判例タイムズ1488号で紹介された事例です(東京地裁令和元年5月23日判決)。
大学の教員として勤務していた原告ら(正社員)が,大学が原告らの所属していた学部の廃止を理由としてした解雇が無効であると主張して,地位の確認などを求めたという事案です。
大学は、原告らの所属学部及び職種は当該学部の大学教員に限定されていたから,同学部の廃止に伴う本件解雇はいわゆる整理解雇には当たらないと主張しましたが、判決では、原告らに帰責性のない被告の経営上の理由によるものである。そうすると,本件解雇が解雇権を濫用したものとして無効となるか否かは,人員削減の必要性,解雇回避努力,被解雇者選定の合理性及び解雇手続の相当性に加え,本件においては,原告らの再就職の便宜を図るための措置等を含む諸般の事情をも総合考慮して,本件解雇が客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と認められるか否か(労働契約法16条)を判断するのが相当であるとし、学部の廃止及びこれに伴う本件解雇について原告らに帰責性がないことに変わりはなく,大学の主張する原告らの所属学部及び職種の限定の有無は,本件解雇の効力を判断する際の一要素にすぎないと解されるから,限定の有無については,本件解雇の効力を判断するに当たり必要な限度で検討するものとしました。
そして、整理解雇の有効性の4要件と呼ばれる基準のうち
・人員削減の必要性・・・学部再編の必要性は認められるとしても、被告の資産,収支及びキャッシュフローはいずれも相当に良好であったというべきであり,原告らを解雇しなければ被告が経営危機に陥るといった事態は想定し難い状況であった。また、再編後の学部の各授業科目には原告らの担当可能なものが多く含まれていた。
・解雇回避努力・・・大学の提案は、原告らが希望退職に応募しない場合は解雇することを前提に,応募した場合は退職金に退職時の本俸月額12か月分の加算金を支給する旨提案したにすぎず,十分な解雇回避努力とはいえない。また,本件においては,再就職の便宜を図るための措置も考慮すべき一事情であるものの,他大学又は他学部からオファーがあれば速やかに連絡する旨の伝達並びに大学の運営する中学校及び高等学校に対する採用検討の依頼は,他大学,他学部又は被告の運営する中学校及び高等学校に原告らの採用の可否を問い合わせたにすぎず,教員の公募状況の通知は,原告らが自ら閲覧可能な求人ウェブサイトのURLを原告らに通知したにすぎない。原告らが本件各労働契約の締結後本件解雇に至るまで一貫して大学教員として勤務してきたことなどの事情を総合すれば,本件各労働契約においては,原告らの地位を大学教員に限定する旨の黙示の合意があったと認めるのが相当であり、本俸を維持する労働条件での専任事務職員としての雇用の提案も本件における解雇回避努力としては不十分というべきである。
・解雇手続きの相当性・・・学長が2年度にわたり関係する教員とは今後個別に相談したい旨述べたことから,原告らは,他学部に配置転換されるなどして本件各労働契約が存続すると信じており,突然の解雇予告など想像もしていなかったにもかかわらず,大学は,原告らに対し,学部廃止後の身分について一切個別の相談,説明及び協議をせず,また,人文学部の全教員について新規採用が内定し原告らを同学部に配置転換する余地がなくなった後もそのことを説明せず,その後に至って希望退職を募集することやこれに応じない場合は解雇することを初めて伝えたのであり,被告の一連の対応は,労働契約関係における信義則に著しく反するものである。大学は,その後も,学部の廃止に伴い原告らを解雇する必要性や原告らを他学部へ配置転換できない理由等について一切説明せず,原告らが本件組合を結成して団体交渉を申し入れた際も正当な理由なく団体交渉を拒否した。
と指摘して、解雇の要件を満たさず、無効であると判断しています。