判例時報2144号で紹介された富山地裁平成23年5月27日の判決例です。
保険契約には保険会社が保険金を支払うことを拒むことが出来る免責条項というものがありますが,本件で問題となった傷害保険契約には,①保険契約者又は被保険者による事故招致②保険金を受け取るべき者による事故招致の場合には免責とするという内容の約款となっていました。いわゆる保険金詐欺を防ぐためのもので当然のものです。
本件では,保険契約者と被保険者は,死亡したAという男性で,その相続人がB(兄)とC(姉)の2名でした。Aが自動車内に残置されたコンロから発生した一酸化炭素中毒により死亡したことから,BとCは,Aが受け取るべき保険金を共同相続したとしとして保険金の請求をしましたが,保険会社は,本件Aの死亡はBによって招致されたものであるとして免責を主張し支払拒絶したため裁判となりました。
裁判所は,以下のような事実を認定して,本件Aの死亡は少なくともBの未必的故意(死んでもかまわないと思っていたこと)によって引き起こされたものであるとして,先ほどの免責条項②保険金を受け取るべき者による事故招致の場合に該当するとしてBの請求は棄却しました。
・事件当時,AとBは,コンロを使って食事をしたが,その後,Aが自動車内で就寝するに際し,燃焼が継続していた豆炭の入ったコンロを車内に運び込んだ上,自らは車外で野宿した
・野宿した理由について,Bは車内に物が置いてあって寝られるスペースがなかったというが,真冬であった当時の気温などを考えると車内に空きスペースを作ろうとすることもなしに車外で野宿した理由とは考えられない
さて,本件の判決文ではCについては,特にBと共謀していたなどの事情はなかったようなのですが,裁判所はCの保険金請求も棄却しました。先ほどの免責条項②保険金を受け取るべき者による事故招致の場合には但し書が付いており,その者(事故招致した者,本件ではB)が死亡保険金の一部の受取人である場合には,他の者が受け取るべき金額についてはこの限りでないとされていて,Bの行為があったとしてもCは免責条項に該当しないようにも見えます。
しかし,裁判所は,免責条項の,①保険契約者又は被保険者による事故招致という条項を使ってCについても免責,すなわち保険金請求の棄却という結論としました。
本件では,保険契約の締結手続や保険料のほとんどの支払いなどをすべてBが行なっていたことから,名義はAになっているけれども実質的な保険契約者はBであると認定し,保険契約者自らが起こした事故であるからそもそも保険金請求権がないという論理です。
この件の当否とは関係なく,名義がそうなっているからということだけで諦めてしまうということが多いのですが,実質というものから検討することの大切さがわかる裁判例かといえると思います。
本件は一審で確定しているようです。刑事事件になっているのかどうかまでは分かりませんでした。
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