主人公が途中退場してしまうという
構成の大胆さ

 

 

評価:★★★★★

 

初見は1970年代。

映画の中盤で主人公が突然、退場してしまうという構成の大胆さに驚いた。

その後、「殺しのドレス」をはじめとして多くの模倣作品が作られたため、今の時代に初めて本作を見た人にとっては既視感があり、衝撃度は少ないだろう。

黒澤明監督の「生きる」を見た時も、中盤で突然に主人公の通夜になる展開が新鮮だった。「生きる」の場合は主人公の志村喬は回想シーンで再登場するが、「サイコ」のジャネット・リーの場合は完全に退場してしまい、以後、ラストまで一切出てこない。

 

シャワーシーンまでの前半は、映画はひたすらジャネット・リーの行動を追いかけており、運転する彼女のアップの表情や途中で警官に遭遇するシーンなど、観客も彼女に感情移入し、“逃げ切れるか?”ハラハラして観ている。


 

 


あれ?

 

しつこい警官

 

 

 

そしてあのシャワーシーン


 

 

 

シャワーシーンは較的序盤だと思っていたが、再見すると109分中50分でシャワーシーンが終了しており、モーテルでのアンソニー・パーキンスとの会話が以外に長かった。


 

その後は、行方不明になったジャネット・リーの捜索を巡っての展開になるが、特定の主人公がいない。ジャネット・リーの恋人のジャン・ギャビンはオープニングで出ているにも関わらずヴェラ・マイルズの訪問を受けるまで積極的な行動がない。マーティン・バルサムの探偵も中盤の出番は多いがやはり途中退場してしまう。必然的に妹のヴェラ・マイルズが主導的な立場になりそうだが、ヴェラ・マイルズという女優のインパクトの弱さが観客の感情移入を妨げているように思う。そしてベーツ・モーテルの支配人であるアンソニー・パーキンス・・・。

 

 

アンソニー・パーキンスはヒッチコック作品にはこの一本しか出ていないが、あまりのインパクトで、生涯このノーマン・ベイツ役のイメージから抜け出せず、「オリエント急行殺人事件」にいたっては100%ノーマン・ベイツのイメージキャストだった。

ジャネット・リーに案内する部屋を決める時の1番の鍵を取る時の手のためらい

 

クロークから隣の部屋を覗く

 


沼に車を沈める時の一瞬停止した時の緊張感。


アーボガストが宿帳を調べている時の覗き込む時パーキンスの顎下からのアップ

 
 

そして、この映画ではジャネット・リーが非常に魅力的。

ジャネット・リーもヒッチコックとはこの1本きりだが、ヒッチコックが好んで起用したグレース・ケリー、キム・ノヴァック、ティッピ・ヘドレンに負けないぐらい魅力的だった。
 

冒頭、下着でベッド寝ているジャネット・リーを足元が映したシーンでは、グラマーな胸が顔にかぶる。はっきりと下着姿が出てくるのはヒッチコック作品では珍しいのではないか・。


 


 

金を持って逃亡してからは運転しているジャネット・リーのアップが非常に多く、車を変えた後、警官の追跡から逃れた後に運転している時の少し笑みが混じった顔も印象的。

きりぬけた!

 

 

 

シャワーシーン後のジャネット・リーの眼球の超アップ(まったく動かないのが凄いが惜しいことに瞳孔は縮瞳している)

 

瞳孔が散瞳していない

 
 

ヒッチコックがその後の作品の主役に考えていたヴェラ・マイルズはあまり魅力的な女優ではないように思う。

グレース・ケリー、キム・ノヴァック、ティッピ・ヘドレンに比べて数段落ちる

もし主役に起用されても成功したかは疑わしい。

 

 
 

アーボガストの殺害シーンでは階段を転倒せずに、ひたすら後退していくだけという変わったショット。

 


 

 


 


何故か絶対に転倒しないで階段を降りきる


 

そして、最後のパーキンスのアップの微笑みに一瞬骸骨がかぶる不気味さ。


 

 

斬新なタイトルバックと耳に残るバーナード・ハーマンの音楽。

タイトル・デザインはソウル・バス


 

 


 


 

沼の近くに地面に張り付くように平面に広がるベイツ・モーテルと、丘に上がった場所にさらに上に突き出して垂直に存在を誇示するベイツの住居のコントラストも素晴らしい。


 

 

多少。鮮度が落ちても再見に耐えうる名作。

 

 

ブルーレイにはメイキング以外にも有名なヒッチコック自身がベイツモーテルを訪ねて事件を解説する予告編やソール・バスのシャワーシーンの絵コンテなどの特典が盛りだくさん。

 

予告編ではヒッチコック自身が事件現場を案内する

 

恒例のヒッチコック登場場面:窓の外の帽子の男

 

ソウル・バスによるシャワーシーンの絵コンテ


 

 

 

【鑑賞方法】ブルーレイ(吹替)

【原題】PSYCHO

モノクロ109

 

【制作会社】パラマウント映画(アルフレッド・ヒッチコック・プロ)

【配給】パラマウント映画

 

【監督】アルフレッド・ヒッチコック

【脚本】ジョゼフ・ステファノ

【原作】ロバート・ブロック

【制作】アルフレッド・ヒッチコック

【撮影】ジョン・L・ラッセル

【編集】ジョージ・トマシーニ

【音楽】バーナード・ハーマン

【タイトル】ソウル・バス

【出演】

アンソニー・パーキンス:ノーマン・ベイツ

ジャネット・リー:マリオン・クレイン

ジョン・ギャヴィン:サム・ルーミス

ヴェラ・マイルズ:ライラ・クレイン

マーティン・バルサム:ミルトン・アーボガスト

サイモン・オークランド:Dr.フレッド・リッチマン

ジョン・マッキンタイア:アル・チャンバース保安官

ジョン・アンダーソン:チャーリー

パトリシア・ヒッチコック:キャロライン

フランク・アルバートソントム・キャシディ

ヴォーン・テイラー:ジョージ・ロウリー

ルーリン・タトル:チャンバース夫人

モート・ミルズ:ハイウェイパトロール