保険金請求をした場合に保険会社から支払いを拒否されるという事例があります。
保険契約にはモラルハザードを防止するため,生命保険であれば保険金受取人が故意により被保険者を殺害した場合,火災保険であれば故意に対象物件に放火した場合などには故意免責といって,保険金が支払われないことになります(保険金だけの問題ではなく,当然,刑事事件にもなる問題です)。
判例時報2145号で,火災保険において,一審が保険金請求を認容したのに対し,二審が故意による放火であるとして保険金の請求を認めなかった事案が紹介されていました(福岡高裁平成24年2月24日)。
事案は,保険契約者の所有の建物が火災により全焼しため,加入していた火災保険金を請求したところ,保険会社から故意による放火であるとして支払い拒否されたため提訴し,一審では,保険金の支払いを命じましたが,保険会社(生協)が控訴しました。
高裁は,次のような理由をあげて,本件火災は保険契約者かその意を受けた第三者による放火であると推認されるとして,一審判決を取り消して,保険金請求を認めませんでした。
①保険契約者は,本件火災発生の前に,元右翼団体役員と暴力団員に対し「家を燃やしてくれんか」という趣旨の発言をしていたと認定されました。どうして,この暴力団関係者らが証言に至ったのかはよく分りません。
保険契約者は,そんな話しをしたとしても,人が大勢いる飲食店でそんなことを言う筈がないと反論しましたが,裁判所は,かえってそういう場所で発言した方が「冗談だった」で済ませられるという見方もでき,あながち不自然とはいえないと言っています。
②保険契約者には,本件火災に遭った建物以外にも価値の高い建物を所有していたのに,そちらには火災保険をかけずに,価値の低い本件建物に火災保険をかけているのは不自然である。
③本件家裁は,火災保険契約の約5か月後という近接した時期に起こっている。
④本件火災当時,保険契約者には2000万円を超える債務があり,月の支払額が55万円を超える額にも上っていたという状況にあった。
⑤保険契約者は,これまでにも長期間にわたり多数回の保険契約を締結してきており平成11年から22年までの間に支払いを受けた保険金の総額が2000万円を超えていた。裁判所は保険金が収入源になっていたといっても過言ではないと言っています。
以上のような諸要素のほか,火元の検討なども加えたうえで,保険金請求の棄却という結論になっています。
なお,本件は上告・上告受理申し立てがされています。
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