2005-09-17 00:35:22

20. 白い花、白いシャツ

テーマ:彼のこと

目次はこちらです。


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さて、この物語、どう締めくくったものか。


あの日をさかいに、わたしたちはもう一度友達になったのだと思う。


引越し直前に彼が会いに来た。荷物が箱に詰められがらんとした部屋に座り、Xも一緒に少し話した。


そのあと、庭に二人でた。庭にはわたしの植えたユークリフィアという木がいっぱいに花をつけていた。真っ白な花。薄く透き通りそうな繊細な花びら。月明かりにゆれている花を二人で見ていた。


わたしの大好きな花だ。


一枝折って、彼に上げた。


その後、用事があって、彼の住む町に出かけたことがある。元同僚達が食事をしようとレストランのテーブルを予約してくれた。みんなが集まったけど彼はおくれてくるとのことだった。テーブルに座って笑いながら話していると彼が歩いてくるのが見えた。


話せなかったことばかりだった。何も起きなかったし、何もしなかった。でも、それでよかったと、心から思った。こうして穏やかに優しい気持ちで、歩いてくる彼を見ることができる。


彼は白いシャツを着ている。


わたしの好きなユークリフィアの花びらのような色だった。



eucliphia





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あれから、もう一年以上たちました。


もう一度でいいから、ユークリフィアの花が月明かりに揺れるのを見たいものです。わたしの植えたあの木は、今年も花をたくさんつけたのでしょうか。お別れのとき、枝が折れるほとに花をつけていました。




ここ3日間、予約投稿をしていました。実は、今、日本にいるんです(笑)。うまくいっていれば、昨日の朝に成田についている、はず。いとこの結婚式に出席することを急遽決めて、仕事のついでもあったので、思い切って、飛行機で飛んでまいりました。今回はすぐに帰るんだけどね・・・。


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2005-09-16 00:33:52

19. 扇風機

テーマ:彼のこと

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子供たちが去って、わたしたちは後片付けを始めた。テニスコート、体育館、工作室、キッチン・・・。わたしと彼はキッチンの担当だった。彼がなべやフライパンや調理器具を持って、キッチンへ先に行った。わたしは、そこら中に散らばっているナイフやフォーク、そしてお皿を集めて、キッチンへ持っていった。


キッチンに入ると、彼は日陰においた椅子に座っている。流しにトレイごと持ってきたものを置いて、


「ほら、働かないと」


と言った。


「キッチンのスタッフが自分たちで後はするからって」
「だって、そんなの悪いじゃない」
「食器洗い機に入れるのになんだかやり方があるらしいよ。だから、置いておいてくれって」


なんとなく、納得できないけれど、そのとき、キッチン・スタッフが入ってきて、わたしに確かにそういうことを言った。


「だから、ほら、ちょっとサボっちゃおう。ここに座れば」


そういって、彼は自分が座っていた椅子をわたしに勧めてくれた。そして、扇風機の位置を動かし、自分たちに当たるようにした。わたしはありがたく椅子に座らせてもらった。


キッチンには西日がいっぱいに差し込んでいて、ステンレスの表面が光を反射させていて、信じられないくらい明るかった。


「eiはあきらめない人だと思っていた」
「そう?」
「うん。でも、違うってわかって、僕もあきらめようと思った」
「踏ん切りがついたの?」
「ついた。つくと思う。自分のものにすることがすべてでもないし。・・・でも、あの人はどうしたの?」
「あの人?」
「握手して別れた人」
「連絡は取ってない。だからどうしているか知らない。でもね、最後にひとつ、約束はした」
「どんな?」


聞かれて、ちょっと笑ってしまった。


「世界中から見捨てられたとき、わたしのところに来たら、ビールを一杯、何も言わずに飲ませてあげるって」
「そうなんだ・・・」
「そしたら、俺はラーメン一杯がいいって」


笑ってしまう。


「ei」
「なに?」
「僕は、Fish & Chipsでいいよ」


どいつもこいつも、贅沢を言うもんだ。


「でも、eiは」
「わたしにはXがいるからね」



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2005-09-15 00:31:26

18. 西日

テーマ:彼のこと

目次はこちらです。


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キッチンで、ごしごしとイモやニンジンを洗った。思い切り水を出し、野菜にあたり跳ね返る水しぶきをそこら中に撒き散らした。夏の日差しがたっぷり差し込んでいるキッチンで、水しぶきは、ぴかり、ぴかり、と光った。夏だ、とわけもなく思った。


洗った野菜をザルに入れていると彼が来た。わたしの後ろから声をかける。わたしはなんだか、振り向いて彼の顔を見ることができない。


「ごめん。子供達がeiが怒ってるっていっていたから」
「怒ってないよ、ちっとも」
「子供達が、eiは怒っているときには、怒ってないよって言うよって教えてくれた」
「怒ってないって」
「怒ってるでしょ」
「怒るよ」
「ほら、怒った」


きっと振り向くと、彼がニヤニヤ笑っていた。さっきまで、あんな顔をしていたくせに。西日にまぶしそうに目を細めて、わたしを見て笑っている。ちょっと、拍子が抜けてしまった。


「分かった。OK 。怒ってる。怒ってるよ。だから、これを持ってって」
「許してくれる?」
「はいはい。いいですよ」


開けた窓から風が入ってくる。


「夕べのことも」


キッチンから出て行きながら、彼が言った。


「夕べ? 夕べのことっていったいなにを?」
「いや、いいんだ。でも、僕とeiが似ていることが分かった。だから、いいんだ。よかったよ。決心がついた」


廊下から彼の言葉が中途半端に届く。


似ている? 

だからいい? 

決心がついた?


耳の中の三半規管が何かを間違って伝えたのではないかと思った。その言葉の意味が分からない。


バーベキューも終わり、炭の始末をして、子供達にさよならを言った。すでに一度言ったけれど、少し別れを引き伸ばして、これが、本当のさよならになる。みんなと握手をした。小さな手、細い手、バーベキューのソースでべたべたしている手。その手を安心して預けられる誰かにいつかこの子達はめぐりあうのだろう。


西日でまぶしくて、子供達の顔もよく見えなかった。

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2005-06-11 09:10:27

17. 中庭

テーマ:彼のこと

一応、連作ものです。目次はこちらです。


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キャンプの最後の日は、みんなでバーベキューパーティーをした。炭をおこし、野菜を切り、鶏肉を切り。

明るい夏の午後だった。子供たちは外にならべたテーブルで、ああでもない、こうでもない、といいながら、準備をしている。包丁の使い方を指導しながら、子供たちが切ったにんじんをつまみ食いした。


「ei!! 駄目! もう、お行儀が悪いんだからぁ」


子供達が怒る。


「もうさ、eiって、ほんとに悪いんだから。知ってる? この前、ボスの椅子のクッションの下に、ブーブークッションを入れたのだってeiなんだから」
「それは謝ったじゃん」
「そうだよ、でも、eiのせいで、グループ全員で罰として〇〇基金に募金をしなきゃいけなかったんだから!!」
「うまく行って、ボスがブーっていわせたら、いたずらの罰としてみんなで募金するの初めからの約束だったじゃん。それにおもしろかったしさ」
「ほら、もう、eiはおもしろかったらなんでもいいと思っているんだから。ちょっとは反省して」


子供達に怒られてなんだかうれしかった。テーブルの上を見ると、もう洗ってある野菜はない。でも、箱の中に洗っていない野菜がたくさん入ったままになっている。


「野菜洗い担当は誰?」
「Qじゃない?」


同僚が答える。もう、しょうがないなあ、自分の仕事を放り出しおって・・・と思いながら、野菜箱を持ってキッチンへ歩いていった。途中、廊下から見ると中庭の壁にもたれて彼がいる。サボっているな、びっくりさせてやろうと思って、廊下の壁に隠れてそっと彼に近づいていった。


後ろから声をかけようとして、中途半端にあげたままで手を止めた。


彼は、腕を組み、ある一点を見つめながら、真剣に何かを考えていた。やせた頬が少年のようにとがっている。固く結んだ唇は、今にもこぼれる結論を押し込もうとしているかのようだった。


結論。


それは質問をする前から決まっていた。いつ、誰がそこにおいたのかわからない。しんと静まった人気の無い浜辺に置かれたいにしえの石のように、すでにそこに結論はあった。夜ごと、そこに来て、石よ動け、と祈りを捧げたとて、石は動かない。どんないけにえを捧げても石は動かない。そのいけにえが、たとえ自分の脈打つ心臓であったとしても。


言葉にすることを忌み嫌っていても、叫びたいと思う。理不尽な自分の望みを口にしてしまいたい。でも、口に出すよりも早く、自分の望みは強い風にさらわれ、波にあおられて、言葉はちぎれ、意味を成さない音に還元され、石にぶつかって行く。そうして石は風化をする。


風化を重ね、いつか石はなくなるかもしれない。でもそれは遠い未来の話だ。だから、この石を抱えたままで生きてゆくしかない。それは重荷ともなり、優しい港につなぎとめる舫石ともなるだろう。





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池澤夏樹の「真昼のプリニウス」にこんな会話が出てきます。


「では、物語にしたら恐くなくなるのでしょうか。」

「たぶんこうだと思います。書かれた言葉、話された物語は手で扱うことができます。」


やはり、書いてしまわなければ。書かないで、結末を持たない開いたままの物語にしておこうかとも思っていたけれど。


それで、急いで書いています。


実は、昨日、彼からメールがありました。いつ、イングランドに来るのか(石を買い付けに行くことになっています)、と聞かれたので、まだ日本にいると簡単に近況を説明しました。そうしたら、いつもは必要最低限のメールの返事しかよこさない彼から、長いメールがすぐに入りました。


内容はものすごく他愛ないこと。教えていた子供たちの様子と、子供たちが起こしたちょっとしたほほえましい事件。そして、彼が引き起こしてしまったおかしな事件の顛末。


それだけ。


そのメールを読んで笑ってしまいながら、早くこの物語を書いてしまわないと、と思っていました。


(追記: 15時50分にちょいと手直しを入れました。)

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2005-04-15 06:25:19

16. 夜の底で

テーマ:彼のこと
 

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moon

 

「でも、あきらめられなかったらどうする? eiだったら、どうする?
「あきらめる。あきらめれらなくても、あきらめる」

たくさんのことをあきらめた。手に入れたいものもあった。ほかの人から奪い取りたいものもあった。一生懸命に努力をすれば望むものはすべて与えられると思っていた。

でも、どんなに努力をしても手に入らないものは手に入らない。

そして、手に入らないからこそ、中空に浮かんで、いつまでも淡い光を放ち続けるものもある。その光を手のひらに集めてそっと握れば真珠になるだろう。そうして集めた真珠を身に飾り、人は大人になるのだろう。

Vをたたき起こして、タクシーに乗せた。そのタクシーに一緒に乗ろうとして、彼が振り向いた。

「おやすみ」

そういって、そっとわたしを胸に引き寄せた。 

 

 

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2005-04-14 05:15:50

15. 月と太陽

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「大学生のころに、すごく好きになった人がいて、彼女に声をかけたことがあるんだ。一緒に呑みに行ったり、食事をしたり。でも、彼女には好きな人がいたんだ。でも、ある日、その人が結婚をしてね。そうしたら、彼女が僕に、あなたでいいって言ったんだ」

わたしは、残り少ない赤ワインを飲んでいる。こんなに飲んでは酔っ払ってしまうかな、と思いながら、やはり、飲んでいる。

「僕は彼女が好きだった。でも、あなたでいい、っていわれても。僕は、一番になりたかったんだ。彼女が一番好きな人に」
「でも、彼女はQを選んだんでしょ」
eiなら、それでいいといえる?
「それは・・・」
「だから、あきらめた。僕は誰かのかわりではいたくない。たった一人の人間でいたい」
「そして、相手を独占したい?
「そう」

部屋は暗く、外からの街灯が薄い光を投げているだけだ。わたしも彼も、少し酔いが回っていた。そうでなければ、彼がこれほど饒舌になるはずはなかった。わたしだって、話さなかった。夏の夜の暗さと、酔いのせいだ。

「わたし、日本を出る前に、好きな人がいた。どうしても一緒にいたいと思った。彼にとってわたしはわたしでしかありえなかったし、わたしにとっても彼は彼でしかありえなかった。でもね、彼には幼馴染がいて、彼には彼女がどうしても捨てられなかったのね。わたしもどうしても、自分に与えられた機会をつかみたかった。・・・そして、今に至る」

笑ってしまう。なんとなく。昔の話だ。何で、こんな昔話をしているのか。

「だから?
「だから、そういうこと。一番とか、二番とか、誰と競争しているわけでもない。誰と歩いていけるかだと思うよ」
「今話したのは、さっきの人のこと?
「そう。握手して、別れた。一緒には行けなかった。それだけ」

つくとぅてぃだとやゆぬみちとぅりょうる
かぬしゃまくくるんびとぅみちあちたぼり
(月と太陽は同じ路を通り居る
愛する人の心も一路であってください)

酔いが回ってきて、うまく指が回らない。たどたどしく工工四をたどりながら、とぅばらーまを口ずさむ。月と太陽が同じ道を通るように、自分の人生を重ねあえる人がいたらどれほどいいことか。でも、ほかの人の人生を自分のものに重ねさせたくはない。同じ道を歩きたいと願っても、同じ道を歩かせるわけにはいかない。ほかの人の道を歩いていけるほど、わたしは優しくもなれない。

「旅は道連れ世は情け、ってね。でも、Fish and a company stink after three days.

最後の赤ワインを飲んでしまう。確実に酔っ払うだろうと、わたしは考えている。

ei、でもね・・・」

「まあ、いいじゃない。ワインもなくなったことだし、Vもさっきから寝てるから、たたき起こして、お開きにしようよ。わたしも酔って、眠いから」

無理に一緒にいても、つらいだけ。

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2005-03-10 19:13:41

14. 目を見る

テーマ:彼のこと

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部屋の窓を開け放って、廊下も何もかも開け放って、黄昏の風を部屋の中に入れながら、彼とVとわたしの三人はくだらないことばかりしゃべっていた。お行儀悪く、床の上にごろごろと転がって。買いこんできたポテトチップスやビーフジャーキーや、何やかやを、高校生のように食べ散らかしながら。わたしは一人、赤ワインを飲んでいた。彼とVはビール。

電気をつけると虫が入ってくるので、暗くしている部屋の中で、わたしは三線を爪弾きながら、低い声で、知っているいくつかの島唄を歌っていた。

さあ、なりやまや
なりてぃぬなりやま
すみやまや
すみてぃぬすみやま

「どういう意味?」

Vが聞く。

「よく知らない。でも、この続きは、馬に乗ったら手綱を緩めないのと同じで、ちょっとカッコいい相手だからって気を許してはいけないよ、っていう意味」
「おお、オレに気を許すなよ」
「あほかいな、初めから気なんかちっとも許してないよ」

そんな冗談をVと言い交わしている間、彼は何も言わず、何かを考えていたようだ。「てぃんさぐぬはな」を弾いていると、Vのいびきが聞こえてきた。

「いちころじゃん。がきっぽいから、子守唄で寝るかと思ったら、ほんとに寝ちゃったよ」

わたしは赤ワインを飲んだ。ボトルはもう半分くらいになっている。彼が黙っているので、わたしはなんとなくとぅばらーまを爪弾いていた。

「ei、僕にも独占欲がある」

不意に彼が言った。その言葉は穏やかな彼に似合わない言葉で、わたしは一瞬、理解ができなかった。ぼんやりと彼を見た。

「支えてくれる人を自分だけのものにしたいと思っても、絶対にそうできないことがわかっている。それが、つらい」

フェンシングをしていた彼はよく言っていた。相手の次の動きは相手の目を見ることでわかるんだ。相手の目だけをじっと見るんだ。それが、大事なんだ。目を見ればすべてがわかるんだ。

「でも・・・」
「でも?」
「その独占欲にこたえることは誰にもできないと思う。人を人が独占するなんて・・・」
「僕は、一般論をしているわけじゃない」
「わたしも、一般論をしているわけじゃない」

先に目をそらしたのはわたしだった。胸を貫く剣先から滴る血と思えたのは、赤ワインの色だった。




complexologistさんのブログで、忘れることについて読んだけど、忘れることができないんだったら、書くしかない、物語として書いて、無理やりに結末をつけるしかない。

書くことって、死んでいくことに似ている。

でも、死んでもその人の物語は生き続けるように、書くことでわたしの中で物語は終わっても、わたしの物語は読んだ人の中で新しい生を生きていくのかな。

でも、島唄はなんともいえない微妙な心のひだを歌っていて、ちょっと普段はそんな部分があることも忘れているような自分の一部を思い出させてくれます。

と、今日は、ちょっと、おっさんが薄いeiでした。

沖縄情報はこちらをどうぞ。


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2005-02-26 18:33:54

13. 一番ほしいもの

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食事を終えて、わたしたちはワインやビールやおつまみを仕入れて、わたしの泊まっている部屋へと歩いた。町はすっかり日が暮れていたけれど、夏のこの時期は10時くらいまで薄明かりが残っている。薄明かりの中では、人は親密な気持ちを持つ。わたしたち三人は生まれてからずっと一緒に過ごしてきたみたいに仲良く歩いていた。

「eiはニーチェ好きなの?」
「何で?」
「最後の日に話してたでしょ」
「うん、好きだなあ」
「ニーチェはいいよ。僕は生きる力があると思う」

彼と二人でそんな話をしていた。Vは、オレはピアジェもニーチェも知らんと、また腐っていた。

「あれはね、Gay Scienceからの引用でした」
「ああ、悦ばしい知識、ね」
「読んだ?」
「eiの話を聞いた後、ほこりを払って読みました」
「それで?」
「僕にとって悦ばしいことは何か、考えた」
「なに?」
「支えてくれる人がいること。僕の考えを理解してくれて、くじけそうになるときに支えてくれる人がいること」

痛みが走る。それは、誰、と聞けない自分がいる。痛みは黒く嫉妬のしみをつける。

「その人が僕のところに来てくれればって思った」
「でもね、支えがほしいのなら、思い出でも支えられるよ。友達でも、良いかもしれない」

目が逢った。本当にそうか、と彼の目が聞いていた。

「昔、そういう人にあって、握手して、別れたことがあるよ。背中合わせに立ってるみたいだった。ちがうものを見てたけど、背中を預けるくらい、信頼できた。でも、一緒にはいれなかった」
「でも、Xはちがった?」
「そう。同じ方向を向いて、一緒に歩ける人。気取ることも、なにも必要なくて」

だから、答えははじめから分かっている。わたしが何を選ぶのかは、すでに分かっている。その分かっている答えを言葉にしないまま、感傷を引きずることは、わたしの贅沢だとも分かっている。分かっていても、感傷を引きずる贅沢さをわたしは自分に許し続けている。

なかどぅーみちからななけーらかゆうけ
なかすじかなしゃまそーだんぬならぬ
(仲道路から七度も通ったが
仲筋の愛しい人は相談がならない)

****************
トラックバックステーションの御題に沿って、久しぶりに「彼のこと」の続きです。

最後の唄はやはり、「とーばらーま」から。

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2005-01-14 06:03:26

彼のこと・目次

テーマ:彼のこと
2005-01-14 01:28:30

12. 重なる声

テーマ:彼のこと

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その夕方は、とても空気が澄んでいた。あまりにも空気が澄んでいるため、夕焼けが鮮やかには見えなかったことを覚えている。わたしたちはメキシコ料理屋が歩道に並べたテーブルのひとつに座り、道行く人たちを眺めていた。Vと彼とわたしの三人は、いたずらにビールの泡が消えて行くに任せながら、少しずつ墨をとかしこむようにゆっくりと訪れる夜を楽しんでいた。

突然、彼が言った。

「ei、結婚ってやっぱり、理想の人がいたからしたの?」
「理想?」
「Xはeiの理想の人だったの?」
「理想もヘチマもあるかい。そんな、絵に描いたもちのような寝言を言ってはいかんよ」
「結婚式は? 夢に見たとおりだった?」
「結婚式、してない。ものすごく忙しかったから」
「じゃあ、何で・・・」
「あのね、結婚式を人生のゴールだと思ってるから、そこで着る素敵なドレスを夢見て、それが結婚だと思うから、うまく行かないの。結婚相手を理想の人だって思い込んで、その人に期待することしかしないから、現実に挫折するの、わかった?」
「新婚旅行は・・・」
「結婚式してないんだから、新婚旅行なんてしたはずないでしょ。ケンブリッジの****に行って短期集中決戦で仕事してたの。わかった?」
「じゃあ、何で結婚したの?」

ええい、うるさい、人の個人的なことをごちゃごちゃと! と思って、彼のほうを見ると、思いがけなく真剣な目に出会ってしまった。

「それは、わたしたちの関係が理想的だから」

お互いにしていることを支えあえる関係だから。一番手ごわい批判者で、一番の理解者だから。

「たとえばね、ピアジェのピレネー山脈の実験で・・・って言ったときに、返ってくる反応が、なにそれ、では困るでしょ」
「え、なにそれ?」

Vが突然わって入ってきた。

「ね、これでは困るわけ」
「なるほど。月が僕を追いかけてくるよって言ったら・・・」
「自己中心的視点から早く大きくおなり」
「ハイ」

彼はそう答えて、まだ、わけがわからないままのVを見て、わかんないでしょう、と笑った。自分にはわからない、と腐るVを笑う彼とわたしの声が重なった。
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