ルーティン・ワーク/クリエイティブ・ワーク | ejiratsu-blog

ejiratsu-blog

人は何を考え(思想)、何を為し(歴史)、何を作ってきたのか(建築)を、主に書いたブログです。

人の利用価値/存在価値と信長型・秀吉型・家康型

人の利用価値/存在価値と人間の思想/自然の形式

人の利用価値/存在価値と「論語」の知/仁

~・~・~

 

 仕事は、おおむね、生活インフラ等の、ルーティン・ワーク(作業系)と、デザイン・アート等の、クリエイティブ・ワーク(創造系)に、大別できます。

 ルーティン・ワークは、すでに「ある」こと(既存・既成)を「する」ので(既知・既発)、「ある」(外面)優先といえる一方、クリエイティブ・ワークは、まだ「ない」こと(未開・未踏)を「する」ので(未知・未発)、「する」(内面)優先といえます。

 ルーティン・ワークでは、マニュアル等で規定された、「ある」ことの流れを止めずに、「する」ことが大切なので、仕事は、サボったり、ボイコットでもしないかぎり、まったく何もしていないという状況にはなりえません。

 よって、作業行為(「する」こと)の出来は、速いか普通か遅いか、相対的・量的評価にすぎないので、時間報酬になりがちです。

 一方、クリエイティブ・ワークでは、仕事を「する」ことに、いくら時間をかけても、上出来な、「ある」ものをつくったり、「ある」ことをやらなければ、完成・完了とはいえず、不出来は、まったく何もやっていないのと一緒です。

 そうして出来た、創作物品(「ある」もの)・サービス(「ある」こと)は、アリ(OK)かナシ(NG)か、絶対的・質的評価なので、成果報酬になりがちです。

 これらをまとめると、次のようになり、ルーティン・ワークは、〈「ある」から「する」へ〉で、クリエイティブ・ワークは、〈「する」から「ある」へ〉と、いうことができます。

 

※仕事

・外面・「ある」優先(「ある」から「する」へ):ルーティン・ワーク(作業系) ~ 時間報酬

・内面・「する」優先(「する」から「ある」へ):クリエイティブ・ワーク(創造系) ~ 成果報酬

 

※仕事で出来たもの・こと

・外面・「ある」優先:クリエイティブ・ワークによる創造物品・サービス ~ 絶対的・質的評価

・内面・「する」優先:ルーティン・ワークによる作業行為 ~ 相対的・量的評価

 

 なお、ここまでは、わかりやすくするため、職種別に両者を二分しましたが、実際の仕事では、ルーティン・ワークの中で、クリエイティブな状況が、クリエイティブ・ワークの中で、ルーティンの状況が、必要になり、この双方を、イノベーション(技術革新)というべきではないでしょうか。

 

 ところで、以前に私は、政治・経済・文化・宗教や仕事・余暇等を分野別に、「ある」(外面)優先と、「する」(内面)優先に、二分しており、それらは、下記のようでした。

 各分野のうち、政治は、安寧のため、経済は、利益のために、「する」を優先し、目的が明確・不変で、その手段を知識・智恵・技術等で工夫することになります。

 他方、文化は、芸術が型、スポーツがルール、宗教が儀礼・教義と、既存の物・形が前提で(それ自体の批判は、ナンセンス)、「ある」を優先し、芸術は美しさ、スポーツは楽しさ、宗教は救済が、漠然とした目的ですが、その基準は曖昧で、ルール・型や儀礼・教義の変化も、多々あります。

 個人でも、仕事と余暇が、それぞれ「する」優先と「ある」優先に相当し、仕事は、報酬ありなので、成果を重視し、量的な満足を追求する一方、余暇(趣味・行楽等)は、報酬なしなので、過程を重視し、質的な満足を追求することになり、それらをまとめると、次のようです。

 

※分野別

・外面・「ある」優先:文化(芸術・スポーツ)・宗教、余暇 → 過程重視・質的満足

・内面・「する」優先:政治・経済、仕事 → 成果重視・量的満足

 

 これに当て嵌めると、ルーティン・ワークによる作業行為は、〈仕事〉で、クリエイティブ・ワークによる創造物品・サービスは、〈文化〉に、相応するといえます。

 

 さて、上記をもとに、日本の就業者のうち、ルーティン・ワークを主とする人と、クリエイティブ・ワークを主とする人の、割合をみることにし、収集したデータは、次に示す通りで、若干不ぞろいですが、就業者数が6,500万人前後と、おおむね一定なので、これらから推定します。

 

○2022年

・総人口:1億2,495万人

・就業者(従業者+休業者、以下同)数:6,723万人(総人口の53.8%)

・休業者数:213万人

・役員以外の雇用者数:5,689万人(就業者数の84.6%)

・正規雇用者数:3,588万人(就業者数の53.4%)

・非正規雇用者数:2,101万人(就業者数の31.3%)

・IT技術者数:132万人(就業者数の2.0%)

 

○2002年

・就業者数:6,330万人

・管理職(管理的職業従事者でない)数:55万人(就業者数の0.9%)

 

○2005年

・就業者数:6,343万人

・クリエイター・芸術家数:58万人(就業者数の0.9%)

 

○2015年

・就業者数:6,402万人

・営業職数:336万人(就業者数の5.2%)

 

 以上より、クリエイター・芸術家とともに、管理職(ルーティンを改善できる地位)・営業職(仕事を獲れたか獲れないか)・IT技術者も、0(ナシ)から1(アリ)を生み出す創造とみなせば、クリエイティブ・ワークを主とする人は、就業者数のわずか1割(9%=0.9+0.9+5.2+2.0)にすぎません。

 つまり、就業者数のほとんどである9割(91%)が、ルーティン・ワークを主とする人といえ、その人達は、作業がやや速いか・普通か・やや遅いかにすぎず、大多数である普通の人の作業量を1とすれば、せいぜい極少数の、速い人は、1.2~1.3程度、遅い人は、0.7~0.8程度でしょう。

 それなのに、日本の会社では、仕事が出来るか出来ないかの二択でレッテルを張ったり、不充分な仕事が原因でパワハラする等し、職場の人間関係から、ストレスを感じ、悩み・疲れ・退職してしまうことが多々ありますが、昇進・出世のための評価ならば、優秀か普通か程度で充分ではないでしょうか。

 日本の正規雇用者は、そもそも簡単に解雇できないので、仕事が出来る(有能)か出来ない(無能)かで二分しても、まったく無意味なうえ、詳細な評価も、すればするほど、生産性・利潤が向上するわけでもないので、時間の無駄です。

 会社は、採用時には、「する」(内面)優先で、利用価値(能力)を確認し、正社員にしたので、採用後には、「ある」(外面)優先で、存在価値(人権)を前提に、有能・優秀に誘起(育成)するしかありません。

 日本の就業者のうち、優秀とされる、クリエイティブ・ワークを主とする人が、1割で、普通とされる、ルーティン・ワークを主とする人が、9割ということは、大多数の凡人どうしで、他人の評価を言い合っても、仕方ないということです。

 むしろ、仕事が出来ないとレッテルを張ったり、不充分な仕事が原因でパワハラする人を、無能(人材流出の害悪)と見る社風にしないと、人手不足が深刻化する中で、その会社に未来はないでしょう。

 人は皆、仕事が出来ないと見られたくないため、失敗を隠したがり、それが後々で致命的になりがちなので、多くを抱え込まずに、適時ホウレンソウ(報告・連絡・相談)し、複数の意見から判断しようとする人を、有能と見るべきです。

 たとえば、聖徳太子の作とされる憲法17条(604年)の10条では、次のように、人は皆、どこからが賢くて、どこからが愚かなのかが、わからない、端のないイヤー・リングのようだと、凡人を前提にし、人との違いで怒るなと、主張しています。

 

○憲法17条・10条

・十曰。絶忿、棄瞋、不怒人違。人皆有心。心各有執。彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。共是凡夫耳。是非之理、詎能可定。相共賢愚、如鐶无端。是以、彼人雖瞋、還恐我失。我独雖得、従衆同挙。

 

[十にいわく、忿(いか)りを絶ち、瞋(いか)りを棄てて、人の違(たが)うことを怒らざれ。人、皆、心あり。心、各(おのおの)執(と)れることあり。彼、是とすれば、すなわち我、非とす。我、是とすれば、すなわち彼、非とす。我、必ず聖にあらず。彼、必ず愚にあらず。ともにこれ凡夫(ぼんぷ)のみ。是非の理は、詎(なん)ぞよく定むべけん。相ともに賢愚なること、鐶(みみがね)の端なきがごとし。ここをもって、彼、人、瞋るといえども、還(かえ)りて我が失を恐れよ。我独り得たりといえども、衆(もろもろ)に従いて同じく挙(おこな)え。]

 

《10にいう、(内心の)怒りを絶ち切り、(表情の)怒りを捨て去って、人が食い違うことを、怒らないようにせよ。人は皆、心がある。(その)心は、各々執着していることがある。彼が是とすれば、つまり私が非となる。私が是となれば、彼が非となる。私は、必ずしも聖人ではない。彼は、必ずしも愚者ではない。ともにこれらは凡人なのだ。是非の理を、どうして充分に決定することができるのか(いや、できない)。相互ともに賢いか愚かかは、端のないイヤー・リング(耳環)のようだ。だから、彼が人に怒ったからといっても、振り返って私の失敗を恐れよ。私独りが得たといっても、大勢の人々にしたがって、同様に挙行せよ。》

 

 日本は、能力主義・成果主義に移行したいようですが、少子高齢化の中、今後も移民を受け入れなければ、ますます人手不足が深刻化し、「ある」(外面)・存在価値(人権)優先や、ルーティン・ワークの割合は、そのままだと予想できるので、職場の人間関係悪化の要因を、摘み取る必要があるでしょう。