判例時報2215号で紹介された事例です(東京地裁 平成25年10月24日判決)。




自筆証書遺言が有効として認められるための条件は,全文・日付,氏名を自筆で書いたうえ,押印しなければなりません(民法966条1項)。




本件で問題となった自筆証書遺言は,昭和8年生まれの遺言者が,入院中の病室でノートの一部に「すべての財産を次女夫婦に委任します」という趣旨の事項を記載し,日付,署名とともに,カタカナを崩したようなサイン様のものが記載されていたというものです。




ノートの他のページにはその日の出来事に対する気持ちや人生訓といったものも記載されていました。




遺言者は,当該日付の約2週間後に死亡し,次女による自筆証書遺言の家裁での検認手続を経て,長女から次女に対し,遺言無効確認が請求されたというのが本件です。




長女側の主張は,自筆証書遺言の要件である「押印」を欠くとして無効を主張し,次女側は「サインであっても押印の要件は満たす」と反論しましたが,裁判所は,長女側の主張を受け入れて,本件では押印の要件を欠くとして遺言無効と判断しました。



理由としては,民法が押印を要求している趣旨は,遺言の同一性,真意を確保するとともに,文書の完成を担保することにあり(押印するのは文書が出来上がってからするのがふつうであり,書面作成中に押印するということはまずないでしょう。つまり,押印されていない文書というのはまだ未完成なのではないかということになります。),我が国においては,サインによって文書の完成を完結させるという慣行や法意識が定着しているとはいえない,遺言者は養子縁組に関する覚書,手術に関する承諾書といった法的意味を有する文書についてはサインではなく押印又は指印をしていることなどから,サインがあるからといって遺言という法的意味を有する重要な書面の作成を完結させる意義を有しているとは認められないとして,本件においては押印が同一の意義を有しているとはいえないとしました。




判例では,押印の慣習のない白系ロシア人の遺言について,押印の無いサインによる遺言を有効として認めたものがありますが,少なくとも本件のようなケースにおいてはサインと押印を同一視はできはないということになります。




なお,自筆証書遺言の要件である押印には指印も含まれるというのが判例です。



なお,このケースでも特に問題とされていないように,遺言が書かれている媒体は,しっかりとした紙でなくても,ノートであろうが,広告の裏紙であろうが,なんでもかまいません。

ただ,書いてある媒体があまりにもいい加減のものだと,「それはあくまでも草案である」とか「判断能力がなかった」といった反論がされやすくなるので,やはり,遺言についてはきちんとした紙にしっかりと書く,あるいは,争われやすい自筆証書遺言ではなく,形式面で無効とされるリスクは少ない公正証書遺言にするといった配慮が必要だと思います。




本件は控訴されているということです。



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