猫の後ろ姿 1
S君の作った今年のカレンダーの猫の写真に毎日、見ほれている。なかでも、2月の雪の積もった庭を部屋の中から見つめている後ろ姿には、少し大げさかもしれないけれど感動してしまう。きっとなにか考えているんだろうなあ。「哲学者みたいね」と妻が言うのも、また大げさな言い方だけど、そうかもしれないなとぼくも思う。
この猫はS君が自分にカメラを向けていることに当然気がついていて、「撮ってもいいよ」と受け入れている。つまり、この写真にはS君と猫との、言い換えれば、撮影者と被写体の、敬意と親愛のこもった関係が写りこんでいる。
ぼくがこの写真に心ひかれてしまうのは、猫の後ろ姿がりりしくてかわいいからだけではなくて、人と猫とがお互いに認め合っている、そんな関係が読み取れるからなのだ。
ずいぶん以前に、路地で出会った猫を撮ろうとしたけれど、猫はとっとと角を曲がって行ってしまった。曲がる直前、ちらっとこちらを見た眼は、「なにしてるの、しっかりしなさいよ」とでも言っているようにぼくには思えた。
それ以来、「猫の後ろ姿」を写真に撮りたいと思いながら、そんな機会も無くて、一枚も撮れていない。そのかわり、ここに「猫の後ろ姿」と題して書いていくことにした。絵画、工芸、映画、演劇、音楽等々。人が作り出すものへの敬意と親愛を込めて、ぼくが見たものについて、その後ろ姿が消えないうちに書いて行きたい。

