今は亡き、今敏監督の「妄想代理人」という作品に”少年バット”は登場する

 

一大ブームとなるキャラクターを生み出した、気鋭のデザイナー月子。

勉強しても、運動しても、何をやっても注目を浴びてきた自信家の少年、優一。

密かに思いを寄せていた教授からプロポーズされる、晴美。

 

人生の絶頂といってもいいほど上手くいってる彼らは、

ある日突然、ローラーブレードに乗った正体不明の通り魔”少年バット”に頭を殴られ、襲われる。

 

病院のベッドの上。

月子も、優一も、晴美も襲われたあとはみんな落ち着いた表情へと変わっていく。

彼らは、本当は全然幸せじゃなかった。

嫉妬され、ノルマに追われ、自分自身を信じられずもがいていた。

 

バットで殴られて、止めることのできない地獄のような日常が、これまでとは違う非日常へと変わっていく。

少年バットが、力づくで延々と続く、腐った日常をぶっ壊してくれる——。

 

全13話あるこのアニメ作品では、

この3人以外にも、まるで少年バットに襲われるのを待ち望むかのような登場人物たちが

次々と現れる。これは、現実なのか、それとも夢を叶えてくれる妄想の中の存在なのか——。

 

今敏監督の作品はどの作品も、世界観の作り込みが素晴らしくおすすめなのですが、

いまこの状況で「妄想代理人」を見ると、考えさせられる。。

 

私も、恥ずかしながら仕事に忙殺されていた時期、

「ああ、少年バット来ないかしら。」と思ったことが何度もありましたが、

このコロナ禍は、少年バットの襲撃に近い状況なのかもしれないと思い、少し怖くなりました。

 

良い事も、悪い事もなにもかも吸い込みながら

誰も想像していなかったような、非日常へと引きずり込んでいくコロナ。

 

もちろん、誰にとっても一刻もはやく終わってほしい状況であることは間違いないけれど、

誤解を恐れずにいうと「緊急事態宣言」が発令されて、ほんのひととき救われたと感じた人々もいるのではないでしょうか。

 

自分のキャパシティを超えて早く回転していく日常という車輪になす術もなく、飲み込まれていた人たち。

居場所を見い出せずに、苦痛でしかない場所に身を置いていた人たち。

 

もちろん痛みは伴うけれど、これまでの日常がぶっ壊れて非日常になったこの自粛期間、

心の底で、どこか救いを感じた人も少なからずいたのではないでしょうか。

 

でも、一番重要なのは、非日常が常態化したら「日常」になるということ。

自分を見失わないための一時の避難は必要だけど、それが日常になる前に”日常に耐えられる自分”を作らないといけない。

 

というよりも、自分自身で身の丈にあった日常や居場所を見つけること、作り出せることが大切なのかも知れない。

コロナ自粛が終わったあとほど、人の真価が問われる。そんなことを考えてしまいました。

 

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「妄想代理人」Netflixにて配信中

https://www.netflix.com/jp/title/70014551