今月は、スパッタ本の第3回目として、”スパッタリング現象” 金原粲著を紹介します。スパッタに関しての古典とも言える本です。スパッタリングの本質は何かというスパッタを扱う研究者、技術者のニーズに応えた本かと思います。数式が多いですが、時間が許す限りなぞって頂ければ、イメージはつかめるかと思います。新しい膜開発、プロセス開発を行う時に、基本を掴んでおく重要性は大きいと思います。コンピュータの大容量化、高速化、小型化を考えれば、今後シミュレーション技術がスパッタ膜開発のための補助手段としてクローズアップされると思われます。基本を理解するのに大いに有効かと思います。また、本の概略は、アーステックのホームページに載せました。

ここでは、各セクションの中で、興味のある言葉、文章を拾っていきたいと思います。

 

2.3 いろいろな物質のスパッタリング率

低エネルギー領域では、Cu,Ag,Auという1b族の一価金属をピークとして原子番号の順にS(スパッタリング率)がほぼ周期的に変化していることである。つまりd殻が埋まり結合エネルギーの逆数に従ってSが大きくなっている。・・・ また、衝突するイオンの質量が大きいほどSが大きくなっていることは注目してよい。・・・希ガスでSが大きい理由は明確ではないが、希ガスイオンとターゲットとの相互作用が単純であることが一因と考えられる。他のイオンを衝突させると、ターゲット物質にイオンがくっついてしまう可能性があり、見かけ上のSを小さくする。とくに、C,Mg,Al,Scなどのイオンに対してSがほとんど0になっているのは、実際には、ターゲットに衝突イオンが付着して層を形成するbuilding-up と呼ばれる現象が生ずるためといわれている。

 

3.4定常線形カスケード理論

多少長くなりますが、引用します。

無限大の大きさの固体を考え、その中に一つの平面を考える。この平面上の一点を入射高速粒子が衝突した点とする。この点で、入射高速粒子はターゲット原子と衝突してそれを正規の格子位置からはじき飛ばす。これがノックオン原子である。この時の衝突は、完全弾性衝突であるとする。このノックオン原子は別のターゲット原子と衝突してこれを弾き飛ばす。こうして次々にノックオン原子が生成される。これがノックオン原子のカスケードド(cascade)である。ただし、ノックオン原子同士の衝突は無視できる程度にそれらの密度は希薄であるとする。これが線形(linear)という言葉の意味である。また、ノックオン原子が初めに生成される点では、時間的に常に一定の割合でそれらが生成され、十分時間が経過した後のターゲット全体の状態を巨視的にみると、一つの定常状態が実現しているとみなす。これが定常(steady)の意味である。発生したノックオン原子のうち、初めに考えた平面のどちらか一方の側へ出たものが、ここで考えるスパッタリング原子である。ノックオン原子の状態を決定するのはそれらの原子の分布関数であり、それらはボルツマンの輸送方程式に従うとする。輸送方程式を適当な条件のもとで解き、原子の流れを計算してスパッタリング率を求める。

 

4.1.1スポットパターン

単結晶のスパッタにおいて、

原子の稠密配列方向(close packed direction)すなわち<011>,<001>などの方向に、スパッタリングの強い志向性がある。(Cu)の場合。

 

4.6選択スパッタリング

合金のターゲットをスパッタリングして合金の薄膜を形成するとき、ターゲットと薄膜の組成がどのようになるかについて、

いくつかの実験結果から、たとえ選択スパッタリングが行われて、ターゲットの組成が変化するにしても、変化する部分は、ターゲットの表面の厚さ~10の2乗nmの部分であること、スパッタリングが長時間つづけばある定常状態に達することが分かってきた。この組成比が内部とは変わってしまった表面の部分のことを、表面変質層(altered surface layer)という。・・・Ni(77.9%)-Cr(22.1%)の合金ターゲットをスパッタリングし、ターゲットの表面の組成は、Crの成分が増加し、一方、薄膜では、あまり大きな成分の変化はないが、Ni(78.7)-Cr(21.3)程度の組成になることを見出した。つまり、Cr rich の表面からスパッタリングされても、Ni richの薄膜がえられるという結果を得たことになり、ターゲット内でのNiの拡散とスパッタリング率がかなり大きいことがわかる。

イオンがターゲット表面を叩いて、表面変質層ができ、定常状態が実現するのは、表面変質層にある成分を供給するバルクが存在するからである。・・・したがって、スパッタリングした薄膜の時間が十分経過して形成された部分の組成は、バルクと同じということになる。

 

4.8反応性スパッタリング

4.8.1反応性スパッタリングの意味

化合物のスパッタリング薄膜は、目的とする化合物のターゲットを用いた高周波スパッタリングによって作ることもできるが、、その場合問題が生ずる。第一は、ターゲットの加工性や価格の問題である。・・・第二は、スパッタリングによる組成の変化である。スパッタリングの過程で化合物は、原子、分子に分解されることが多く、そのとき揮発性あるいは蒸気圧の高い分子は、薄膜の中に全部取り込まれることにならず、ある組成の欠乏を生ずる。

化合物薄膜の形成において、もっとも重要な化合は、基板上で生じていると考えてほぼ差し支えない。

反応性スパッタリングは、複雑な過程で、解明されていない現象も多いが、同時に何ができるか分からないという、困難だが楽しみの多い問題を提起してくれる。

 
6.1ガス混入
金属に対して・・N2は、Arに比べて10倍以上の混入を示すことがわかる。
定性的には、原子番号の小さい物質は、ガスの混入が少ないということが出来る。
バイアス電圧の上昇とともに、混入率が上昇することが分かる。
大きな陰極電圧と低い放電ガス圧が、高速中性のArガス原子を作りAr原子の混入率を高めるとしている。
ターゲットの縁に対応する場所にできた薄膜の部分で、ガス混入が大きくなることがわかる。
 
6.2.3結晶構造
多くの物質ではS膜を形成するときは、Volmer-Weber型になる。この型の薄膜中での結晶の成長は、表面上でのスパッタリング原子の運動のため、原子の吸着エネルギーの大きな吸着サイトにできた核を中心にしておきると考えてよい。
 
6.3.3スパッタリング薄膜の付着
圧力の減少とともに、薄膜・基板間に勾配のついた成分変化のある混合層が形成されやすくなること。
O2が混入するとO-ができ、電子のドリフト速度が減るが、このことはイオン化率の増加を生じ、基板からのスパッタリングもふえることになり、薄膜・基板間の混合率をあげ、付着を増加させるという考えに導く。
 
6.3.4硬さ
凹みで決められる硬さh1と圧縮応力に対する降伏応力σysとの間には、h1=3σys の関係があると言われている。一方降伏応力は、材料の結晶粒の大きさと密接な関係があり、通常Hall-Petchの関係式 σys=σ0+Kd-1/2乗で表される。ここで、σ0、Kは定数、dは結晶粒の大きさをあらわす。
AuとS膜(スパッタ膜)の硬さについてHall-Petchの関係式が成り立つわけで、結晶粒界と硬さが密接に関係しているように思われる。硬さのおもな成因の一つは、結晶粒界により転位の運動が妨げられることによるものであろう。
 
6.3.7スパッタリング薄膜の内部応力
高周波スパッタリングで薄膜をつくるとき、調べられたほとんどの種類の薄膜に対し基板に負バイアスをかけると、内部応力は圧縮性になり、正バイアスでは引張性になること、直流マグネトロンスパッタリングでは、放電ガス圧が低い時は圧縮性、高い時は引張性になることなどが明らかになってきている。そしてこれ等の現象から、高速粒子による釘打ち効果(peening effect) がクローズアップされてきた。すなわち、高速粒子がS膜に衝突すると、スパッタリング現象のほかに二つの現象が生ずる。1つはイオン注入と同じ効果で、自らがS膜の結晶格子間原子として入り込むこと、もう一つは、S膜の結晶の表面原子をはじきとばして内側の結晶に格子間原子として押し込むことである。これら二つの現象はともにPeeningといわれ、S膜の体積の膨張をもたらし、圧縮応力を発生する。
O2などが入っていて、酸化物のS膜が形成される場合には、O2の圧力増加とともに圧縮応力が増加することが観測されている。
 
拾い上げた重要と思われる、あるいは興味のある内容の文章につきましては、ブログという制約上かなり断片的になっています。できるだけ内容の主旨からずれないように選んだつもりですが、正確に理解をして頂くには、原著の参照をお願いします。この本の紹介を通じてあらためてスパッタリング現象の面白さを感じて頂き、また今後の膜開発のエネルギーとして頂ければ幸いです。