ある日のオフ | 同志社大学ボート部公式ブログ

 「いつも」より遅く目が覚めたはずなのに、早起きしたと錯覚する。時計は7時を回っている。世間的には早起きかもしれないと言い聞かせながらゆっくりと洗面所に向かい、歯ブラシに昨日買ったばかりの歯磨き粉をつける。新発売のハードミント味だ。目を覚ますのには刺激的すぎるくらいの辛さがからだ全体を少し震わせる。そういえば今日は僕が歯を磨く時の、シャカシャカという摩擦音で目を覚ます呑気な同居人がいない。昨日「実家に帰るんです」と言っていた気がする。

 まだ目が覚めていないようだ。どうも朝「遅く」まで眠っているのには慣れない。


 外の空気を吸いに立て付けの悪いドアを開けると、地面が少し濡れていた。早朝は雨が降っていたのだろう。ふと空を見ると雨なんか降っていなかったかのような快晴で、彼女と別れたと悲しんでいたくせして二週間後にはもう次の彼女ができていたあいつを思い出す。僕は外に出かけたくなって、いつもは食べないファストフードのチェーン店に出かけることを決意した。


 ファストフード店に行く道は二通りある。大通りと川沿いの道。僕はいつも大通りを選ぶ。煌びやかな大通りには不釣り合いな、先輩にもらった壊れかけの自転車で。


 朝限定のメニューがあるこのファストフード店はこの辺りでは人気があるはずなのに、朝のこの時間帯は空いているらしい。客は僕と、向かい側の2人席でパソコンとにらめっこしている天然パーマの中年男性だけだった。僕はその男性が早々にいなくなることを期待しつつ、運ばれてきた朝限定メニューに手を伸ばす。朝の空きっ腹に温かいハッシュポテトが溶けるように入りこんでくる。安っぽい味だが、アイスコーヒーと流し込むと格別に旨い。ある程度腹が満たされて、読もうと思ってから二ヶ月が経ってしまった小説を開く。本屋でポップの文章につられて買ってしまったのだが、書き出しから引き込まれてしまい、気づけば全体の半分以上読んでいた。向かい側の中年男性はもういなかった。


 雨が降ってきた。小雨だが、長引きそうだ。本を閉じてファストフード店から出て、先輩から譲り受けた壊れかけの自転車にまたがる。進みはいいがブレーキがききにくいので自分のを買うべきかもしれないと、乗るたびにいつも思い出す。そして、降りたら絶対に忘れている。

 でも今日はたぶん、忘れない。


 長引くと思っていた雨が止んだ。帰り道から見える見慣れた川に、見たことのないくらい大きな虹がかかっている。どこから始まって、どこで終わっているのだろう。そうだ、それを確かめるために、今日は川沿いを帰ろう。