たぶん、話題にのぼる割に読まれてない本ナンバーワン | El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

2015年1月4日から「Diario de Libros」より改名しました。
メインは本の紹介、あとその他諸々というごっちゃな内容です。
2016年4月13日にタイトル訂正。事務机じゃなくて「事務室」です(泣)。

以前 に『菊と刀』を紹介した時、新訳を読み終わり次第書くともお伝えしました。
あれから約半年、今日ようやく新訳版を紹介できます。いやぁ、大変長らくお待たせいたしました(汗)。
私自身、このブログを始めた時から紹介しようと思っていた本をようやく紹介でき、肩の荷が降りた感じです。

もちろんのことですが、内容は本当に読みやすくなっています。
読みやすくなったので、内容を追った上で色々と考察する余裕もありました。
で、思ったのですが、この本が“偏っている”と言われる原因はおそらく第12章「子どもは学ぶ」ではないでしょうか。子育ては人それぞれであり、それは当時も同じだったでしょう。「うちはこんな育て方してない!」と言われればそこまでです。
ただし、当時の日本人の子供がどういう状態に置かれていたかは、現地を見知った人びとの見聞から確かなので、さほど致命的ではないでしょう。
むしろ、これを元に今の子どもがどういう状態に置かれているか考えると、少し不安になります。何はどうあれ、今の日本の子どもたちは“恥を知らない”を知りません。知る余裕がない、とも言い換えられるでしょう。

今回の新訳を担当した角田安正さんは、ロシア研究が専門の防衛大学校教授です。読んではいないのですが、同じシリーズでレーニンやトロツキーを訳しています。
言わば太平洋戦争当時のベネディクトと同じ立場にいるわけで、訳者選定に当たっての出版社の意向がよく分かります。
興味深いのは、そんな訳者が翻訳に当たってロシア研究を生かしているという点でしょうか。訳者あとがきで披露されている日米露の遵法意識比較がよい例です。

そんな訳者も指摘しているのが、ソ連紙の東京特派員の日本論が「日本を訪問したことのないベネディクトに太刀打ちできなかった」(p.541)という、ビックリするような事実です。その書『桜の枝』が、大部分において『菊と刀』に依存していたのです。彼女の観察眼には恐ろしいものがあります。
強いて見落としたことと言えば、この日本論がこれほどまでに長持ちしているということでしょうか。本書の「寿命は十年程度だろうと予想していた」(p.510)そうです。
数十年も前に書かれたこの日本論がなぜこれほどまでに読み継がれているのか。
案外日本人は、ほとんど何も変わっていないのかもしれません。


Es difícil conocerse a sí mismo.
(己自身を知るのは難しい。)


『菊と刀』
ルース・ベネディクト 角田安正
光文社古典新訳文庫
高さ:15.2cm 幅:10.7cm(カバー参考)
厚さ:2cm
重さ:290g
ページ数:545
本文の文字の大きさ:3mm


追記:2014年10月17日にリンク追加など記事の修正。