https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41062710Y9A200C1EA3000/

 

 

 

2020年に想定される秋の臨時国会に向けて改正案の提出をめざす。見直しの主なポイントは(1)相続登記の義務化(2)所有権放棄の制度を創設(3)遺産分割協議に期限(4)相続財産管理人を土地ごとに選任――の4点だ。

(2月8日日経新聞オンラインから一部引用)

 

所有権放棄の制度がどのようになるのかという点については興味があるところです。

結局のところ,買い手がつくような不動産については,相続登記がされたり遺産分割協議がされたり又は相続財産管理人が選任されるなどして,買い手に所有権が移転されることになりますが,経済的価値のない不動産については,だれも欲しがらないので,これをどのように処理するのかという点が究極的には所有者不明土地の問題の本質的なところともいえるからです。

 

 

現行民法は、土地所有権の放棄を認めていない。所有権は土地の適正な管理や税金の支払いなど、所有者の義務もセットになっているためだ。一方的に放棄を認めてしまえば税逃れや、放棄を見越して管理を怠るなどモラルハザードにつながる懸念がある。

(同上)

 

正確にいえば,土地(不動産)の所有権放棄について明確に定められていないというべきで,学説としては不動産の所有権の放棄についても認められるというのが多数説のようです。

 

 

裁判例としては,比較的最近のものとして,松江地裁平成28年5月23日判決というのがあります。

これは,土地を相続した原告が,国に対して訴訟提起をもって当該土地の所有権を放棄したとして,国に対し原告から国への所有権移転登記をせよと求めたという訴訟です。

 

 

仮に,不動産について所有権の放棄が認められるとすれば,所有権のいない不動産については国庫に帰属するとされていることから,国に対してこのような訴えをしとたというわけです。

 

(無主物の帰属)
民法第239条2項 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

 

 

この件で,裁判所は,土地の所有権の放棄自体が認められないとは判断しておらず,あくまでも権利の濫用として認められないとして原告の請求を退けています。「権利の濫用」という場合,原則としては認められるけれども,例外的にダメというニュアンスになります。

権利の濫用となる事情としては,本件で,原告が当該土地に係る負担(固定資産税や管理費用)を負担せずに済むように父親から贈与を受けた後すぐに訴訟提起をしたこと,当該土地が国の所有となった場合の境界画定や管理費用などして多額の費用が掛かることになることなどの事情があげられています。

もっとも,多くの場合,所有権放棄して国の所有となった不動産についてはコストがかかることになるため,この論理で行くと,ほとんど常に不動産の所有権の放棄は認められないことになるので,理屈の上では原則は認められるといいながらも,実態としては原則として所有権の放棄は認められないということになります。

 

 

今後,所有権放棄の制度を創設するとして,どのような条件の下でこれを認めるのかが問題となるわけですが,そもそも所有者が必要としておらず,市場経済の中でも引き取り手が見つからないような不動産について,そもそも所有権放棄を認めるのか,認めるとしてもどのような基準で認めるのかということについてはなかなか困難な問題であろうと思われます。