判例時報2534号で紹介された裁判例です(東京地裁令和3年9月27日判決)。
本件は,令和元年(2019年)9月に,翌年の令和2年(2020年)3月28日に結婚式場の予約をし,同年3月12日までの間に何回かに分けて合計約615万円の前受金を支払ったものの,新型コロナウィルスの流行があり,3月25日に解約し,約130万円が返金されたが残額についても,不可抗力によって婚礼を実施できない場合には婚礼費用は全額返還されるとの規約に基づき返還されるべきであるとして提起された民事訴訟です。
なお,第一回目の緊急事態宣言は2020年4月7日でした。宣言を行った安倍元首相も今は亡くなり,たった3年程度の期間ですが,あっというの出来事のようです。
裁判所は,原告が,本件解約申入れをした3月25日時点において,参列者等への感染のおそれから,100名程度の参列者を集めて本件挙式を行うことを躊躇するとの心情は十分理解可能なものであるとしつつも,年3月25日の時点では,東京都知事からの自粛要請はあったものの,政府から緊急事態宣言は発出されておらず,同月25日時点での1日当たりの新規感染者数は41名,同月28日までの累計の患者数も712名であって,東京都の人口からすれば,感染者数は極めて少数であったこと,その後に発出された緊急事態宣言においても,東京都の休業要請等の対象に結婚式場は含まれていなかったこと,被告においても,新型コロナウイルスの感染拡大を防止する措置を講ずることで,原告が本件挙式を予定していた同月28日に,現に別の組の挙式と披露宴を行ったこと,また,東京都は,都民に対し,換気の悪い密閉空間,多くの人の密集する場所及び近距離での会話という3つの条件が重なる場を避けるように要請していたが,本件挙式が予定されていた結婚式場は天井が非常に高い聖堂であった上,挙式中は,参列者同士が会話することも想定されていなかったことからすれば,上記3つの条件が重なる場に該当すると認められず,披露宴会場についても,挙式中と異なり参列者同士の会話は想定されるものの,一般的に,参列者が着席するテーブル同士の空間や参列者同士の座席の間隔は比較的余裕をもって配置されていることが通常であるし(甲8の披露宴会場の写真によれば,会場中に階段も設置されており天井高もかなり高いものと認められる。),原告や被告従業員から参列者に対して感染のリスクを低減させるための様々な注意喚起をすることも可能であったというべきであるから,上記3つの条件の重なる場に直ちに該当するものであるとはいえないことを指摘して,およそ挙式や披露宴を開催することが不可能であったとは認められないから,本件挙式を実施することが不可能であったとまではいえず,本件においては,新型コロナウイルスまん延により,結婚式を執り行うことが不可能であったとまでは認められず,本件消滅条項における「不可抗力」により「ご婚礼を実施することができなくなった場合」には該当しないと判断しています。
今から振り返ってみれば当時の感染者数などはかわいいものであったとも思いますが,感染最初期の混乱の中,式をやりたくてもできなかったであろうということは容易に想像できることであり,そのリスクをどちらが負うのかというのはとても難しい判断で,裁判所としても何とか和解で解決できないものかと苦慮したものと思われます。
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