今日(19日、夕刊)の朝日新聞(大阪本社版)の舞踏評に先日神戸文化中ホールでみた、貞松・浜田バレエ団の『冬の旅』が取り上げられていました。

主人公の旅人役四人と影法師役の二人を中心とした六人がひとりの人間の心象風景を描いていく作品なのですが、舞踏ジャーナリストの菘(すずな)あつこさんによると、ダンサーひとりひとりの個性が生きていたとのこと。そのなかでも堤悠輔さんの踊りは「・・・舞台の空気を変え、作品のテーマをより観客に伝えた・・・影をまとった格好良さが前面に出てしまいがちなものだが、彼からは、人間の無力さ、格好悪さ、情けなさといったものが自然に伝わってきて、だからこそ痛いほど強く心に響いた。・・・彼の踊りは・・・あがき、悩む現代の若者の姿と重なるようにも思えた。」(菘あつこさんの文の一部を抜粋、引用)とありました。 

この記事に書かれているように、ひとりの若者の苦悩する姿を団員の方達がそれぞれに与えられた役柄の中で、自分なりの表現方法でもって踊りとおしたことで、時代や世代を超えて、その時どきを生きる人間に共通する感情や想いをひとつの大きなうねりとして、観ている側に放ってきたのを強く感じました。だからこそ堤さん(先生)の、ありのままの人間の姿を淡々と踊っていく姿を間のあたりにして、そこに自分の姿が映っているのを私自身も強く感じたのだと思いました。 一部の幕がどん、と下りた瞬間には正直鳥肌がたちました。

今年三月に起きた東日本大震災は記憶に新しいところですが、いつの時代においても多くの人間が苦難の中で、絶望を味わいながらも、一歩でも何とか前に進もうともがきながら生きていると思います。今の状態からどうしても抜け出すことが出来ず、死の誘惑に負けてしまう人もいるかもしれません。自分は必要とされている人間ではないのでは・・・と、生きること自体に疑問をもって毎日を送っている人もいるかもしれません。でも、そういう人達がいる一方で、その人たちのために自分の身を呈して手を差し出してくれる人たちもいます。 ほのかな光をその人にあててくれているそんな人たちが、あなたの周りには沢山いることを。  やさしい眼差しが、失望のなかであなたがみたもの、感じたものを共有してそれを別の方向にそっと向けてあげたいと願っていることを。 人間は自分はそうだと思いこんでいても、決してひとりではないことを・・・ラストのシーン、----ひとりの女性がキッと旅人の手をつかんで、観客の我々の方に歩きだした、その一歩の中にメッセージとしてこめられていたのではないか・・・と強く感じました。

ダンサーのひとりひとりが非常によく考えて、丁寧に踊られていたのが印象的でした。それがじかに伝わるのが生の舞台なのだと実感した一夜でした。

菘あつこさんの書かれた記事を読まれて、観てみたい?と思われた方は是非一度、機会があればご覧になってみてください。観られたひとりひとりの自分自身の中にある『冬の旅』が鮮明に浮かび上がってくる作品だと思います。

今まで意識していなかった想いが自分の内から、また外から湧き上がってくるのを感じられるかもしれません。


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