プラズマプロセシングの基礎 Glow Discharge Processes  sputtering and plasma etching  Ph.D.Braian N.Chapman 著 岡本幸雄訳 電気書院  1993年 386ページ を紹介します。

スパッタリングプロセスは、グロー放電を用いたプラズマプロセスです。そのために、スパッタリング薄膜は、プラズマを理解することが、その膜の特徴を知り、さらに特性の向上した膜を開発、生産するためには、大変重要かと思います。この本では、特にスパッタプロセス中の基板の置かれているプラズマ条件、電位について分かりやすく説明がしてあるかと思います。本の構成、概要はアーステックのホームページに載せていますので、そちらも時間がありましたら覗いてください。

 

2.1衝突断面積

気体の密度を単位体積当たりn 分子、各分子の実効的な衝突面積(collision area) をqとすると、平板中の衝突確率(collision probability)(

分子ターゲットで占有される断面的な面積の割合)は、nΔxqになる。従って、衝突確率は、単位長さ当りnqとなる。・・・まず、λとqは簡単にnq=1/λで関係づけられる。これは、とにかく簡単な関係式ではないが、一般に衝突面積として知られる衝突断面積(collision cross-section)の概念の重要性を暗に示している。・・・qは接近速度に依存し電子速度またはエネルギーの関数で示すと扱いやすくなる。この依存性は、直観的に、相互作用の時間が速度の増大とともに減少することによって説明できる。

このように、衝突断面積は、平均自由工程λより便利な変数である。

 

3.2プラズマポテンシャル
電子密度(electron density)とイオン密度(ion dennsity)は等しく(平均において)これらをプラズマ密度plasma density)という。この密度は中性粒子の密度より、はるかに小さい。
プラズマ中に電気的に絶縁された小さな基板を置こう。基板には、電荷電流(chage flux)すなわち電流密度を持った電子やイオン電流が流れる。・・基板にはすぐに負の電荷が帯電しはじめ、基板はプラズマに対して負の電位になる。対象とする領域のイオンや電子の準無秩序運動(quasi-random motion)は、すぐに妨げられる。基板上の電荷は負であるので、電子は追い返されるがイオンは引き寄せられる。したがって、電子電流(electron flux)は減少し、イオン流量(ion flux)とちょうど平行するまで基板は負に帯電する。プラズマは上に述べた乱のある場所を除いてほとんど電界に対して自由であること、したがって等電位にあることを簡単に示そう。この電位がプラズマポテンシャル(plasma potential)Vpで、時には空間電位(space potenntial)ともいう。同じように、フローティングポテンシャル(floating potential) Vf と絶縁基板とを結びつけることが出来る。Vfは、電子を退けるように働くので、この時Vf<Vpとなる。基準の無い時には、電位差(Vp-Vf)だけが意味を持つ。基板は帯電するため、基板の前に位置エネルギー(potential energy)の丘ができる。それは、イオンにたいしてプラズマから基板への下り坂の工程になる。しかし、電子に対しては、上り坂になるので十分な初期運動エネルギー持った電子だけしか、”頂上””すなわち基板に到達することはできない。
 
3.3フローティング基板でのシースの形成
電子は電位差(Vp-Vf)で跳ね返されるので絶縁基板は、真の正電荷で覆われる。これは一般に空間電荷(space charge)として知られ、グロー放電プラズマ中でではシース(sheath)を形成する。このシースは空間電荷密度(space charge density)ρを持つ。poisson の方程式は、空間電荷領域内の距離xによる電位vの変化を示す。…例において、(vp-Vf)は15Vの値を持ち、観測と一致する大きさである。プラズマがフローティングの物体に対して正極性になることに注意を要する。ほとんどすべての物体に対し正極性になる。・・・シースにかかる電圧は、イオンが基板にぶつかるエネルギーに直接影響を及ぼす。イオンは非常に小さなエネルギーをもってシースに入ってくる。そして、イオンはシース電圧によって加速され、シース中で衝突が無いとシース電圧に等しい運動エネルギーをもって基板にぶつかる。 実際電気的に絶縁された基板上のシース電圧は1~2V高くなる。得られた運動エネルギーは、薄膜または基板の原子間結合エネルギー(1~10eV)と比較しなければならない。その結果、プラズマ中での電気的に絶縁された基板上の薄膜の成長やエッチング過程が、このような衝突によって大いに影響されるであろうことは容易に推察できる。
 
4.1放電構造
プラズマはアノードよりさらに正電位になる。しかし、まだいくらかの電子電流が存在する。そこでアノードはフローティングポテンシャルよりさらに正になる。先にプラズマポテンシャルより小さい”適当な”フローティングポテンシャル15Vを出した。これは直流スパッタリング装置でのプラズマポテンシャルVp~+10V(接地したアノードに対して)に一致する。プラズマは先に述べたように、実質的に電界の影響を受けないので、プラズマはカソードのシース付近と同電位Vpとなる。カソード電位をー2000Vとすると、カソードシース電圧は、この例では2000+Vpすなわち2010Vになる。
この電圧分布に次の注意を要する。
(ⅰ)プラズマは、最初に予想したように、これらの電極間で中間の電位を持たない。プラズマは放電のなかで最高の電位になり、先の説明と一致する。
(ⅱ)装置の電界は各電極におけるシースに限定される。
(ⅲ)シース中の電界はどちらか一方の電極に達しようとする電子を追い払うように作用する。これらすべての特性は電子の質量がイオンの質量より非常に小さいことに起因する。
 
カソード、アノード、絶縁基板上のシースの形成を理解して頂ければ、カソードから基板を通りアノードに至る装置の電位変化が想像できるかと思います。基板への成膜中は、このプラズマの生成とそれに起因する電位の中でどのような現象が起こるかを期待を込めて想像されると良いかと思います。最近注目されているHIPIMS技術は、このプラズマをどう有効にまた極大化させてスパッタ膜の特性の向上を行うかという試みの一つです。
図などは載せておりませんので文章のみですが、出来るだけ前後の内容が連続するように引用しております。原書が入手できないようでしたら、プラズマポテンシャル、プラズマシースなどについて、図としては、”現場のスパッタリング薄膜Q&A”第2版の30ページを参照して頂ければ、イメージがつかめるかと思います。また”プラズマイオンプロセスとその応用” 電気学会・プラズマイオン高度利用プロセス調査専門委員会編 オーム社 2005年 がこの辺りを「イオンシースの形成条件」という項目中でスパッタプロセスとしてではなく一般的なプラズマとして解説しています。よろしければ、参照されたらと思います。
 
次回は、低温プラズマ材料化学 長田義仁 編著 産業図書 2002年 の予定です。