モー娘。の元メンバーによる飲酒運転,ひき逃げ事件が報道されていますが,ひき逃げについては,道交法により,「交通事故があったときは・・・直ちに」負傷者を救護する義務,警察官に対し報告する義務が規定されており,この罪が成立するかどうかということが問題となります。

 

 

道路交通法第72条1項 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
 
第117条の5 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反した者(第百十七条の規定に該当する者を除く。)

 

 

元モー娘。の事件をひとまず措いておき,この救護義務違反・報告義務違反の罪について,事故現場ですぐに停車せずにある程度時間的,場所的に間隔が空いてから停止したという場合に,この罪が成立するのかどうかということが問題となることがあります。

 

 

最新の判例時報(2375号・2376号合併号 大阪高裁平成29年4月12日判決)に次のような事例が紹介されています(ものすごくざっくりとした概要 詳しくは判決文をあたってください)。

①事案は,被害者が死亡するという重い交通事故で,赤信号を無視して時速80キロで交差点に進入して横断歩道を歩行中の被害者をボンネットにはね上げてフロントガラスにはクモの巣状のひびか入った。

②その後,被告人は二つ先の信号のある交差点(事故現場から約150メートル先)で赤信号で停車中の自動車の後方に停止し,再発進の後,さらに二つ先の交差点を通過した後,停車した。

③事故に先立って,本件事故があった交差点の5つ手前の交差点で,被告人が赤信号を無視したため,横断歩道を歩いていた二人組の男が立腹して,タクシーに乗って追いかけ,被告人車の前方にタクシーを停めさせて(事故現場から約300メートル先),被告人に暴行を加えて被告人は歯を数本折るなどの傷害を負った。

 

 

救護義務違反・報告義務違反の罪が成立する前提として,被告人が事故の存在を認識していることが必要であるところ,本件の場合,①の時点で事故の認識があったとしてもよさそうですが,この点については,事故の前後でブレーキ痕やスリップ痕がないことや他者のドライブレコーダーの画像などから,この時点で被告人に事故の認識があったとすることについては合理的な疑いが残るさとれています(この辺りは実際の証拠を見ていない以上何とも分からないところです)。

 

 

判決では,遅くとも,②で被告人が赤信号で停車中の自動車後方に停車した時点では,フロントガラスの状態などから被告人が事故の存在を認識したと認定し,救護義務違反等の成立についてはそれ以降の被告人の行動について問題とすべきであるとしました。

被告人は,その後自動車を発進させているわけですが,判決は,自動車を運転していて事故を起こしたと認識した場合,内心が動揺ないし混乱し,様々な心理が去来するのが通常であり,法が求める作為義務に及ぶことの決意を瞬時に行うことは必ずしも容易ではなく,信号表示や車の流れに従っていったんは自車を走行させてしまうこともあり得るとし,救護義務違反等の履行と相いれない行動をとれば直ちにそれらの義務に違反する不作為があったとまではいえないのであって,救護義務違反等の罪の成立のためには,一定の時間的場所的隔離を生じさせて,これらの義務の履行と相いれない状態にまで至ったことを要するとしました。

そして,本件において,②で停車していた交差点から発車して停止するまでの間,本件交差点に戻ろうと思って携帯電話を探していたという被告人の弁解は信用できないとまではいえず(追いかけていたタクシーの運転手が被告人車を追い越す際に見たところ,運転席の被告人の姿が見えなかったと証言していた),また,停車した後二人組の男から暴行を受けていたために救護や報告することはできなかったことから,本件において,救護義務違反,報告義務違反については成立せず無罪としたものです。