元祖“赤か青か”

 

 

評価:★★★★☆

 

 

劇場公開は1975年。当時はパニック映画ブームの真最中で、この映画のポスターにも船の横に大穴が空いているイラストが使われていたので大スペクタクルを期待して劇場に観に行った。

しかし、序盤に爆発シーンはあったものの、この作品の見せ場は爆弾処理のシーンの方で、パニック映画というよりはサスペンス映画という印象だった。
 

後半の爆弾処理の緊張感のある描写が素晴らしく、これまでDVD(字幕)で何度も繰り返し鑑賞しているが、2021年に吹替入りのブルーレイで発売されたので再鑑賞。

 

 

 

映画は豪華客船ブリタニック号の出航シーンからはじまる、乗客や船員などの主な登場人物はここで紹介されるが、港には妻子を見送りに来た刑事も来ていて、この刑事を演じるのが若き日のアンソニー・ホプキンス。

今やアカデミー賞二度受賞の誰もが知る名優だがこの当時は全く知らない役者だった。

 
 

出航後は悪天候で船酔い続出。

多くの乗客は食事も取れずキッチンはひたすら残飯の処理に追われる。

 

荒れる海を進むブリタニック号

 


大量の残飯(フードロスでもったいない)

 
 

そんな中、船会社の重役にジャガーノートと名乗る男から電話がかかってくる。

「ブリタニック号に7個の爆弾が仕掛けた。外し方を教えてもらいたかったら50万ポンドを払え」と要求してきた。

デモンストレーション用の爆弾が爆発し、脅迫が本物だとわかる。

 

デモンストレーション用の爆弾が爆発する


船内の各所でドラム缶爆弾発見

 

 

悪天候の中で乗客を救命ボートで降ろすのは不可能で、ファロン少佐(リチャード・ハリス)が率いる爆弾処理班がブリタニック号に向かうことになる。

博物館での爆弾処理を終えてパイプをくわえてFallon is the champion” (吹替えでは「お~れはチャンピョン」)と登場する爆弾処理のプロフェッショナルのファロンが格好いい。

 
 

白のセーターの上に軍服のコートを着てパイプをくわえる姿もキマッテル。

 

ファアロンに扮するリチャード・ハリスは「カサンドラクロス(1976)」「オルカ(1977)」「ワイルドギース(1978)」など70年代の数多くの傑作映画に出演している。

晩年も「グラディエーター」や「ハリー・ポッターシリーズ」のダンブルドア校長などで活躍していた。

 
 

船長役にはオマー・シャリフがキャスティングされているが、クレジット2番手にもかかわらず大きな見せ場がなくもったいない使い方。

乗客とのラブシーンも不要、ここでペースや緊張感が途切れ非常に腹立たしい。前振りもなくいきなりベッドインだし、本当にとって付けたよう。相手役の女優(シャーリー・ナイト)も魅力がなかった。

 

 

 

当時のイギリスの中堅俳優が多く出演していて、今見るとキャスティングは豪華。

刑事役の駆け出し時代のアンソニー・ホプキンス(「羊たちの沈黙」)、爆弾処理斑のファロンの右腕役には「欲望」のデヴィッド・ヘミングス、船会社重役のイアン・ホルム(「炎のランナー」)。

その他、ジャガーノート役のフレディ・ジョーンズ(「砂の惑星」)、市長役のクリフトン・ジェームズ(「007/死ぬのは奴らだ」)、船の余興係のロイ・キニア(「三銃士」)、機関士のジャック・ワトソン(「グランプリ」)も顔を見せている。

 

アンソニー・ホプキンス


デヴィッド・ヘミングス


イアン・ホルム

 


 

地上ではアンソニー・ホプキンスを中心に警察が必死に犯人を追い、船会社の重役のイアン・ホルムは乗客や乗務員の生命を第一に考え、身代金の支払いも考えているが、政府側はテロに屈せず身代金は払わない方針だ。

イアン・ホルムと最後まで対立する徹底して事務的な(おそらく官僚としては超優秀な)役人の憎たらしいキャラクターも良い。(役者名失念)


対策を練る警察、船会社、政府


超クールな役人


 

この手の映画にありがちな、ヤンチャな子供の行動が悲劇を招く、少数民族の下層階級の青年の死など、定番要素を盛り込みながら進行していくが、事態を大きく悪化させるほどの乗客のパニックはなく、爆弾騒ぎでも仮装パーティが行われていて、乗客が皆、キチンと仮装しているのがおかしい。


子供がヤンチャして、人のいい青年(有色人種)が犠牲になるのはお約束のパターン


こんな状況でも仮装しているのがおかしい(BOMBはしゃれにならない)

 

 

悪天候の中、爆弾処理班はパラシュートで海面に降下しブリタニック号に移る場面も迫力があった。

荒れる海の中、船に移るが流されてしまう者もいる

 

 

なんといっても、この映画の見どころは後半の大部分を占める爆弾処理のシーンで、ここの緊張感が凄い。

爆弾処理開始


 

ネジを一本ずつ外していき、トラップを慎重に回避していく所など細かい描写の積み重ねで丁寧に一つ一つの作業を描いていく、爆弾の中からのアングルがあったり、最後までスリリングな展開で繰り返し見てしまう。

 

ドラム缶の中からのアングル

 

ネジ1本外すのも緊張感が

 

小さいトラップ(下のワイヤ―を切断してしまうと・・・)


ファロンの右腕のチャーリーはトラップに引っ掛かり爆死

 

 

 

 

そして最後のリード線切断の“赤か青か”の選択。

「古畑任三郎」(もろにパクリ)「交渉人 真下正義」など、その後の多くの映画やテレビに影響を与えた爆弾処理の名シーン。

赤か青か?

 


 

 

ここからは最後のシーンのネタバレです。

 

よく考えると最後のファロンの決断と行動は少し疑問がある。

赤を切ると爆弾は解除されるのだが、ジャガーノートはファロンに爆発する方の青を切れと指示する。
 

ここで、ファロンはジャガーノートの指示に従わずを切って無事に爆弾を解除し、その後、部下にも「を切れ」と命じている。

しかしこの時にファロンは「を切る」と宣言せずに無言でを切っている。

普通なら部下に「俺は今からを切る。もし爆発したらを切れ」というはずである。
 

結果的にが解除だったので良かったが、もしを切ると爆発だった場合はどうだろう。
 

を切ったファロンは爆死、を切ると聞いていない部下はファロンがジャガーノートの指示通りにを切って爆死したのだろうと思い、を切ってしまい全員爆死してしまうのではないだろうか。
 

さらに、もし犯人がある爆弾は赤、別の爆弾は青というふうにランダムに解除の配線を設定していたら・・・。
 

そして、ジャガーノートが嘘をついているという確信はどこにあったのだろう?

ジャガーノートとファロンは師弟関係らしいが、クライマックスまでの2人の心理戦の描写が弱いので、ここは今一つ説得力がない。

 

そもそも、どうやって年金暮らしの老人があれだけの大きいドラム缶を7個も誰にも見つからずに船に運んだのだろうかという疑問もあるのだが。

 


 

監督のリチャード・レスターは、この映画のようなサスペンス、SF(「スパーマンII」)、史劇(「三銃士」)、ビートルズ映画(「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」)、青春映画(「ナック」)など様々なジャンルの映画を撮っており、どれもちょっとひねったクセのある作品で個性的。

 

 

カラー111

【鑑賞方法】ブルーレイ(吹替)ハピネット

【原題・英題】JUGGERNAUT

【制作会社】リチャード・レスター・フィルム

【配給会社】ユナイト

 

【監督】リチャード・レスター

【脚本】リチャード・デコッカー

【制作】リチャード・デコッカー

【撮影】ジェリー・フィッシャー

【音楽】ケン・ソーン

【編集】トニー・ギブス

【美術】テレンス・マーシュ

 

【出演】

リチャード・ハリス:ファロン

オマー・シャリフ:ブルネル船長

シャーリー・ナイト:バニスター夫人

アンソニー・ホプキンス:マクレオド警部

イアン・ホルム:ポーター専務

デヴィッド・ヘミングス:チャーリー

クリフトン・ジェームズ:コリガン

フレディ・ジョーンズ:シドニー・バックランド