刑事手続きの基礎「伝聞証拠と供述調書」(中)その3 | 刑事弁護人の憂鬱

刑事弁護人の憂鬱

日々負われる弁護士業務の備忘録、独自の見解、裁判外の弁護活動の実情、つぶやきエトセトラ

() 2号書面は、1号書面と同様に供述不能の場合は、緩やかに伝聞例外として許容しているが(2号前段)、矛盾供述(相反・実質的不一致)の場合は前の供述がを信用すべき特別の情況(特信性)が要求されており(2号後段)、3号書面よりは緩やかに1号書面よりは制限的に伝聞例外として許容している。検察官は準司法官として裁判官に類する公平な地位にあり類型的に信用できる、法の正当な適用を請求する客観義務を負う立場にあるためと解される。しかし、学説上は、検察官の被告人と対立する当事者性から裁判官と同様の第三者的立場ではないとして、2号書面の許容要件を厳格に解している。たとえば、2号前段の供述不能要件※は「信用性」の要件を付加するとか(通説)、「信用性」のほかに手続き的正義の制約を要求している(田宮・前掲381頁※※)

   2号後段の相反性・実質的不一致は、前の供述が詳細であるなど異なった結論を導くような供述であり、全体的に観察して相反性・不一致性を判断する。また、2号後段の特信性とは、前の供述と公判供述を比較して、具体的に外部的情況、供述内容からうかがわれる証言時の利害関係人からの圧力、記憶の鮮明さ等を考慮し判断する(相対的特信情況)。前の供述であるから、証人尋問後に新たに作成された供述調書は2号後段に該当しないが、再度証人尋問をした場合は、2号後段に該当する(判例・通説)

※供述不能の解釈

 321条1項各号の供述不能の規定は、制限列挙ではなく例示であると解するのが判例通説である。証人の証言拒否(2号書面につき最大判昭和27・4・9、1号書面につき最決昭和44・12・4)、記憶喪失(3号書面につき最決昭和29・7・29)なども供述不能にあたる。

※※2号前段書面と入管法の退去強制

 2号前段の検面調書は供述者が「国外にいるため」公判廷で供述できない場合、伝聞例外として許容するところ、手続き的正義の観点から公正さを欠く場合は許容されないとされる(判例)

すなわち、

刑事訴訟法「三二一条一項二号前段は、検察官面前調書について、その供述者が国外にいるため公判準備又は公判期日に供述することができないときは、これを証拠とすることができると規定し、右規定に該当すれば、証拠能力を付与すべきものとしている。しかし、右規定が同法三二〇条の伝聞証拠禁止の例外を定めたものであり、憲法三七条二項が被告人に証人審問権を保障している趣旨にもかんがみると、検察官面前調書が作成され証拠請求されるに至った事情や、供述者が国外にいることになった事由のいかんによっては、その検察官面前調書を常に右規定により証拠能力があるものとして事実認定の証拠とすることができるとすることには疑問の余地がある。」 「本件の場合、供述者らが国外にいることになった事由は退去強制によるものであるところ、退去強制は、出入国の公正な管理という行政目的を達成するために、入国管理当局が出入国管理及び難民認定法に基づき一定の要件の下に外国人を強制的に国外に退去させる行政処分であるが、同じく国家機関である検察官において当該外国人がいずれ国外に退去させられ公判準備又は公判期日に供述することができなくなることを認識しながら殊更そのような事態を利用しようとした場合はもちろん、裁判官又は裁判所が当該外国人について証人尋問の決定をしているにもかかわらず強制送還が行われた場合など、当該外国人の検察官面前調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは、これを事実認定の証拠とすることが許容されないこともあり得るといわなければならない。」(最判平成7・6・20)

 つまり、判例は手続き的正義の観点から不公正といえる場合に2号前段書面の証拠として許容しないという制限解釈の余地を認めたものである(ただし、事案としては証拠能力をみとめている。)

5 被告人の供述調書(供述書及び供述録取書)は、供述が①不利益な事実の承認、または②特に信用すべき状況のもとになされたときに伝聞例外として許容される(322条1項) 。①につき通常、人はうそをついて不利益な事実を認めないものであるから、不利益な事実の承認は経験則上信用性があること(ただし、自白ではない不利益承認も任意性に疑いがある場合は許容されない。322条1項但書)、②につき検察官の反対尋問の代替しうるだけの信用できる状況であれば、信用性が認められるためである(田宮・前掲386頁参照)

   ①についてはいわゆる自白調書の場合に適用される。すなわち、自白であること自体で伝聞性は解除される。よって、検察官が自白調書を証拠請求し、弁護人が不同意をしても伝聞例外としてのなお証拠請求は可能である。そこで、弁護人として自白を争う場合は、自白の任意性・信用性を争うことを同時に主張する必要がある。任意性の立証は検察官に挙証責任があるから、自白調書の請求は保留し、取り調べ経緯等の立証のため、捜査官の証人尋問、被告人質問が先行することになるのが一般である。

   ②については、被告人に有利な供述であるが(たとえば本人のアリバイを示す日記、手帳など)、弁護人側が特信情況を立証するにはやはり被告人質問等を先行させる必要がある。

第322条 

   1項 「被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。」

   2項 「被告人の公判準備又は公判期日における供述を録取した書面は、その供述が任意にされたものであると認めるときに限り、これを証拠とすることができる。」