判例タイムズ1464号で紹介された事案です(東京地裁平成29年12月6日判決)。

 

 

不動産共有の場合の離婚に伴う財産分与というのは住宅ローンも絡んで大変処理に難渋しますが,本件は,夫名義の住宅ローンの残がある中で,夫婦が2分の1づつ持分名義を有する不動産について,妻は夫に対する家庭裁判所への離婚請求の中で当該不動産の全部の取得を希望する財産分与の申立てを行い(民法768条),夫は,別個に地方裁判所に対して共有物分割の請求(民法258条)を行ったという事案です。

 

(財産分与)
民法第768条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

 

離婚に際しての財産分与に当たっては,預金や保険などの他の共有財産の状況,当事者の居住状況や取得の意向を踏まえて,具体的な財産な分与方法を決めることになりますが,本件では妻は子とともに当該不動産に住みたいということで全部取得を希望しており,他の預金などを夫に取得させて,妻には自宅として不動産を取得させるということも考えられることになります。

 

 

(裁判による共有物の分割)
民法第258条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

 

他方で,共有物分割請求における分割方法としては,現物を分割する方法のほか(当事者が合意して土地を分筆すると言った場合でない限りないは現実的には無理),共有の一方当事者に対価を支払わせて引き換えに持分を他の共有当事者に移転させる方法(価格賠償)か競売して代金を持ち分に応じて分けるという方法があり,本件では妻には資力がないため価格賠償により自宅不動産を手に入れるということが認められる可能性は低く,競売になってしまう可能性がありました。

夫の言い分としては,住宅ローンの支払い負担があり,また,本件の離婚原因は妻の不貞行為にあるから妻からの離婚請求は棄却されるべきであって離婚が成立しない限り離婚に伴う財産分与については認められないのであるからいつまでも本件不動産が分割されないことになり経済的不利益を被るから,共有物分割により本件不動産を処理すべきであるという主張でした。

 

 

裁判所は,下記の理由により,夫からの共有物分割請求は信義則違反又は権利濫用として認めず,妻からの離婚請求伴う財産分与により処理されるべきであるとしました。

・本件不動産が夫婦の共有財産である蓋然性が高く,他の夫婦共有財産と併せてその帰趨が決定されるべきである。

・価格賠償が難しい本件において自宅として不動産の全部取得を希望している妻にとって酷である。

・住宅ローンを払い続けなければならないという夫の不利益について,離婚請求前の段階において夫と妻との間では妻が住宅ローン債務を引き受けることを前提として妻が全部取得することについて了解がされていたことからすると,妻が債務の引き受けをすることで回避され得るし,そのような点については事後的に金銭的調整がされ得る。

・妻からの離婚請求が認められないことから財産分与についてもいつまでも処理がされないのではないかという夫の主張については,もともと夫も離婚については異議がなかったものの,子どもの親権者が妻となる恐れがあることから離婚について争うようになったという経緯,また,暴力など夫の責任についても認められ必ずしも離婚請求が認められないとまではいえない。