債務引き受けというのは,読んで字のごとく他社の債務を浮き受けることですが,これには2種類あって,元の債務者とともに債務者としてのり地位が併存するもの(併存的債務引き受け)と元の債務者は債務者の地位から離脱して新たに債務を引き受けたもののみが債務者となるもの(免責的債務引き受け)があります。
現在の民法には債務引き受けについての規定はありませんが,判例上,その有効性は認められてきました。問題となるのはだれとだれの間で合意すれば併存的に債務引受が成立し,その際にの要件は何かということです。
このうち併存的債務引き受けについての判例理論は次のとおりです。
・AのBに対する債務についてCが引き受けるという場合,債権者であるAとCの間で合意すれば,併存的債務引き受けは成立し,Bの同意は必要ない(CはBの保証人のような立場に立つところ,主たる債務者の意思に反しても保証人となることができるという民法462条2項の趣旨に照らして)。
・債務者であるBとCとの間で併存的債務引受が成立するためには,Aの受益の意思表示が必要である(BC間の契約は第三者であるAにとのためにする契約と評価することができることから第三者の為にする契約については受益者による受益の意思表示を必要とする民法537条に照らして)。なお,わざわざ自分に有利に併存的債務引き受けについてAが受益の意思表示をしないということなどあるのかということですが,明確な受益の意思表示であるかどうかの評価が争われるということがあります。子会社である貸金業者を廃業し親会社が事業を引き継ぐという消費者金融会社の再編に当たって,親子会社の間で過払い金等の債務は併存的に引き受けるということが規定され,処理の窓口も親会社とすることを周知し,従前の子会社との取引を終了して新たに親会社との契約の締結を勧誘されて契約関係を切り替えた事案(切替事案)では,勧誘を受けた顧客(引き直しをすれば過払い金が発生していたが顧客はそうであるとは気づいていない)は受益の意思表示をしたとして評価できるとはんだんされています(最高裁平成23年9月30日判決)。これに対して,親会社が子会社から債権譲渡を受けるという再編スキームにおいては(譲渡事案),顧客が親会社に対し弁済を続けていたというだけでは受益の意思表示とみることはできないと判断されています(最高裁平成24年6月29日判決)。
改正民法では,上記の判例理論を明文化しています(改正民法470条)。
なお,三者間で併存的債務引き受け契約をすることは明らかであることから明文化はされていません。
(併存的債務引受の要件及び効果)改正民法第470条 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。
また,併存的債務引受がなされた場合の効果について,債務者と引受者との関係は連帯関係になるというのが判例で,この点については改正民法470条1項で明確化されています。
また,旧法化においても,債務者が有している抗弁権があるときは引受人もこれを主張できると解されていましたが,他方で,債務者が解除権,取消権を有している場合には引受人はこれを行使できないとする判例がありました。
改正民法では,債務者が有している抗弁権はすべて引受人も債権者に対して主張できるとしたうえで(改正民法471条1項),債務者が解除権,取消権をゆうしているときは,これらの権利の行使によって債務者が債務を免れることができる限度においてその履行を拒絶することができると規定されました(同条2項)。
(併存的債務引受における引受人の抗弁等)改正民法第471条 引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。2 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。