判例時報2423号で紹介された事例です(札幌地裁平成30年7月26日判決)。

 

 

自分の所有名義の建物に契約関係もなく別の人間が住んでいれば不法占有であり当然のことながら明渡しの請求をすることができるのがルールです。

 

 

本件は,元夫の給与等を原資として購入した元夫の名義の建物に元妻が居住を続けていたことから,元夫から元妻に対して,建物明渡の請求等がされたという事案です。

 

 

元の夫婦であるからといって占有権限が付与されるという規定はなく,前記のルールに従えば明け渡し請求は認められるべきことになります。

 

 

これに対して,元妻側は,

①元妻も建物について共有持分権を有している

②元夫の建物明渡し請求は権利濫用である

という抗弁を行いました。

 

 

①については,確かに,夫婦が婚姻期間中に取得した財産は名義の如何を問わず夫婦の共有財産として財産分与の対象とされ処理されています。元妻に建物の共有持分があるとすれば,共有持分権者は対象となる共有物を適法に使用する権利があることになるので少なくとも明渡しについては否定されることになります。

この点につき,判決は,あくまでも財産分与請求権はあくまでも協議・審判を通じて具体的な権利性を有すると解するのが相当であること(本件では財産分与審判の手続き中のため元妻は本件建物に具体的な権利を有していないことになる)やオーバーローンの場合は財産分与の対象から外されるのが実務であり本件でも建物はオーバーローンであったことなどから,元妻が本件建物に共有持分権を有しているとの主張は排斥されています。

なお,判例時報の解説によると,婚姻期間中に一方配偶者が単独名義で取得した不動産であっても,他方配偶者もその取得原資を拠出していたような場合には財産分与手続きを経ることなく共有持分権の確認請求などができるとする裁判例もありますが,本件では建物の取得原資は元夫の給与等から出されていることから事案を異にするものとされています。

 

 

判決では②の点について元妻の主張を認めて明渡請求を棄却しました。

理由としては,具体的な権利性にまでは至っていないとしても,元妻は本件建物に潜在的に権利を有しており,当事者間で十分に尊重されるべきものであり,近々財産分与の審判がなされる見込みであり,その手続外で本件建物の帰趨を決めることは元妻の潜在的な持分を不当に侵害することになる行為と評価すべきであるとされています。

ただ,元妻が無償で住み続けることについてまで元夫が容認していたものではないことを考慮するなどして賃料相当損害金の支払については支払いが命じられています。

 

 

 

【財産分与を含む離婚訴訟継続中になされた共有物分割請求が権利濫用にあたるか】

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