「戦陣訓」読解2~後半 | ejiratsu-blog

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人は何を考え(思想)、何を為し(歴史)、何を作ってきたのか(建築)を、主に書いたブログです。

(つづき)

 

 

◎本訓:其の二

 

○第一、敬神

 

・神霊、上に在(あ)りて照覧し給(たま)う。

 

《神霊は、上にあって、明らかに見なさる。》

 

・心を正し身を修め、篤(あつ)く敢神のを捧(かが)げ、常に忠孝を心に念じ、仰いで神明の加護に恥(は)じさるべし。

 

《心を正して(正心)身を修め(修身)、熱く思い切って神の誠を捧げ、常に忠・孝を心に思い、仰ぎ見て神の加護に恥じないようにすべきだ。》

 

 

○第二、孝道

 

忠孝一本は我が国道義の精彩にして、忠誠の士は、又、必ず純情の子なり。

 

《忠・孝の一致は、わが国の道義の活気で、忠誠の戦士は、また必ず純情の孝行息子だ。》

 

・戦陣深く父母の志を体し、克(よ)く尽の大に徹し、以(もっ)て祖先の遺風を顕彰せんことを期すべし。

 

《戦地で深く父母の志を体現し、充分に忠を尽くして天皇の大義に撤し、それで祖先の残した風習を功績として称賛しようとすることを決意すべきだ。》

 

 

○第三、敬礼挙措

 

敬礼は至純なる服従心の発露にして、又、上下一致の表現なり。戦陣の間、特に厳正なる敬礼を行わざるべからず。

 

《敬礼は、至極純粋な服従心の露出で、また上の者と下の者の一致の表現だ。戦地の間、特に厳正な敬礼を実行しないわけにはいかない。》

 

・礼節の精神内に充溢(じゅういつ)し、挙措(きょそ)、謹厳にして端正なるは、強き武人たるの証左なり。

 

《礼節の精神内に充満し、立ち居振る舞いが真面目で正しく整っているのは、強い武人たる証拠だ。》

 

 

○第四、戦友道

 

・戦友の道義は、大の下、死生相結び、互(たがい)に信頼の至情を致し、常に切磋琢磨し、緩急相救い、非違(ひい)相戒めて、倶(とも)に軍人の本分を完(まっと)うするに在り。

 

《戦友の道義は、天皇の大義のもと、死生が結び合い、互いに信頼の至極の情をいたし、常に切磋琢磨し、緩急が救い合い、非法・違法を戒め合い、ともに軍人の本来の務めをまっとうすることにある。》

 

 

○第五、率先躬行

 

・幹部は熱、以(もっ)て百行の範たるべし。上、正しからざれば下、必ず乱る。

 

《幹部は、熱い誠によって、あらゆる行動の規範になるべきだ。上の者が正しくなければ、下の者が必ず乱れる。》

 

・戦陣は実行を尚(とうと)ぶ。躬(みずから)を以(もっ)て衆に先んじ毅然(きぜん)として行うべし。

 

《戦地は、実行を尊ぶ。自らによって大勢の人々よりも先に、強い意志で行うべきだ。》

 

 

○第六、責任

 

・任務は神聖なり。責任は極めて重し。一業一務、忽(ゆるが)せにせず、心魂を傾注して一切の手段を早くし、之が達成に遺憾なきを期すべし。

 

《任務は神聖だ。責任は極めて重い。ひとつの業務をいい加減にせず、全精神を集中して、すべての手段を早くし、これの達成に残念に思うことがないよう決意すべきだ。》

 

 

○第七、死生観

 

・死生を貫くものは崇高なる献身奉公の精神なり。

 

《死と生を一貫するものは、崇高な献身・奉公の精神だ。》

 

・生死を超越し一意任務の完遂に邁進すべし。身心一切の力を尽くし、従容(しょうよう)として悠久の大に生(い)くることを悦(よろこ)びとすべし。

 

《生死を超越し、ひとつの意志で任務の完全遂行に突き進むべきだ。心身すべての力を尽くし、落ち着いて永久の天皇の大義に生きることを喜びとすべきだ。》

 

 

○第八、名を惜しむ

 

・恥を知るもの強し。常に郷党・家門の面目を思い、愈々(いよいよ)奮励して其の期待に答うべし。

 

《恥を知る者は強い。常に郷里・家柄の名誉を思い、ますます奮い励んで、その期待に答えるべきだ。》

 

・生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず、死して罪禍(ざいか)の汚名を残すこと勿れ。

 

《生きて捕虜の屈辱を受けずに、死んで罪・禍根の汚名を残すことのないように。》

 

 

○第九、質実剛健

 

・質実、以(もっ)て陣中の起居を律し、剛健なる士風を作興し、旺盛(おうせい)なる志気を振起すべし。

 

《質素・誠実は、それで戦地内の立ち居振る舞いを律し、剛強・健康な戦士の風紀を奮い立たせ、盛大な志気を奮い起こすべきだ。》

 

・陣中の生活は簡素ならざるべからず。不自由は常なるを思い、毎事節約に努むべし。奢侈(しゃし)は勇猛の精神を蝕(むしば)むものなり。

 

《戦地内の生活は、簡素にしないわけにはいかない。不自由は常なのだと思い、何事も節約に努めるべきだ。贅沢は、勇猛の精神を侵食されるものだ。》

 

 

○第十、清廉潔白

 

・清廉潔白は、武人気節の由(よ)って立つ所なり。己(おのれ)に克(か)つこと能(あた)わずして物欲に捉わるる者、争(いか)でか皇国に身命(しんめい)を捧(ささ)ぐるを得ん。

 

《清く正しくきれいなのは、武人の気概・節操のよりどころだ。自己に勝つことができないで、物欲に捉われる者は、どうして皇国(天皇の国)に身体・生命を捧げることができるのか。》

 

・身を持するに冷厳なれ。事に処するに公正なれ。行いて俯仰天地に愧(は)じざるべし。

 

《生活態度を守り続けるのに、冷静・厳格になれ。事態に対処するのに公正になれ。(そうすれば、)行って、天に仰ぎ地に俯(うつむ)いても、恥じないにちがいない。》

 

 

◎本訓:其の三

 

 

○第一、戦陣の戒(いましめ)

 

・一、一瞬の油断、不測の大事を生ず。常に備え厳に警(いまし)めざるべからず。

 

《1、一瞬の油断が、不測の大きな事態を生じる。常に備えて、厳格に戒めないわけにはいかない。》

 

・敵及住民を軽侮するを止めよ。小成に安んじて労を厭(いと)うこと勿(なか)れ。不注意も亦、災禍の因と知るべし。

 

《敵・住民を軽蔑するのを止めよ。小さな成功に安心して、労力を嫌がることのないように。不注意もまた、災難の原因と知るべきだ。》

 

 

・二、軍機を守るに細心なれ。謀者は常に身辺に在(あ)り。

 

《2、軍事上の機密を厳守するのに細心の注意をせよ。スパイは常に身近にいる。》

 

 

・三、哨務(しょうむ)は重大なり。一軍の安危を担い、一隊の軍紀を代表す。宜(よろ)しく身を以(もっ)て其の重きに任じ、厳粛に之を服行すべし。

 

《3、見張の勤務は重大だ。1軍の安全・危険を負担し、1隊の軍の風紀を代表する。よく身を投げ打って、それを重要な責任とし、厳粛にこれを服従・実行すべきだ。》

 

・哨兵の身分は又、深く之を尊重せざるべからず。

 

《見張の兵の身分は、また深くこれを尊重しないわけにはいかない。》

 

 

・四、思想戦は、現代戦の重要なる一面なり。皇国に対する不動の念を以(もっ)て、敵の宣伝欺瞞を破摧(はさい)するのみならず、進んで皇の宣布に勉むべし。

 

《4、思想戦は、現代の戦争の重要な一面だ。皇国(天皇の国)に対する信念で、敵の宣伝のウソを破砕するだけでなく、進んで皇道(天皇の道)の流布に勉めるべきだ。》

 

 

・五、流言蜚語(ひご)は念の弱きに生ず。惑(まど)うこと勿(なか)れ、動ずること勿れ。皇軍の実力を確信し、篤く上官を頼すべし。

 

《5、デマは、信念の弱さに生じる。困惑することのないように、動揺することのないように。皇軍(天皇の軍)の実力を確信し、熱く上官を信頼すべきだ。》

 

 

・六、敵産・敵資の保護に留意するを要す。徴発・押収・物資の燼滅(じんめつ)等は総(すべ)て規定に従い、必ず指揮官の命に依るべし。

 

《6、敵の財産・敵の資源の保護に気を留める必要がある。強制徴収・押収・物資の焼き尽くし等は、すべて規定にしたがい、必ず指揮官の命令によるべきだ。》

 

 

・七、皇軍の本に鑑み、仁恕(じんじょ)の心、能(よ)く無事の住民を愛護すべし。

 

《7、皇軍(天皇の軍)の本義に照らして考え、仁・恕(思いやり)の心で、充分に無事の住民を愛護すべきだ。》

 

 

・八、戦陣、苟(いやしく)も酒色(しゅしょく)に心奪われ、又は欲情に駆られて本心を失い、皇軍の威を損じ、奉公の身を過(あやま)るが如(ごと)きことあるべからず。深く戒慎し、断じて武人の清節を汚さざらんことを期すべし。

 

《8、戦地で、もしも飲酒・女遊びに心を奪われ、または欲情に駆られて本心を失い、皇軍(天皇の軍)の威信を損ない、奉公の身を誤るようなことがあるべきではない。深く戒め慎み、断じて武人の清らかな節操を汚さないようにすることを決意すべきだ。》

 

 

・九、怒(いかり)を抑(おさ)え不満を制すべし。「怒は敵と思え」と古人も教へたり。一瞬の激情、悔(くい)を後日に残すこと多し。

 

《9、怒りを抑えて不満を制御すべきだ。「怒りは敵と思え」と昔の人も教えた。一瞬の激しい感情で、後悔を後日に残すことが多い。》

 

・軍法の峻厳なるは時に軍人の栄誉を保持し、皇軍の威を完(まっとう)うせんが為なり。常に出征当時の決意と感激とを想起し、遥かに思(おもい)を父母妻子の真情に馳せ、仮初(かりそめ)にも身を罪科に曝(さぼ)すこと勿(なか)れ。

 

《軍法が厳酷なのは、時に軍人の栄誉を保持し、皇軍(天皇の軍)の威信をまっとうしようとするためだ。常に入隊当時の決意と感激を想起し、はるかに思いを父母・妻子の真心に至らせ、わずかでも身を罪悪にさらすことのないように。》

 

 

○第二、戦陣の嗜(たしなみ)

 

・一、尚武(しょうぶ)の伝統に培(つちか)い、武の涵養(かんよう)、技能の練磨に勉むべし。

 

《1、武力重視の伝統をもとに育て、武人の徳の教養し、技能の練磨に勉めるべきだ。》

 

・「毎時退屈する勿(なか)れ」とは古き武将の言葉にも見えたり。

 

《「いつでも退屈することがないように」とは、古い武将の言葉にも見える。》

 

 

・二、後顧(こうこ)の憂(うれい)を絶ちて、只管(ひたすら)奉公のに励み、常に身辺を整えて死後を清くするの嗜(たしなみ)を肝要とす。

 

《2、後ろを振り返って見る心配を絶ち、ひたすら奉公の道に励み、常に身の周りを整えて、死後を清浄にする嗜好を最重要視する。》

 

・屍(しかばね)を戦野に曝(さぼ)すは、固(もと)より軍人の覚悟なり。縦(たと)い遺骨の遅(おく)らざることあるも、敢(あえ)て意とせぎる様、予(かね)て家人に含め置くべし。

 

《死体を戦場にさらすのは、昔から軍人の覚悟だ。たとえ遺骨が送れないことがあっても、あえて意志と遮るよう、以前から家の人に了解させておくべきだ。》

 

 

・三、戦陣、病魔に倒るるは遺憾の極なり。時に衛生を重んじ、己(おのれ)の不節制に因(よ)り、奉公に支障を来(きた)すが如(ごと)きことあるべからず。

 

《3、戦地で病気に倒れるのは、残念な思いの極みだ。時に衛生を重視し、自己の不節制により、奉公に支障をきたすようなことがあるべきでない。》

 

 

・四、刀を魂とし、馬を宝と為(な)せる古武士の嗜(たしなみ)を心とし、戦陣の間、常に兵器・資材を尊重し、馬匹(ばひつ)を愛護せよ。

 

《4、刀を魂とし、馬を宝とする、古武士の嗜好を心とし、戦地の間は、常に兵器・資材を尊重し、馬を愛護せよ。》

 

 

・五、陣中の徳義は戦力の因なり。常に他隊の便益を思い、宿舎・物資の独占の如(ごと)きは慎むべし。「立つ鳥、跡を濁さず」と言へり。雄々(おお)しく床(ゆか)しき皇軍の名を、異郷辺土にも永く伝へられたきものなり。

 

《5、戦地内の徳の義は、戦力の要因だ。常に他の隊の便益を思い、宿舎・物資の独占のようなのは、慎むべきだ。「立つ鳥、跡を濁さず」という。力強く心引く皇軍(天皇の軍)の名声を、異国の辺境地にも永く伝えられたいものだ。》

 

 

・六、総じて武勲を誇らず、功を人に譲るは武人の高風とする所なり。

 

《6、総体的に武勲を誇らず、戦功を人に譲るのは、武人の立派な風格とすることだ。》

 

・他の栄達を嫉(ねた)まず、己(おのれ)の認められざるを恨まず、省みて我がの足らざるを思うべし。

 

《他者の昇進を嫉妬せず、自己が認められないのを恨まず、反省して、わが誠が足りないのを思うべきだ。》

 

 

・七、諸事正直を旨とし、誇張・虚言を恥とせよ。

 

《7、何事も正直を主旨とし、誇張・虚言を恥とせよ。》

 

 

・八、常に大国民たるの襟度(きんど)を持し、正を践みを貫きて皇国の威風を世界に宣揚すべし。国際の儀、亦軽んずべからず。

 

《8、常に立派な国民としての度量を持ち、公正を実践し、義を貫徹して、皇国(天皇の国)の威厳を世界に明示すべきだ。国際の儀礼は、また軽視すべきでない。》

 

 

・九、万死に一生を得て、帰還の大命に浴することあらば、具(つぶさ)に思(おもい)を護国の英霊に致し、言行を悼(いた)みて国民の範となり、愈々(いよいよ)奉公の覚悟を固くすべし。

 

《9、絶望の危機から脱して助かり、帰還の天皇の命令を受けることがあれば、もれなく思いを護国神社の英霊にいたし、言動を心痛にして国民の模範となり、ますます奉公の覚悟を強固にすべきだ。》

 

 

○結

 

・以上述ぶる所は、悉(ことごと)く勅諭に発し、又之に帰するものなり。されば之を戦陣道義の実践に資し、以(もっ)て聖諭、服行の完璧を期せざるべからず。戦陣の将兵、須(すべから)く此の趣旨を体し、愈々(いよいよ)奉公の至を擢(ぬき)んで、克(よ)く軍人の本分を完(まっと)うして、皇恩の渥(あつ)きに答え奉(たてまつ)れべし。

 

《以上に述べたことは、すべて「軍人勅諭」に発生し、またこれに帰着するものだ。だから、これを戦地の道義の実践に助けとなり、それで「軍人勅諭」は、服従・実行の完璧を決意しないわけにはいかない。戦地の将校・兵士は、当然この主旨を体現すべきで、ますます奉公の至極の誠を図抜けて、充分に軍人の本来の務めをまっとうして、天皇の恩恵が厚いことに答えて差し上げるべきだ。》

 

 

陸軍省 昭和16(1941)年1月8日

 

 

□まとめ

 

 「教育勅語」「軍人勅諭」「戦陣訓」に共通するのは、道徳が、本来(中国)の儒教では、特に上の者へ要求されるのに、日本的儒教では、下の者のみへ要求されていることです。

 近代(戦前)日本の一君万民において、政権・軍部の中枢は、天皇から委任された君主側の立場だったといえますが、国民でもあるかれらが、しだいに国民側の生活(平天下・安民)のために、政事・軍事をしなくなり、道徳心もなくなっていったことがわかります。

 株式会社は誰のものかは、株主(所有者)のもの、社員(運営者)のもの、顧客(利用者)のものと、様々な見方がありますが、現代国家は誰のものかは、政権のものでもなく、軍部のものでもなく、国民のものなのは明白で、国民生活のための政治を、するのが進歩、しないのが退歩といえます。

 よって、特に近代日本の昭和前期は、公の概念(民のため)がほとんどなく、名目上の天皇(実質上の政府・陸軍・海軍)の私物化となり、倫理・道徳等による裏付(内面の思想)がなく、戦勝・天皇(外面の形式)のためなら、何でもありに成り下がり、退歩しており、進歩は、戦後の昭和中期からです。

 

(おわり)