「ハムレット」を解く(18) オフィーリアの悲劇は「自分は何なのか」を誰にも教えられなかったこと | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

 ハムレットが「わざわざオフィーリアの顔を観察に来て、クビを振って帰る」という謎の行動。「さっそく、おかしくなったお芝居を始めたのだ」と簡単に解釈されることも多いですが、果たしてそれだけでしょうか。


 この出来事の直前に何があったか。そう、ハムレットが夜の城壁で、先王の亡霊に出会って、復讐を誓わされたのでした。ハムレットは最初、亡霊が出てきても、父だと気がつかず、「我はそなたの父の霊なり」と言われてはじめて「おお!」となります。

 なんでか。

 ハムレットはかなり若いころから外国に留学させられていたと推測されます。つまり、父王の顔をしばらく見ていなかった、いや、父がどんな顔だかよく知らなかったのです。


 父の顔を初めてしげしげと見て、ハムレット王子は「あれっ?」と気がつきます。慌ててオフィーリアの顔を見に来ます。ソックリです。オフィーリアは、ついさっき見た父にそっくりなのです。間違いない、オフィーリアは、妹です。絶望です。このままいけば近親相姦の大罪です。いや、次のシーンで「尼寺へ行け!」と言ってるところをみると、彼と彼女はもうすでに「やってしまった!」のかも知れません。オレたちはすでに大罪を犯してしまったのだよ妹よ、と言っているわけです。オレは死ぬから、おまえは出家しろ、という意味です。これがいちばん単純明快な「尼寺」の解釈です。
 実は、ハムレットは先王の子ではないのですから、オフィーリアとは従兄妹(いとこ)に過ぎないんですが、ハムレット本人は自分の出生の秘密をまだ知りません(そのことがすべての悲劇の根本原因なんですが)。少々おかしくなっても仕方ありません。

 これ以降、ハムレットはとにかくオフィーリアに冷たく当たります。その理由がオフィーリアには全く思い当たりません。オフィーリアこそ、自分の出生について「なんにも知らない」からです。可哀想です。あまりにも可哀想で言葉もありません。
 
 まあ、講釈師見てきたような嘘をいい、というところです。証拠はどこにある、と言われると、さあそれは、となります。現代の推理小説のようにラストに明快な答えが書いてないところが、シェイクスピア劇というものなんで、仕方ないです。ただ、このセンで解釈すると「いろんな不思議な箇所に説明がつく」というだけのことです。

 

 もうちょっと、「尼寺」の話を続けます。以下次号。