判例時報2375・2376号合併後で紹介された事例です(大阪高裁平成30年1月26日判決)。

 

 

弁護士は,自治体に対して職務上請求することにより,戸籍や住民票といった極めてプライバシーの高い書類を取得することができます。かつては,理由についてもあまりとやかく言われずに取得できていたようですが,プライバシー意識の高まりや弁護士が芸能人の住民票などを取得していたことが問題となって懲戒処分を受けたりしたことなどもあり,現在では,記載された申請理由などについても従来よりも厳しくチェックされるようになっています。もっとも,この審査の程度は自治体によって差があり,事細かに理由などを聞いてくる自治体もあれば,よほどの不備でもない限り最低限のことが記載してあればOKとする自治体もあり様々です。

 

 

 

本件は,離婚訴訟において,夫側の代理人を務めていた弁護士が,和解により訴訟が終結した後,和解条項に定められた仏壇の引き取りなどについて別途協議することとなっており,妻と連絡を取る必要があったけれども,妻の連絡先が分からなかったため,住所が記載された戸籍の附票を取得しようとしたところ,妻が夫についてDVを理由とする支援を求めており,自治体もこれについて支援措置をしていたことから,DV加害者側に対する書類の交付はできないとして戸籍の不交付をしたため,当該申請をした弁護士が戸籍の附票の不交付処分の取り消しを求めて提訴したというものです。

 

 

 

もともと,妻には代理人弁護士が付いていたものの,和解後は辞任により「今後は妻と直接連絡を取ってほしい」とされていたため,夫の代理人弁護士としては,訴訟後の後処理のためという理由で戸籍の附票を申請していました。

 

 

 

一審判決は,夫の代理人弁護士が協議のために妻の連絡先を知る手段として戸籍の附票を取得する必要性は高いこと,妻は協議のために夫又はその代理人と協議できる状況を整える信義則上の義務があるのに夫側との連絡を絶って現在まで連絡を受けることを拒絶していること,また,妻の住所を夫には伝えないという誓約書を弁護士に求めることと引き換えに戸籍の附票を交付したり,事情を質問したり確認したりすることもなく本件不交付処分をしたことは,裁量の逸脱があるとして,弁護士の訴えを認めて,戸籍の附票の交付を命じました。

 

 

しかし,高裁においては,逆に,戸籍等の交付手続きを規定した事務処理要領ではDV加害者からの交付申請については必要性が認められたとしても加害者に交付しないで目的を達することが望ましいとされ,加害者の代理人を通じて被害者の住所が加害者に知られる恐れがあることも否定できないことからすれば,代理人からの申請申し出も原則として加害者本人からの申出に準じて取り扱うべきであるとし,本件で不交付とした自治体の処分に裁量逸脱はないと判断されました。

 

 

これでは,DV被害の申出がされている限り,相手方の連絡先も分からず困ってしまうということになりますが,この点について,判決では,訴訟の提起等の法的な手段をとるためには,訴状等の送達をする必要がありそのためには相手方の住所を知る必要があるから,高い倫理性が要求される弁護士が代理人として申出をしたような場合には,誓約を求めるなどの措置を取ったうえで交付すべき場合もないとは考えられないが,本件では離婚の後処理のためという過ぎず,妻が連絡を拒否しているという事情の下では本件処分が違法であるとはいえないとしました。

 

 

そうるすと,妻が引き取ることになっている仏壇は夫の家に置かれたままということになってしまい,どうするのだということになってしまいますが,訴訟等の法的手続きを取る場合には例外的に代理人弁護士からの申出に応じる余地があるというのですから,仏壇の引き取りを求める訴訟の提起の準備などといった法的手続きを取ることを理由とした申出をし直すということが考えられそうです。