「不運な男の日記」
ああ、酷く不運な日だった。
今日はとことんついていない、踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂とはまさにこの事である。
まず初めの不運は今朝私が目を覚覚ました時、奉公先に行く予定の時刻10分前であった事だ、妻に目覚ましを頼んでいたのだが妻は昨晩旧友と呑み明かし私の隣でがァがァと大いびきをかいて、私の知っている限り女性としてするべき格好ではない姿で眠っていた。
私は唖然としていたがハッと気が付くとこれはいけないと急いで大家のところへ行き電話を借りて奉公先に一報を入れる、私は嘘をつけるほど肝が座っている人間ではないので正直に寝坊したと伝えた、幸い私の奉公先は老夫婦が営む酒屋であったので大目玉を食らうことはなかったがそこに甘えていてはいけないので急いで身支度をして家を飛び出した。
果たして無事に奉公先に着いた私に2つ目の不運が待っていた。
昼を過ぎて常連の客から「酒を家まで持ってきて欲しい」と言われたのだ、まあそれ自体が不運かと言われればそうではなくいつも通りのことなのだが…問題はその後である、いつも通り私は酒を客の家まで運んで酒を客の家の床に置いた時のことだった…嫌な音が私のズボンから聞こえてきた。そう、ズボンの尻の部分が破けてしまったのだ。なんとかその場はバレずに過ごせた…筈だが店に戻るまで気が気ではなかった、常に壁を背にして歩く私は何処からどう見ても不審者そのものであっただろう。
無事店に到着し店主に事の次第を話すと大いに笑われた、それは良いこの無様な格好を笑ってもらえずに哀れまれたら私はどうしようもない気持ちになっていただろう。
そして昼下がり、3つ目の不運が私を襲う。3つ目の不運とは日射病である。今朝の遅刻の遅れを取り戻そうとせっせと働く私はろくに休憩もせずずうっと働いていたのだ、よくよく考えれば…あ、いや考えるまでもなく燃えるような太陽の下、働き通しならこうなることは火を見るより明らかであったのに…もとい、今回見たのは炎の「ひ」ではなく太陽の「ひ」ではあるが…私はそんなことお構い無しにただ目の前の失敗を少しでも埋めるために次の失敗の準備をしてしまっていたのだ。
結局、今日はもう帰ってゆっくり休みなという主人の言葉で私は帰路につくことになった。
そして次が今日最後の不運である。
フラフラとした足取りでやっとの思いで帰宅した私だったが、妻は当然のごとく大いびきをかいて眠っている、私が妻を起こし今日の出来事を全て報告すると妻は私の体調を気遣う所かまだ出掛けの格好をしているのなら外で用足しをしてこいというのだ、流石の私も「勘弁してくれ」と断ったのだがこれがいけなかった…妻は怒り狂い私はぼうっとした頭で小一時間の説教を食らうことになった。
頭が痛いし意識もぼうっとする中、私は上手く動かない頭で「もしやこの女を妻にしてしまったのが私の一番の不運なのではないか」とぼんやりと薄れゆく意識の中で考えていたのだった。