josiah Royce)の「ジョジョ」訳を連載中です!
人類に平和をもたらす「忠義」について、『ジョジョの奇妙な冒険』との合わせ技で楽しく解説します。

『海山物語』

(ラドヤード・キプリング著 マクミラン発行 1923年初版 1951年再編集版)

底本 Land and Sea Tales for Scouts and Guides
by Rudyard Kipling  MACMILLAN AND CO.,LIMITED  1951
(First Edition November 1923)

 

↓ボーア軍の兵士たち

 

第3話

「丘の伏兵」 その3

 

 

(訳者より

19世紀末、南アフリカでのボーア戦争における事件を描く物語、第3回。

第1回はこちら→https://ameblo.jp/shingekinosyomin/entry-12419639873.html

 

英国将軍旗は、立てられたままのテント前ではためき、双眼鏡でこちらをうかがうボーア人どもを楽しませていた。忠実なる通信員も、自らの日課たる報告電報を送っている。

 

だが、将軍自身はというと、100マイル離れたところの軍団に合流すべく出立済みだったのである。将軍は時に応じて、あえて大隊も砲兵隊も中隊も撤退させていたのだ。残留させるわずかな兵たちに彼が残した言葉が、状況をすべて語っている。

 

 

「諸君はヤツらにハッタリをかますのだ。我々がヤツらの跡を追って、北側から包囲するまでな。それができれば上出来だ。できなければ、諸君は恐らくヤツらに取って食われる。できる限り、ヤツらを引きつけておけ。」

 

 

そういうわけで見せかけの残留部隊は、丘陵の間にこもっていたのである。そのためボーア人どもは地平線にイギリス軍の姿を見ることもなく、初戦の敗退でイギリス軍も用心深くなったかと思っていた。

 

残留部隊は極めて少数だったため、ほとんど大砲に近づきもしなかった。彼らは、騒々しい騎兵隊や中隊ではなく、四、五人のグループで偵察に出た。そして開けていて攻撃されやすいことが明らかな道を見つけた場合は、帰陣する戦力が足りないので別の道を探した。

 

川向うのボーア遊撃隊の怒りと不安は大きくなる。

 

 

「イギリスの野営地にはほとんど兵隊がおらんのですよ。」

農夫たちがボーア遊撃隊に報告した。野営地にメロンを売りに行き、ヴィクトリア女王の健康を祝してうまいウィスキーを飲んだ後すぐの情報である。

 

「ヤツらにゃ馬もありゃしません。名ばかりは乗馬歩兵ですがね。

ワシらのことを恐れてますよ。ブランデーをくれて味方にしようとしたくらいですからな。

さ、ヤツらを撃ち払いなせえ。そしたら、ワシらみんな立ち上がって、防御線を切り破ってみせますわい」

 

 

「ああ、蜂起してくれるだろうとも、入植者諸君。」

ボーア遊撃隊の司令官、ヤン・ファン・スタデンはパイプをふかしながら言った。

 

「ビューフォートからの約定が何をもたらすか、ちゃんとわかっている。デ・アールからの約定もだ。

我々は務めを果たすよ。何もかもな。

そして諸君は牧師と一緒に跪いて、我らの勝利を祈ってくれるわけだ。

ありがたいことじゃあないか? 

 

大統領は諸君に何度も言ったんだろう、神は我らの味方だと。なぜそれを疑う? 

そんな風だから、我々は諸君にモーゼル銃も弾薬も送らないのだよ」

 

 

「ワシらは6か月も遊撃隊の馬を世話してきたんですぜ、飼い葉だって値が張るんだ。若い衆だってみんな送り出したんだ」と地元の有力者が言った。

 

 

「こちらに数人、向こうにも数人仕えているじゃあないか。

どういうことだ? どいつもこいつも海に向かって突撃すべきだったな」

 

 

「あんたたちがせっかちなんじゃ。なぜ一年待ってくれなんだ? ワシらはまだ準備が足らんのじゃ」

 

 

「ウソだな。諸君らケープの連中はみなウソをつく。牛と農場が惜しいばかりだ。

我らの軍旗がここからポートエリザベスまで飛んでいくのを待っていればいい。

 

大統領が諸君らの蜂起ぶりを知る頃には、諸君は自分が何を守りたかったかわかるってものさ、賢明なるケープ住民さんよ」

 

 

日焼けした大地の息子たちは視線を落として言う。

「ああ、その通りですわい。

ワシらの農場の中には、前線のすぐそばのもある。

ヤツらはウースターでもパールでも、海から大軍を送り込めると言っとる。

こいつは考えとかにゃあならんことですぜ、少なくともヤツらが撃ち殺されるまではの。

 

しかし、実際目の前におるヤツらはごくわずかじゃあねえですか。

バカどもを、ストームベルグの戦いと同じ目に遭わせてやんなせえ。

そしたら、ワシらも赤首(※)の牛野郎どもを撃ち殺してみせますわい」

 

(※イギリス人は帽子をかぶっていたため、首が赤く日焼けしたことから)

 

「ああ。俺もそのフヌケの牛のことは知ってる。

いつでも数を増そうとするものさ。

さあ、もう出て行け。俺が責任を負うのは大統領に対してであって、ケープ住民に対してではないのだ。」

 

 

とはいえ、この情報を司令官は頭に入れておいた。そして軍事の実践家として、彼はそれに見合う計画を立てたのである。

 

イギリス軍が回光通信施設を建てた小高い丘があった。その丘からは、多少開けた北方の平原は見渡せるものの、野営地から三マイルほど離れた英軍前哨隊とその丘の間、五マイルほどの起伏ある田園地帯は見えない。

 

ボーア軍はこの岩場や灌木の間に楽々と身を置くことができた。遠間から狙い撃ち、さらに長距離を忍び行く。大きな戦いの予感。血気にはやる若者は撃つべき獲物が欲しかったし、それを口に出しもした。

 

「おい、いいか」

その夕べ、老練な司令官ヤン・ファン・スタデンは部下たちを注目させて言った。

 

「お前ら入植地出の若い者は口ばかりだな。

今夜にでも、赤首どもをあの丘から追っ払って来いよ。え? 

ヤツらの銃剣を奪って、ヤツらにブッ刺してやれよ。え? 

できゃしねえんだろ!」

 

彼はそう言って、焚火の周りに広がった静寂を嗤う。

 

「ヤンさんよォ」一人の若者が哀れっぽく言う。

「オレたちをバカにせんでくださいよ」

 

「それがお前らのやりたくてたまんねえことだったんだろ、違うか? 

まあ聞けよ。俺たちの後ろにある放牧地だが、あれじゃダメだ。ここには牛が多過ぎるからな。」

(敗北を恐れているとうわさされた農場主のところから、盗ってきた牛のことである。)

 

「空を見たところ、明日はいい風が吹く。

だからよォ、明日の朝早く、俺が牛どもを北の新しい放牧地へ送り出してやるよ。

そうすりゃあ、ものすごい土埃が立つ。ヤツらの回光機の丘からよく見えるだろうさ。」

 

↓1910年、アラスカ・カナダ国境で使用中の回光通信機(Wikipediaより)

 

ヤンは、規則正しく闇を貫いて明滅する夜光を指さした。イギリス軍が彼方の前哨隊に向かって送る光。

 

「牛といっしょに女たちも全員送り出す。

ああ、オレたちの女も荷馬車も全部、ついでにアンデルセンの農場からいただいたびっこのポニーに壊れた荷車もだ。

でかい土埃が起こる。俺たちが退却する土埃さ。

わかるな?」

 

部下たちは理解し、同意した。

 

「よし。ここには、家に帰ってカミさんに会いたい者が大勢いるよな。

30人を一週間帰してやろう。

そうしたい者は今晩俺に言え。」

 

(これすなわち、ヤンはカネを要求したのである。休暇は厳格に商取引の手続きにのっとって与えられた。)

 

「その30人は、牛どもを追い立てながら、土埃がずっと長く遠くまで続くようにする。

牛どもの後ろで走り回るんだ。銃を見せつけながらな。

そうすりゃあ、風がうまく吹けばだが、我らが退却の出来上がりだ。

牛どもには、コープマン丘の向こうで草を食わせる。」

 

 

「いや、あそこの水は良くねえ」

その辺りを知る農夫が唸った。

「ズワルトパンに行く方がいい。ズワルトパンの水はいつもうまい。」

 

 

遊撃隊はこの点について20分ほど話し合った。赤首たちを撃つよりもずっと重大なことだったのである。そうして、ヤンがこう続けた。

 

「赤首どもが我らの退却を見たら、ヤツらは全員、こっちの丘陵まで一挙に押し寄せてくるかもしれん。

そうなれば上出来だ。

だがそこまでの幸運は神にも期待できまい。

思うに、まずヤツらは偵察を出すだろうな。」

 

彼は満面の笑みで皮肉った。

「最ッッ低~察をな! ヤツらには偵察兵なんて新種の赤首はいない。

いるのは小勢の乗馬歩兵だけだ。ヤツらの軍服はかつて赤かった。

だからその低~察は勇敢にも立ち上がり、撃たれて血に染まるわけだ。」

 

 

「よし、そいつら撃ち殺してやる」

ステレンボッシュ出身の若者ニクラウスが言った。彼は戦争直前、ケープタウンの旅行者として自由通行証を使い、叔母が銃と馬の世話をしてくれている国境の農場へやって来ていた。

 

 

「お前が低察を撃ったら、俺がお前を鞭打ちだ。」

ヤンが言うと、一同爆笑。

 

「低察には全員、この丘陵へ入って我々を探してもらわねばならん。

そして我々の誰もそいつらを撃つ気にならぬよう、俺は神に祈るさ。

 

低察は野営地の前の浅瀬を越えて来るだろう。

そして道をやって来る。こうだ!」

 

彼はがっしりした腕で軍隊式の騎乗をまねた。

 

「だく足で丘陵の間をこちらへ、そしてあっちへ」

ここで彼はその頑丈な指を埃の中で動かした。

 

「低察がここまで来ると、平原を見渡して我らの牛がいなくなっていることを知る。

すると残っていたヤツらも全員、一緒に近づいてくるだろう。おそらく銃剣を構えてな。

我々は岩山の後ろ、あそことそこにいる。」

 

彼はてっぺんの平たい2つの丘を指し示した。1つは道の向こう側、800ヤードほど離れたところにある。

 

「あれが我々の場所だ。夜明け前にそこへ行くぞ。

いいか、撃ち方を始める前に、赤首の最後の一人まで通してやるようにするんだ。

最初はヤツらも少々注意してやって来る。だが我々は撃たない。

 

そしてヤツらは我らの焚火と新しい馬糞を見る。我々が退去したとわかる。

ヤツらは走って集まり、この素敵な場所でしゃべって、指さし、大声を上げる。

そこで、我々は頭上からヤツらを撃つ。」

 

 

「わかったよ、叔父貴。

けど、低察が何も見つけず、撃たれもせず、オレらが何事もなくそいつらを帰しちまったら、ヤツら、これはワナだって思うよ。

多分、本隊は全然ここには来ないかも。

ストームベルグの戦いで痛い目に遭わせたし、赤首どもだってそのうち学習するんだ。

そうなったらオレらは低察も見逃すことになる。」

 

 

「そいつも計算済みだ。」とヤンはステレンボッシュの若者の思いつきを軽くあしらって言った。

 

「お前が俺の息子だったら、ガキのうちにもっと鞭打ちしておくべきだったな。

 

お前に四、五人かそこら付けてやるから、間道に伏せておけ。

ヤツらの野営地からこちらの丘陵に至る道のところだ。

明るくなる前に行くんだぞ。低察どもを通してやれ。

さもなきゃ俺がお前を鞭打ちだ。

 

低察がここで何も見つけずに戻っていく、そうなったら撃ってよし。

だがそいつらが間道を通り過ぎて、野営地への一本道に入ってからでなきゃあダメだ。

 

理解したか? 俺の言ったことを復唱しろ。理解できたことがわかるようにな。」

 

 

若者はヤンの命令を素直に復唱した。

 

 

「ヤツらの将校を殺すんだ。できればな。無理だとしても、大した問題じゃあない。

低察は逃げ帰って、こっちの丘陵が空っぽだと野営地に知らせるからな。

 

回光基地の連中は、お前らが間道を死守する気だと考えるが、そのうち遠くの土埃に気づく。

するとヤツらはお前らが殿軍だと考える。我々が逃げたと思う。怒り狂うだろうな。」

 

 

「はい、叔父貴ィ、わかりました~。」と12人の年嵩の者たち。

 

「だがこの子牛はわかっていない。黙ってろ! 

いいかニクラウス、ヤツらは間道でお前に撃ってくる。

逃げる俺たちをお前らが掩護していると考えるからな。

間道を砲撃してくるぞ。当たりはしないがね。

 

そこでお前らは騎乗して逃げろ。

赤首どもは総員追ってくる。熱くなって急いでだ。

おそらくは、大砲も一緒にな。

 

ヤツらは我らの焚火と新しい馬糞を通り過ぎる。

低察が来たのと同じ、ここにやって来る。

平原中が我々の立てる土埃だらけだと気づいて、ヤツらはこう言うのさ。

 

『低察が言ったのは本当だ。総退却したのだ。』

 

そこを岩山の上の我々は撃つ。昼間だが、ストームベルグの戦いのようにな。

今度こそ、理解したか?」

 

 

遊撃隊の中でこの作戦に直接関わる者たちは、新しいタバコに火をつけ、深夜まで詳細を詰めた。

翌朝、作戦は(少々硬い言い方だが)「機械的精密さ」で開始されたのだった。

 

(続く)

 

次回、イギリスの偵察隊が出動! 率いるのは乗馬歩兵隊長。

ヤン・ファン・スタデンの罠を見抜くことができるのか?!

 

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