絶対的記載事項の記載を約束手形は,本来,無効であり,手形法上何らの権利も発生しないはずです(手形法76条1項)。

 

 

【約束手形の絶対的記載事項】

https://ameblo.jp/egidaisuke/entry-12591049795.html

 

 

しかし,実務上,振出日から満期日までの支払いサイトが長い手形は信用力を欠くとして敬遠されたり(手形割引に応じてもらえなくなる),裏書に依ることなく簡易に譲渡できることから,振出日と受取人を空白にしたまま手形を交付するということが広く行われています。リスクがあるのであまり行われないものの,金額や満期日を空白にしておくということもあります。

 

 

このような手形を白地手形といいますが,完全に無効なものとして扱われてはおらず,白地手形を取得した取得者が空白部分を適宜補充して決済がされています。

 

 

ただ,振出人の意図に反した補充がされた場合について,白地手形の取得者の保護との調和をどのように図るかが問題なります。

 

 

この点について,手形法10条(約束手形では77条2項で準用)において,合意と異なる補充がされたとしても所持人に対抗することはできず,ただ,所持人が悪意又は重過失の場合に限り対抗できるとされています。

なお,手形法10条の存在自体が,手形法自身が白地手形について一定の有効性を認めていることになります。

 

 

手形法第10条 未完成ニテ振出シタル為替手形ニ予メ為シタル合意ト異ル補充ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ違反ハ之ヲ以テ所持人ニ対抗スルコトヲ得ズ但シ所持人ガ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ為替手形ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ

 

 

手形法10条は補充がされた後の白地手形について定めているものですが,補充される前の白地手形を取得した場合に同条が類推適用されるかどうかについて,判例は積極に解しています。

具体的には,確定日払いの振出日白地,受取人白地の場合は,振出人としてはどのような記載がされても特に異議はないものと考えられるので,振出人に対して問い合わせるなどの調査を尽くさなかったとしても一般的には重過失があるとはされないものとされます(振出日白地の小切手について最高裁昭和36年11月24日判決,受取人白地の約束手形につき最高裁昭和41年11月10日判決)。

これに対して,満期,金額の白地手形については,譲渡人から著しく不当な補充内容を告げられたり,従来の取引状況に照らして不相当な補充内容を告げられたりした場合は,譲渡人の補充権限に疑念を抱くべきであり,振出人に問い合わせるなどの調査を尽くさなければ重過失があるものと解されています。