「そうですね」

 スコットが相槌を打ってから、さらに重要なことを報告した。

「それと、劉が日本へ潜入したもようです」

「なんだって! それは、確かなのか」

  劉の名前を聞いて、ヒューストンの顔が一瞬で緊張に包まれた。

 赤い金貨の利益を守るために、組織の障害になる者を排除する部隊がある。

 その部隊は、赤い守り神と呼ばれており、部隊を率いているのが劉である。

 劉は、元々は中国情報部の破壊工作員であったと言われているが、その真偽は定かではない。

 彼についてわかっていることは、殺戮を好み、特にナイフで人を切り刻むことを無情の喜びとしているということくらいだ。

 劉は、組織に楯突く者や邪魔立てをする者を排除するためには手段を選ばない。

 自分の部下ですら、平然と利用し犠牲にする。

 ましてや、無関係な人々なぞ、どれだけ巻き添えにしようが一向に気にしない。

 劉は金と女には興味がないらしく、彼が赤い金貨に入ったのは、どれだけ人を殺そうとも、組織に疎まれることがないからだと噂されていた。

「確かです。日本時間の昨夜、深夜に横浜の埠頭にゴムボートで上陸したそうです。赤い金貨に潜らせてあるモグラから連絡が入り、モレスビーとカーターが張っていたところ、情報通りに現れたそうです。二人からは、報告に間違いなし。今、劉が上陸。これから尾行を開始すると連絡が入ったそうですが、それきり連絡が途絶えていて、こちらからの連絡にも応答しません」

「劉か。また、やっかいな奴が絡んできたもんだな。モレスビーとカーターはいい奴だったが、もう生きてはいまい」

 スコットが渋い顔をして言ってから、独り言のように呟く。

「となると、オコーナーは赤い金貨に抱き込まれたか」

「あるいは、初めから赤い金貨の一員だったかもしれません」

 ヒューストンの呟きを受けて、スコットが返した。

「いずれにしても、容易ならんことだ」

「そうですね」

 そう言ったきり、二人は苦い顔をして暫く考え込んだ。

 そこへ、日本から連絡が入った。

 ヒューストンが受話器を耳に当てる。

 相手の報告を無言で聞いていたヒューストンの顔が、みるみる蒼ざめていく。

「最悪の状況だ」

 受話器を置いたヒューストンが、深いため息とともに、嘆くように呟いた。