判例タイムズ1456号で紹介された事案です(東京高裁平成29年12月22日決定)。

 

 

事案としては,A(父親)が亡くなり,相続時点の相続人はB(Aの妻,CDの母親 相続分2分の1),C(長女),D(二女)でしたが,その後,BがCに対して,夫からの相続分2分の1を含めてすべての遺産を遺贈する旨の遺言を残して死亡し,その後,二女であるDが当該遺贈にについて遺留分減殺請求をし,さらに,父親Aの遺産(土地の共有持分や建物など)についての遺産分割を申し立てたという経緯です。

 

 

問題となった争点の一つが,手続の対象となる遺産の範囲で,具体的には,Bが有していたAの相続分2分の1も遺産分割の対象となるのかということでした。

この点について,平成8年1月26日判決というのがあり,遺産全部を子供の一人に遺贈し別の相続人が遺留分減殺請求をして遺留分相当の移転登記を求めたという件で,一審・原審は,遺産全部の遺贈に対して遺留分減殺請求がされた場合には,遺留分相当の持分について遺産共有という状態となるという見解を示したのに対し(つまり対象となった遺産については遺産分割の対象となる),最高裁は,遺産全部の遺贈がされた場合(包括遺贈)には特定遺贈と同様に,遺産としての性質を失い,遺留分権利者は相当分の移転登記の請求などをすることができると判断しました(遺産分割の対象とはならない)。

 

 

この平成8年の判決を本件のような相続分にも当てはまると考えれば,BはAの相続分も含めてCに遺贈していますのでこれに対して遺留分減殺請求を行ったDは,Cに遺贈されたAの相続分に関して遺産分割手続ではなく移転登記の請求などによって求めるべきであるということになります。

 

 

しかし,本決定では,相続分に対して遺留分減殺請求がなされた場合は平成8年の前記判決と事案を異にしており,相続分が譲渡された場合は譲受人が遺産分割手続の当事者とされていることなどから,本件において,相続分が遺贈されこれに対して遺留分減殺請求を行ったDは,なお,Bが有していたAの持分2分の1の部分に関して遺産の分割を求めることができるものとしました。

 

 

相続が数次に亘って発生する場合においては,どの遺産が現在どのような法的な状態であるのか,それによって家裁での遺産分割になるのか地裁等での訴訟手続きになるのかなどについて分かれてくることになるので,各相続や遺言の内容などの細かな検討が必要になります。