判例タイムズ1457号で紹介された事例です(東京高裁平成29年11月9日決定)。
本件の経緯としては次のようなものでした。
・父親の不貞行為が原因となって別居となり(この時期,父親が母親に対して「私と同じ学歴である大学卒業まで支払います」としたメールを送信している),長男と長女の親権者を母親,養育費を一人当たり月5万円と定める離婚判決が下された。
・父親が自己破産したため養育費の減額調停を申立て,その際一人当たりの養育費を月4万円に減額するとともに進学などの特別な出費があった際は別途協議するとの内容の調停が成立した。
・さらにその後,長男が中学3年生になった際,母親が養育費の増額を求めた調停において,母親が申し立てていた養育費以外の強制執行が終了した段階で養育費の額について再度協議する旨が合意された。
・長男の私立大学付属の高校進学に当たり,父親は私立への進学に反対し学費の負担を拒否した。
・その後,長男が私立高校在学中に母親が養育費増額を求めたところ,一人当たり月5万5000円を成人に達するまで支払う旨の審判が確定した。この際の審理において,母親は,長男については私立大学への進学が確定したなど主張し,養育費を一人当たり月額6万円,長男については支払い終期を22歳までとするように求めていましたが,裁判所は,当然に20歳を超えての養育費や私立大学進学を前提とした学費を分担することが容認されていたとはいえないと判断した。
・長男が私立大学に進学したことから,改めて母親が父親に対してその学納金の分担を求めるとともに,長男の養育費(月5万5000円)の支払の終期を成人(20歳)から延長して22歳までとするように求めた(本件)。
母親としては,離婚に際して,父親が大学卒業まで支払うというメールをしていたことやその後も進学の際に特別な出費については協議するという調停が成立していたことなどから,大学の費用について支払いを求める根拠としたものですが,裁判所の判断としては,養育費の算定において15歳以上の子については公立高校の学校教育費は考慮しているものの大学の学費のうちこれを超える分については特別事情として,義務者(本件の父親)が大学進学を承諾している場合や当事者の学歴,職業,資産,収入等に照らして義務者に負担させることが相当であると認められる場合に限り考慮されるものとし,本件において,父親は大学卒の学歴ではあったものの,離婚に際して父親が送ったメールで述べられた大学進学については十数年も先のことであったことやその後父親と子どもたちは交流がなかったこと,父親が再婚してさらに2人の子ども(合計4人)の扶養義務を負っていること,そして,父親が長男の私立大学進学に一貫して消極的であったことなどから,大学の費用について父親に負担させることが相当であるとは認められないものと判断しています。
原審(家裁)と高裁で判断が分かれたのは,養育費の支払いの終期に関してで,原審は20歳までとしましたが,高裁では,養育費の増額と支払終期の判断は別異に解すべきであるとし,22歳までの支払義務を認めています。大学生である期間は扶養を必要とする以上,養育費の支払いが必要であるということが根拠の一つとされています。