イギリスが再生可能エネルギーへのシフトにおいて問題を抱えていて、エネルギー問題が深刻であることについては度々お伝えしてきています。イギリスは風力発電に依存しすぎている状況で、風が弱いと急遽古い火力発電所を動かさなければいけなくなり、電力料金が上がるということが近年ずっと続いてきています。

 

政権としても今の状況を打開しようともがいているのですが、そうした中で今月に入ってスナク政権が陸上風力発電の規制を緩和する方針を示しました。風が弱いと電力が確保できない中でもっと風力を増やそうという何とも苦し紛れの政策に打って出ている状況です。

 

ということで、今回はスナク政権が陸上風力発電の規制を緩和する方針を示したことについてお話ししたいと思います。まず簡単にイギリスの電源構成について最近の状況をアップデートしたいと思います。こちらは2022年のイギリスの電源構成となっています。天然ガスが38.5%と今でも一番多いんですが、続いて風力が26.8%、原子力が15.5%などとなっています。イギリスはあまり山がないので水力発電はあまり増やせないんですが、1年の半分ぐらいがずっと雨か曇りでしかも冬場は日照時間も短いので太陽光発電にもあまり適していません。

 

そんな中で再生可能エネルギーの割合を増やす目標を掲げていて、その中心を担うのが風力発電となっています。10年前までほとんどなかった風力発電がどんどん増やされてきている形です。一方、石炭火力は1.5%まで低下してきています。石炭火力は10年前までは4割を占めていましたので、この10年でイギリスの電源構成が大きく変わったことがお分かりいただけると思います。

 

ただ風力発電が徐々に増えてくる中で、風力発電から得られる電力が非常に不安定で、冬場の暖房需要が高まる時期に風が弱いと急遽化石燃料による発電を増やすということが必要になり、燃料価格の高騰もあって電気代が上がるということが起こっています。そして石炭をはじめ天然ガス火力についても今後は無くしていく方針にしているため、発電施設が古いままで効率が悪くメンテナンスも多くて、これらの発電が増えると電力料金が高騰する要因になっています。

 

昨年の冬は廃炉寸前だった石炭火力発電所を急遽動かさなければいけない事態にも陥っています。世界的にウクライナ戦争の後どの国でも少なからずエネルギー問題が起こりましたが、イギリスの場合はウクライナ戦争の前からこうした問題が起こっていました。

 

こうしたエネルギー問題において、イギリスが先進国で最も深刻なインフレを招き、そして先進国で最も低い経済成長率に陥っていること、少なからず影響を与えている形になります。政権としてなんとかこの状況を打開しなければいけないというのもありまして、脱炭素を進めながら安定した電力を確保できる原子力発電を増やそうという計画もあります。ただ、原子力発電所の建設には非常に長い時間がかかるのですぐに状況を打開することにはつながらないというのがあります。

 

政権としては化石燃料の獲得をできるだけ安定させるべく、これまで長年やってこなかった北海油田の新しい油田の開発許可も承認する方向に舵を切るなど、脱炭素推進派から反対される政策も行なってきています。ただ、だからといって火力発電を増やしますというところまではこれまで保守党としても長く脱炭素政策を進めてきたこともありまして、そこまではできない状況にあります。そうした中で電力を安定させなければいけないわけですので、風力発電をさらに増強する方針で動いています。

 

ただ、こうした中で最近問題になっていたのが洋上風力発電のコストの増加です。風力発電には大きく分けて陸上と洋上の2つがあります。この2つを比較した時に、洋上の方が建設コストもそして維持費も非常に高くつきます。当然海中にあるわけですので、建設だけでも大変ですから、そこに建設したりメンテナンスをしたりというのはコストがかかるのは容易に想像できます。イギリスはこれまで風力発電の大部分を洋上に建設してきているのですが、最近採算が合わなくて建設を取りやめるケースが増えてきていました。

 

電力を安定させて電気代を抑えたくてやっているのにますます電気代が上がってしまうようなら、洋上風力発電を増やすことは難しくなるというわけです。こうした状況になったため、今もう陸上風力しかないということでスナク政権は陸上風力発電を緩和する方向に動き出した形です。

 

ちなみになんでこれまで陸上風力はやってこなかったのかですが、もう詳しい人も多いと思いますが、陸上風力は騒音の問題があるほか、景観を損ねることへの反対も多いのが現状です。今の規制ですと近年、住民の中で一人でさえ反対する人がいる場合は建設を許可しないとしているそうですが、これを住民の過半数が支持する場合、建設できるようにするということです。とはいえ、それなりに反発が起きると思われますが、政権としてはもう他に電力問題でやれることがないといった状況ですので、推し進める形になるでしょう。

 

ただ風力発電をいくら増やしても、電源構成というのはやはりバランスが非常に重要です。風が吹かない時に電力が不足しがちな中で風力発電を増やしても安定的な電力の獲得にはつながらない可能性があるでしょう。ですので、イギリスのエネルギー問題はまだまだ続いていくことになりそうです。

 

ということで、ここまでスナク政権が風力発電の規制を緩和する方針を示し始めたということについてお話しました。ここで一つコメントの紹介をしたいと思います。いつもたくさんのコメントをいただきありがとうございます。皆さんに改めてお伝えしたいなと思うものをピックアップさせていただいているんですが、今回紹介するのは先日のドイツの移民に関する動画の中でいただいたコメントです。どういう内容だったかといいますと、「必ず成長する必要ってあるのかな?税金確保のために人口を増やす安直な理由ではらしさがなくなる」というコメントです。これは経済成長を維持するために移民を入れるという話に対して、「必ず成長しなくてもいい」とおっしゃっているんだと思います。

 

確かに、「必ず成長しなくてもいい」というのはごもっともというか、そういう選択肢があってもいいと私も思います。ですが、現実問題として今の政治家は特に政権を取るような主要な政党はそうしたことは絶対に主張しません。これはなぜかと言いますと、そもそも今の社会の仕組みが経済成長を前提にしている部分が多いので、成長を目指さないということになると相当様々な部分を作り変える必要があるので、そこまでのことをやろうというかできる政治家がいないというのが現状です。

 

成長を前提にしているというのは例えば年金だったり、医療だったり社会保障の部分がすぐに思い浮かぶと思います。ですが、それ以外にもたくさんあるでしょう。経済成長を前提に社会の仕組みを作ったというか、経済が成長している時に先のことをあまり考えないでいろいろなものを作ってそれを後々維持していこうと思うと、経済成長していくしかないという状況になっているというのが適切な説明かもしれません。

 

経済成長を前提にしているというのは、例えば地方の過疎化が進んでいるところではいろいろなサービスが行き届かない地域があると言われています。経済成長を諦めればもっともっとそうした行政サービスなんかを諦めなければいけなくなるということです。イギリスみたいに穴だらけの道になっても直せない、救急車を呼んでも来ない、病院に行きたくても2週間は待たされる、窃盗にあっても警察は対応しない、成長せずに財源がなくなっていくとこうしたことを受け入れざるを得なくなっていく可能性があるでしょう。ただ、成長さえすればそれらがうまくいくというわけではありません。イギリスなんかも一応移民を入れまくって経済成長自体はコロナ前まではそれなりに順調でした。それでも救急車は来ない、道はボロボロ、病院にはかかれなかったわけです。イギリスの場合は1970年代頃からずっと時間をかけて悪化してきているので、日本とは一概に比較できるものではありませんが、それでも成長を維持すればいいということではないのはイギリスの例からもわかります。

 

ですので、最初のコメントにもつながりますが、経済成長を維持するために移民を入れて成長を引き上げさえすればいいということではないんだろうと思います。ということで、回りくどい説明になってしまったかもしれませんが、経済成長しないと社会保障やインフラなどが維持できなくなるというのは事実ですが、やみくもに成長率だけを引き上げればいいということではないということだと私は考えています。