怪物(2023年)
5月の終わり頃にWOWOWでエアチェックしておいた是枝裕和の「怪物」をまだ見ていなかったので鑑賞…昨年のカンヌ映画祭で、坂元裕二が書いた脚本が賞を獲ったりしたことで話題になっていた作品。気にはなっていたけど、ちょうど日本での劇場公開と、母親の入院治療の日程が重なってしまっていて…劇場鑑賞は断念したんだよな、確か…。公開時にネット等で調べたレビューは賛否両論…多くの評論家先生方が傑作、傑作ともてはやしている一方、オイラの推してる評論家さん、ライターさんでは“それほどでもない、イマイチ”という意見も多かった。
とある郊外の町…シングルマザーの麦野早織は、息子・湊を溺愛していたが、最近の様子の変化から、学校でいじめにあっているのではないかと勘繰る。なんとか湊から話を聞き出すと…担任の男性教師・保利道敏に暴力を振るわれたり、暴言をはかれたりしているらしいとわかる。さっそく学校へと乗り込んでいく早織だったが、保利を含む学校教師たちの態度がどこか煮え切らず、他人事で憤る。一方、保利は自分のクラスの生徒、星川依里がいじめにあっているのではないかと気にし始めていたが…湊の関与を疑っていた。湊と依里、2人の本当の関係は?
基本、是枝監督作品って嫌いじゃない、むしろ好きな方だけど…正直、オイラも、そこまで面白くは感じなかったかな?作品の構造的なものも影響しているのか、なんだか“まわりくどく”て、かったるい作品だった。映画のスタイルは…リドリー・スコットの「最後の決闘裁判」でもやっていた、いわゆる“羅生門スタイル”ってヤツだよね。複数の視点で語ることで、それぞれ違った真実が見えてくる。“怪物誰だ?”“映画にはネタバレ厳禁の秘密がある”と、さんざん鑑賞前に煽る情報もあったけど…最後まで見ても、“何?あれが言っちゃいかん秘密なの?”だったし。
肝心な知りたいことについては、結局思わせぶりで、藪の中…自分で色々と考えてねって。まぁ、そういうのが好きな人は、考察して楽しむんだろうけど…真のテーマみたいなところに、特に自分的には揺さぶられるものがなく、イマイチ、ピンとこなかった。あからさまに批判とかしちゃうと、登場人物、特に“子供たち”に感情移入した人たち、同じような経験をした人、している人たちから、色々と言われそうだし…無難に理解できないって言葉にとどめておくのがいいかもしれん。まぁ、今の時流にハマった作品ではあったのか?偏見が強い老害の口には合わなかった。
でも、全否定するほどのアンチでもないよ…最初に受けた印象から、“ただのモンスターペアレント映画かと思ったら違った”という、驚きは感じたし。でも、そこからひっくり返して、ひっくり返しての連続だと、ちょっと、さすがに飽きてしまったんだよな。で、その果てに語りたい話がソレ、ソコなのねってことで…。あと、映画冒頭…火災シーンで、街に鳴り響く、サイレンの音がリアルで良かった。なんか、ウチの近所で本当に消防車に停まったかのような臨場感…思わず、映像を一時停止して、耳をすませてしまったよ…ああ、やっぱ映画の中の音だったかと(笑)
是枝作品としては、他の作品に比べて、色気というか、むっつりスケベが少ないな。“あっちのテーマを描く”からあえて排除したのか、それともなければ監督より、脚本家の色の方が強く出てしまっているのか(いつも脚本も監督自身で書いてる)…たとえば、永山瑛太と高畑充希のカップル描写なんて、いつもの是枝作品だったら、もっと生々しく描いてると思うんだけど、なんか遠慮があったよね、それこそ2人の関係がラブコメどまりな感じ。あと、西田ひかるの名前で、笑いを取ろうとするこの脚本家らしい渾身のギャグが…完全に空回りしてて痛々しかったな。
監督:是枝裕和
出演:安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 高畑充希 角田晃広 中村獅童 田中裕子
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