今回はまた債権の、世界の人しかあまり知らないと思われる、タームプレミアムというものについてお話ししたいと思います。一般の方はタームプレミアムと聞いてもなんじゃそりゃという感じだと思います。結構マーケット関係のこと詳しい人でもほとんどの方が知らないのではないかと思います。

 

このタームプレミアムというものがアメリカで今急激に上がってきていまして、債権の世界ではちょっと注目されています。債権市場に興味がある方、債権市場が株式市場にどういう影響を与えるかなど興味がある方は知っておかれるといい知識だと思います。

 

まず、タームプレミアムというものが何なのかなるべく分かりやすく説明したいと思います。タームプレミアム、タームというのは期間のことです。そしてプレミアムというのは上乗せされた価値のことです。つまり、期間に応じて上乗せされる利回りのことです。

 

もうちょっと詳しく説明しますと、よく「10年金利はどうやって決まるか」という説明の時に、「10年金利は短期金利の10年分の合計ですよ」と説明されることがあると思います。ですが、実際には短期金利の10年間の合計と10年金利は同じにはなりません。なぜかと言いますと、普通に考えれば分かることかもしれませんが、期間が長くなるほど求める利回りが高くなるからです。ですので、期間が長くなるにつれて求める利回りが高くなる、これがタームプレミアムです。

 

なんか当たり前じゃないかと思うかもしれませんが、実はこれがずっとマイナスで推移してきました。こちら、ニューヨーク錬金が公表している10年の米国債のタームプレミアムの推移を示したものです。長らく、このタームプレミアムがマイナスで推移していたのですが、最近の金利上昇で2021年以来約2年ぶりにプラスになってきたと話題になっています。

 

そもそもなんでタームプレミアムがマイナスになったのか。普通、期間の長い債券の方がその間に政府の財政状況が悪化してお金が返ってこなくなってしまう可能性があるので利回りが高くなる、つまりタームプレミアムがプラスになるのが普通です。ですが、長い間タームプレミアムはマイナスで推移していました。タームプレミアムがマイナスということは、短期債の10年間の期待リターンよりも10年債の利回りの方が低いということになります。

 

ではなぜそのようなことが起こっていたのか。これはFRBの量的緩和によってタームプレミアムがマイナスにまで押し潰されていたというのが理由です。これはアメリカだけではなくて、世界の多くの国際市場で長らくタームプレミアムがマイナスとなっていました。ところが、アメリカにおいては最近の金利上昇でこのタームプレミアムが久しぶりにプラスに転じてきた形です。

このタームプレミアムが上昇してきたのは、FRBが今量的引き締めを行ってきて、その効果が徐々に現れてきた結果とも言えます。FRBは2022年6月から保有している国債などを減らす、いわゆる量的引き締めを行ってきています。当初は月単位で47500ドル保有する債券を減らしていましたが、2022年9月以降は毎月950ドルペースで保有債権を減らしています。

 

金融緩和が行われてきた中で、国債を大量に購入する量的緩和政策の影響でこのタームプレミアムはマイナスにまで低下していたわけですが、2022年以降はその逆戻り、量的引き締めに移行していますので、保有国債を減らしていけば、これまで潰されていたタームプレミアムが上昇してくるのは容易に想像できることです。つまり、量的緩和の中ではFRBがあまりに高い価格で買うのでプレミアムが-2まで低下していたということです。

 

このタームプレミアムがプラスになってきたということは、ようやく金融市場が正常化してきた、まともになってきたということの現れとも言えます。ということで、今債権市場で起こっている急激な金利上昇の背景には、量的引き締めによってタームプレミアムが上昇してきているというのも影響している形です。

 

今、量的引き締めが行われる環境化、タームプレミアムが低下に転じるのは難しいと見られ、今後このタームプレミアム上昇というのも国際の利回りが高水準で推移する要因になっていくものと見られます。おそらく、この傾向はアメリカの金融政策が緩和方向に大きく方向転換するまで続いていくことになるのではないでしょうか。

 

ここまでタームプレミアムが上昇してきていることについて解説しましたが、ちょっと分かりにくかったかもしれません。10年間の短期金利の合計と10年国債の利回りの比較という話をしましたが、これは単純に今の短期金利と10年国債の利回りの差を見ればいいというものではありません。なぜかと言うと、例えば1年の短期金利の10年分というのが今の1年金利×10ではないからです。1年金利1年後スタートの1年金利、2年後スタートの1年金利、3年後スタートの1年金利と10年先まで合計していくイメージです。いわゆるフォワード金利という概念です。

 

ただ一般の方が実際にこのタームプレミアムの計算までできる必要はありません。一般的には先ほどお見せしましたように、ニューヨーク錬金が公表している数値などがよく使われていますので、それらを見れば十分です。

 

そして、タームプレミアムというものが長い債券に上乗せされる利回りであるということ、そしてそれが長らくマイナスで推移していたことなどが分かっていれば十分だと思います。

 

ということで、今回は債権のタームプレミアムについてお話ししました。タームプレミアムが上昇してきていて、今後も上昇傾向が続きそうですよ、とお話ししましたが、これは国際の利回りを決定する1つの要因に過ぎません。先ほどもお話ししましたように、短期金利10年分の期待値が下がれば10年国債の利回りは下がることもあります。ですので、マーケットの予想を立てる時、投資を行う時は色々な要素に分解して、1つの要素だけで見るのではなく、他方面から考えることが必要になります。

 

ということで、本日はちょっと難しい話になりましたが、債権のタームプレミアムについてお話ししました。