【紹介】
 今回は,木戸湊太さんの小説「その塾講師、正体不明」の紹介です。
 昨年末に刊行されたばかりの新しい小説です。作者の木戸湊太さんは2020年にデビューしたばかりの新鋭で,この本を買って初めて存在を知りました。
 なぜこの本を買おうと思ったかと言いますと,私の前職が塾講師でして,タイトルにデカデカと表記された文字が目を引いたからです。塾講師を題材にした小説は,なかなかないですからね。

 

 

【あらすじ】
 個別指導塾の講師として採用された不破勇吾は,他の学生講師と比べて落ち着いた物腰で,どこか異彩な雰囲気を放っている。その塾に通う生徒に関わるトラブルを,不破は生徒といっしょに解決していく。ところが,塾の近隣で連続通り魔事件が起こるようになる。


【レビュー】 ※以下,わずかながらネタバレが含まれています。
 この小説は長編ですが,3つのエピソードで構成されています。不破は,塾講師になる前は刑事をしていて,そのときの経験を活かして,それぞれの章で起こるトラブルを解決に導いていきます。
 最初の2章は,毒親,いじめといった,普通の学園ドラマでも起こりうるような日常的なトラブルが起こるだけですが,第3章で,いよいよ連続通り魔事件という本作の軸となる部分に迫っていきます。3つの章はストーリーが連続していて,登場人物も同じなので,第1章・第2章は,いわば第3章のための伏線張りという役割を果たしています。連続通り魔事件の犯人は主要登場人物の中にいるわけですが,人数がそれほど多くないので,誰が犯人でもおかしくない(と思わせるように描かれている)という点で,ミステリーとしてとても読みごたえがあります。
 塾を舞台とした学園ドラマのテイストもちゃんと採り入れられていて,高校受験,生徒どうしの恋愛要素といったエピソードや,不破が塾講師としてひと皮むけていくさまも描かれています。
 通り魔を軸にしているので,少し物騒な雰囲気もありますが,ユーモアも効いていて読みやすいミステリー作品でした。


【こぼれ話】 ※以下,わずかながらネタバレが含まれています。
①「棘の家」との共通点
 以前に中山七里さんの小説「棘の家」のレビューを書きました。作風はだいぶ違いますが,「その塾講師~」は「棘の家」と共通点があります。
 ・主人公が教師(講師)である。
 ・主人公を除く全員が犯人の可能性がある。
 ・最後は,主人公が公園で犯人と直接対峙する。
 「その塾講師~」を読了した2か月後に「棘の家」を読んだので,どこか似ているな,と思ったものです。

②不破先生のビジュアル
 この小説には,表紙以外に挿絵が一切ないので,不破先生のビジュアルは想像するしかありません。「落ち着いている」「誰に対しても敬語で話す」「現実主義で冷徹」という人物像が作中に書かれているのですが,私が真っ先に思い浮かべたのは,漫画「金田一少年の事件簿」に出てくる明智警視です。あそこまで嫌味な性格ではありませんが,何か雰囲気が似ていると思いました。ドラマ版の「金田一~」で明智警視を演じていたのは池内万作さんですが,似た名前の俳優に不破万作さんという方がいます。そういったところも,連想に結び付いた原因なのかもしれません。