体幹トレーニングで体幹部の能力を向上させることは難しい―メッシ選手を題材に― | えばと鍼灸マッサージ院徒然日記

えばと鍼灸マッサージ院徒然日記

【川崎市多摩区】稲田堤駅徒歩3分にあるえばと鍼灸マッサージ院の院長江波戸雄一の日記みたいなブログです。
東西両医学に関する知見や、大好きな横浜ベイスターズ(NPB)、リバプール(サッカー)、お酒(ウィスキーが主)のことなどを書いてます。


テーマ:

体幹部を強化する(安定性を高めるなど)目的で体幹トレーニングに励んでいる方は多いと思いますが、

体幹トレーニングで運動中の体幹部の強さ・安定性を向上することは非常に難しいです。

※少しは向上しますが、より効果的なトレーニングは他にもいっぱいあります。

※ここでの「運動」は「陸上での運動」を指します。

 

そしていつもの如く、最初に答えです。

「(フィジカル・コンタクト時の)体幹の力を強くしたい」、「運動時の肩のブレを少なくしたい(体幹部を安定させたい)」という方は、いわゆる体幹トレーニングではなく、ひたすら片脚スクワットやランジといった片脚で行うトレーニングに励んでください。

 

「片脚スクワット」

 

「ランジ」

http://40workout.com/2013/04/walking-lunge/より

 

「クロスオーバー・ランジ」

http://ameblo.jp/motoakikobayashi/entry-11921717910.htmlより

 

特に下記参考動画のサイド・アンド・クロスオーバー・ランジは自重(+クローズド)のトレーニングでは最強だと思います。

 

参考動画(外部サイト)

リバース・ダンベル・クロスオーバー・ランジ

サイド・アンド・クロスオーバー・ランジ

 

【体幹トレーニングで体幹部の能力を向上させにくい理由】

さてここからは体幹トレーニングで体幹部の能力を向上しにくい理由をツトツトと記していきます。

少々分量がありますので、「理由はどうでもいい」という方は、上記のトレーニングを愚直に実践してください。

 

・「体幹部が強い、安定している」とは?

まず「体幹部が強い、安定している」という言葉が、実際にはどのような状態を指しているのかを考えていきたいと思います。

ボディコンタクトや移動方向の切り替えが頻繁にあり、運動中の体幹部の安定性がパフォーマンスの鍵を握るサッカーを題材にして考えていきたいと思います。
現在、過去を含めてもトップクラスに「体幹部が強いor安定している」と言われるであろうアルゼンチン代表・バルセロナ所属のメッシ選手の実際の運動の様子を題材してみます。

※便宜上、地面に着いている側の脚を「軸足」と表現させてもらいます。


☆画像1

こちらはボールを追って敵と競り合っているシーンです。

この場面、メッシ選手(左)の軸足(左脚)は地面に対して45°近く傾いていて、重心が軸脚の外側にあります。バランスを保つことは非常に難しい体勢ですが、重心の移動によって相手を押すエネルギーを生み出しています。

しかし肩のラインはほぼ地面と平行で、「体幹部は安定して」います。

 

☆画像2

こちらは恐らく画像1の直前のシーンです。

メッシ選手(左)は空中に浮いた状態なので、競っている選手#2はこの瞬間にメッシ選手を押せば、自分がボールをキープできるはずです。

しかし選手#2は軸足(右脚)が30°程しか傾いておらず、メッシ選手の様に重心を軸脚の外側に大きくずらすことができていません。

重心移動によるエネルギーが十分に得られず、メッシ選手を押し出すことができなかったのでしょう。次に自分が空中に浮いた瞬間にメッシ選手に押されてしまい、画像1の様にメッシ選手に前に入られてしまったのです。


ちなみに画像1の直後には完全にメッシ選手がボールをキープしています。

 

以上からこの競り合いの場面でメッシ選手と選手#2の違いは、「重心の移動距離(=相手を押すエネルギー)」であり、「メッシ選手の方がより多くのエネルギーを生み出せていた=体幹部が強い」と言えると思います。

「重心の移動距離」を大きく稼げると、「体幹部が強い」という状態が作れるようです。

 

・「重身の移動距離の違い」の原因は?

では次にメッシ選手と選手#2では重心の移動距離が異なってしまった原因について考えていきます。

先ほどの画像に補助線を加えていきます。

 

☆画像1’

緑線が背骨(脊中)、○が股関節、紫線が左右の股関節を結んだ直線、赤線が軸足のだいたいの位置を示しています。

 

☆画像2’

メッシ選手と選手#2でどこが違うのか少し考えてみてください。

 

2つの画像を隣に並べてみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更にヒントです。

肩の先(肩峰)と股関節(上前腸骨棘)を結んだラインは2人共ほぼ長方形をキープしていると思います。

むしろメッシ選手の方が、手で相手を押している分、体幹部は捻じれている様にすら見えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは私江波戸の考えです。

メッシ選手と選手#2では、股関節の内転角度が大きく異なると思います。


☆画像1’’

 

☆画像2’’

メッシ選手は30°程股関節を内転しているのに対して、選手#2は5~10°程度しか内転していません。

この「股関節の内転角度」の違いが「重心の移動距離の差=エネルギーの差」を作り出していたのです。

 

「運動中の体幹部の強さ、安定性」の鍵は「股関節の内転角度の深さ」にありそうです。

※股関節内転が深くなると、重心の位置も下がるのですが、今回は割愛します。

 

・メッシ選手は何故股関節を深く内転できるのか?

次にメッシ選手が股関節を深く内転できる理由について考察していきます。

「股関節を内転させた状態で立つ」ためには、股関節外転作用を持つ筋肉が筋力発揮する必要があります

この作用をもつのが、「中殿筋」と「大殿筋(の外転成分)」です。

『プロメテウス解剖学 コア アトラス 初版』より

右の臀部を後ろから見ています。

 

『プロメテウス解剖学 コア アトラス 初版』より

右の中臀筋と大殿筋を右側から見ています。

 

☆画像3

この瞬間、メッシ選手の右の中殿筋と大殿筋が筋力発揮して、身体が倒れないように支えているのです。


しかも筋肉には「ストレッチされた状態で収縮しようとすると、そうでない時よりも大きな力が必要になる」という性質があります。

トレーニングされている方であれば、上腕二頭筋のトレーニングとして有名なインクラインダンベルカールを想像してもらえれば理解しやすいかと思います。

 

画像3の瞬間、メッシ選手の右の中殿筋はかなりストレッチされた状態で、しかもエキセントリックな筋力発揮を強いられています(よくわからない方は、とりあえず「かなりの筋力が必要」とご理解ください)。

恐らくこの中殿筋と大殿筋の外転成分が異様に柔軟で、かつ強靱な筋力があることが想像されます。

そしてこれらの筋肉を鍛え、柔軟性を向上させるのが、冒頭に挙げた片脚スクワットなどのトレーニングなのです。

 

片脚スクワット」を行うと、骨盤を水平に保つために股関節外転作用が発揮されます。

片脚スクワットしながらお尻の上部(中殿筋)を触ってみれば、筋肉が硬く収縮しているのがわかるかと思います。


・脚の内側への重心移動

 

☆画像4

他方で、上の画像の様に脚の内側に重心を大きく移動させる(方向転換する)ケースがあります。

この体勢ではいくらバランスが崩れても、内側の脚を着くだけでバランスを回復することができます。

そのため今まで述べてきた脚の外側への重心移動と比べると、バランスを保つのが非常に容易なので、「体幹部の強さ、安定性」にはさほど大きな影響はないと思いわれます。

このことはスキーやスケートをやったことがある方でしたら、片足で滑った時に内外どちらのエッジで滑る方がコントロールが難しいかでご理解いただけるかと思います。

 

「アウトエッジに乗った瞬間」

http://inlineskate.jp/howto/basic/8circle_backcrossover.htmlより

 

以上から、「体幹部が強い、安定している」という表現は、「重心が大きく軸足の外側に移動してもバランスが崩れない(立っていられる)」という要素が非常に大きなウェイトを占めていると考えられます。

筋肉の側から表現すると「中殿筋全体と大殿筋の股関節外転部分の柔軟性と筋力が十分にある」ということです。

言葉にすると小難しいですが、要するに画像1・3の状態でも安定して立っていられるということです。

 

・「体幹トレーニング」で鍛えられる部分

さて次に「体幹トレーニング」とはどういったものか確認します。

巷で行われている「体幹トレーニング」の多くは、プランクやサイドプランク、バッグブリッジといった種目で構成されています。

 

「プランク」

https://welq.jp/images/51811より

 

「サイドプランク」

https://www.rankingshare.jp/rank/wrgrqzaizb/detail/8より

 

「バッグブリッジ」

http://www.ehealthyrecipe.com/recipe-webapp/taikan/training_14.htmlより

 

サイドプランクは股関節外転の筋力発揮があるので、中臀筋を鍛えることができます。

しかし、これらの種目は主に腹筋や背筋、腹斜筋といった体幹部に静止状態で負荷を掛ける種目です。

一方、メッシ選手の画像で確認したように、「運動中の体幹部の強さ、安定性」とは「股関節を内転させた状態でバランスを保てる」ことによって実現されます。繰り返しになりますが、このためには「中殿筋と大殿筋が柔軟且つ強靱であること」が最重要となります。

 

以上から体幹トレーニングは腹筋、背筋といった体幹部にある筋肉を単純に鍛えるには(ある程度)有効だと思いますが、「運動中の体幹部の強さ、安定性」を向上させるためには不十分で、片足スクワットやランジの方が有効だと考えます。

 

http://www.fitnessjunkie.jp/archives/2231より

上の様な体勢を取れたからと言って、「体幹部が強い、安定している」となるとは限らないのです。

 

ちなみに軸足と臀筋の関係についての記事でも触れたとおり、多くの場合、利き手、利き足の関係から、利き足側の中臀筋は弱くて硬いことが多く、片足で立った時の安定性も低いです。

そのため、右利きの多くの方は、走る際に右回りより左回りの方が得意です。

眼を閉じてその場で足踏みすると、回転してしまうのもほとんどこの臀筋の左右差によるものと思われます。

http://plaza.rakuten.co.jp/pastaoyama/diary/200807170000/より

 

しかし画像1・2からもわかるとおり、メッシ選手は左右どちらの脚で立っても重心を大きく移動させることができます。このため特に「体幹が強い、安定している」と言われるのだと思います。

もちろんメッシ選手の脚が短く、脚が長い選手よりも重心が低いことも体幹部の安定に貢献していると思いますが、公称170m67kgと小柄なメッシ選手が、180cm以上の屈強な選手を相手にしても上体のバランスを崩さずにドリブルできるのを「脚の短さ」だけに求めるのは、少々強引かと思います。

十分な股関節の柔軟性と筋力による「重心の移動エネルギー」は見逃せないと思います。

 

メッシ選手だけを例に挙げていると、ほとんどの選手が左右の股関節共に安定して立てると勘違いされてしまうと思いますので、最後にかなりハイレベルな選手でも股関節の柔軟性と筋力が左右で異なる例を示したいと思います。

 

ジョーダン・ヘンダーソン選手(イングランド代表リバプール所属・右利き#14)

画像中央がヘンダーソン選手です。

やはりレッズでジェラード選手からキャプテン・マークを引き継ぎ、イングランド代表にも名前を連ねるだけあった、利き足と反対の左脚で立った時は、これだけ不安定な体勢になっても、重心に対して適切な角度、位置に脚を置くことができています。

体幹部は見事にバランスを保っていると言えると思います。

 

左端がヘンダーソン選手です。

一方で利き足の右脚で方向転換すると、股関節の内転が十分に行えないために、重心に対して脚が適切な位置になく、体幹部を無理やり曲げて(左側屈して)重心の移動を図っています。

体重移動の方向が少し異なりますが、右隣のマルシアル選手#9(右利き)と比べると、その差は一目瞭然かと思います。

 

ちなみにヘンダーソン選手は右踵の痛みに長年苦しんでいます。

恐らくこの右脚で立った時の不安定さが、下腿や足部の辺りに無駄な筋肉の疲労やコリを作ってしまい、踵の痛みを引き起こしてしまっているのではないかと私は考えています。

私の普段の臨床でも、シンスプリントや、膝痛といった脚の異常や痛みの多くは、この股関節、特に中臀筋の筋力、柔軟性の低下が根本的な原因となって引き起こされるケースが多いように感じています。
 

※2018年9月28日追記

「【考察】ジョーダン・ヘンダーソン選手の左踵の痛みが起きていない理由」と題して、ヘンダーソン選手の踵痛についても考察してみました。

よろしければご覧ください。

 

「体幹を安定させて、競り合いに強くなりたいor手足にしっかり力を伝えられるようになりたい」、「走る時の肩、目線のブレを小さくしたい」など「体幹部の強さ、安定性」を向上させたいとお考えの方は、体幹部ではなくお尻の筋肉、特に中臀筋を鍛えましょう!!!

 

なおロジカル・エクササイズでは、上記の方法に関する指導も行っています。

 

参考記事

「「インナーマッスルのほうが重要」は誤解 【スポーツ・トレーニングの都市伝説】」

「体幹トレーニングには特別な効果は無いし、ダイエット効果も低いと思う」

「軸足の存在によって生じる臀筋の左右差とその解消方法~ランニング中に起きる膝痛を題材にして~」

「ヒップアップに一番効くエクササイズはこれっ!!!」

 

関連記事

「サッカー選手に必要な筋肉とその鍛え方「広背筋」」

「ジョコビッチ選手のレシーブが強力な理由についての解剖学的考察~構え方とフットワークに関して~」

 

・トレンデレンブルグ歩行で股関節が内転?

最後に少し専門家向けのご提案です。

「中殿筋」、「股関節の内転」と聞くと、多くの整形外科疾患関係者は「トレンデレンブルグ兆候or歩行」を思い出す方が多いかと思います。

この病的歩行は「中殿筋の麻痺によって股関節が内転する」と定義されているのですが、今まで考察してきたように、股関節内転位で立位を保つには中殿筋の筋力が必要です。

恐らくこの病的歩行での内転はごくわずかで、内転させながら歩くことはほとんどなく、すぐに上半身の代償動作(患側への傾斜)を伴うディシェンヌ跛行に移行すると思います。

従って、中殿筋の麻痺は股関節ではなく、肩峰辺りの動揺具合を見た方が容易だと思います。

天下のプロメテウス様でも、そもそも「トレンデレンブルグ兆候」、「ディシェンヌ跛行」という記載しかありません。

『プロメテウス解剖学 コア アトラス 初版』p.431より

この辺りはまたいずれ時間があった時に書きたいと思います。

 

江波戸雄一さんをフォロー

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス