”プラズマプロセスによる薄膜の基礎と応用”市村博司・池永勝 著 日刊工業新聞社 (2005) 268ページを紹介します。

この本は、ハードコーティングに係る特性を微視的、構造的な観点から、科学的な解析を試みた書とかと思います。

 

”原子・分子もしくはイオンが気相を介して固体に凝縮し、固体膜となる過程は複雑である。技術と技能の接点から生まれたノウハウが一般化されないため、薄膜の研究開発の多くは、目的性能を達成するための成膜条件の探索に終わっており、科学のステージに上ってこないのが現状の姿であろう。”というまえがきにある認識のもとに、ハードコーティングにおける耐摩耗性、耐酸化性、しゅう動特性、離形性などの材料機能を、硬さ、内部応力、密着力、ヤング率、靭性などの基礎物性との関わりにおいて、議論した書物です。全体として、実用的に使われている膜特性を、できる限り科学として扱い、解析し、かつ丁寧に分かりやすく書かれているかと思います。ハードコーティング以外の膜でも、内部応力や密着性は、薄膜の基本に係る重要な特性ですので、是非一読されることをお勧めします。

 
1.3.3 各種成膜装置の共通性と特異性 (1)成膜速度と膜厚分布 成膜速度は、生産性だけでなく膜の性質にも大きく影響するため、プロセスの最も重要な評価項目と考えて良い。...CVDは、ガスの分解と化学反応によって膜を作るので、気相の圧力が高く粘性流となる。..PVDは、分子流となり、運動エネルギーや電荷など個々の分子の挙動を理解する必要。...イオン化率が高いと粒子の総運動エネルギーは増加し、気相から固相への凝縮過程で発生する熱量が増加する。蒸発粒子のイオン化は、反応性ガスとの化学反応も促進する。
 
1.4.2内部応力 200℃以下の温度環境では、金属を含むほとんどの物質の体積拡散係数は非常に小さく、原子はほとんど移動しない。しかし、粒界や表面を通しての原子やイオンの拡散は体積拡散に比べて数桁以上大きいため、異物質間の相互拡散は、粒界や表面を使って起きる。拡散現象は、膜に発生する応力とその緩和過程を理解するときの鍵となる。
 
3.2.4 島の合体と粒成長 (1)オストワルド成長 より大きな島は小さな島を取り込み、小さな島がなくなるまで成長する。(2)焼結による合体 2つの粒子が接触した時、系のエネルギーを下げるために、表面エネルギーを減ずる方向に物質移動が起こり、表面積が減少する。この現象が熱エネルギーを駆動力として起こる時、焼結という。(3)マイグレーション 
 
3.2.5 結晶粒の成長 気相から基板上に飛び込んできたイオンや中性粒子・分子は運動エネルギーを熱に変え、またそれ自身の凝縮熱により、基板表面と膜表面を移動する。この移動の過程で化学反応を含めた新しい結合が生じ、その状態で熱力学的に安定な物質が膜として形成される。
 
3.3.2 モルフォロジーと拡散係数 Thorntonは、融点の高い膜ほど柱状晶が発達して粗な構造になることを、拡散係数の活性化エネルギーと関係づけた。粒界拡散の活性化エネルギーが体積(内部)拡散に比べて小さいことは、低温ほど粒界拡散係数が大きくなる。表面拡散は粒界拡散に比べてさらに容易となる。窒化物の物質移動も粒界によって促進される。
 
3.4 膜の選択的結晶配向性 Pelleg らは、結晶成長過程は膜の表面エネルギーと膜に発生する応力ひずみによって選択的配向性が生じる。WangとOkiらは、結晶方位による表面エネルギーを計算し、ガス圧力が低いと結晶の発達面は表面エネルギーの小さい安定結晶面の配向性を示している..選択的配向性は、吸着ガスのインヒビジョンによって左右される..真空度が高く、不活性ガス(Ar)の圧力が低い場合には、、つまり蒸着原子以外の吸着インヒビタがほとんどない状態では、表面エネルギーの大きい結晶面は、表面エネルギーの小さい結晶面より成長し易くなる。、一方ガス圧が高くなると、インヒビタ分子(例えばAr分子)が、、表面エネルギーの高い結晶面に吸着する割合が高くなり、結果として、表面エネルギーの低い結晶面が発達する。吸着インヒビタ―はモルフォロジーにも影響してくる。
 
4.4 金属膜の内部応力 Thornton らは、直流MSで作成した各種金属膜の応力をArガス圧力の関数として求め、すべての金属において、スパッタリング中の放電ガス圧が低い時は、圧縮応力が現れ、圧力が上がると引張応力に変わる。
 
4.9 複合と多層化による応力制御 コーティング最外表面の応力を高い状態に保ち、硬度を維持しながら、かつ、基材との密着力を維持させる方法として、最も研究されているのは、中間層の形成である。..硬い材質(TiN)のマトリックス中に柔らかい材質(Ni)を分散すれば、膜全体として応力の緩和と靭性の向上が期待できる。
 
この本の全体の構成について、概略をアーステックホームページに載せてありますので、興味のある方は覗いて見てください。
 
次回は、プラズマ気相反応工学 提井信力、小野茂著 の予定です。