読み歩き、食べ歩き、一人歩き(523) 追悼―石塚省二先生のこと | DrOgriのブログ

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おやじが暇にまかせて勝手なことを書くブログです。日々の雑記や感想にすぎません。ちらっとでものぞいてくだされば幸せです。

今年の日本社会学史学会は、さびしい学会でした。
参加人数が少ないとか、会場が山の上だとかということではありません。

石塚省二先生がいらっしゃらないからです。
先生は、およそひと月前、5月24日、肺炎のため亡くなりました。
享年、63。
まだ若い、惜しい死です。

学史学会の大会は、ほぼ恒例のように、先生の報告が「トリ」でした。
その風貌、語り口、手書きのレジュメ、自著の紹介・・・
まさに学史学会の「名物」でした。

昨年の学会懇親会での写真




今年もまた、報告の「トリ」は石塚先生が行うはずでした。
プログラムには先生のお名前も報告題名も載せられていました。
当日、先生の最後の著書の写しが配られました。
懇親会の冒頭に、短い「偲ぶ会」」が開かれました。

「省ちゃんがいないと、さびしいね」・・・新先生がしみじみとおっしゃいました。



2012年の社会学会で、石塚先生と。



同じく、控室で。




石塚先生の経歴と業績について私などが拙い紹介をするまでもないのですが、簡単に述べます。
 先生は1951年に茨城県に生まれました。
 東京外国語大学モンゴル学科を卒業。
 東京大学新聞研究所を経て、東京外国語大学大学院修了(国際学修士)。
 ポーランドのヤギェヴォ大学にて、研究員、講師を歴任。
 同大学より人文博士号を最優等で授与。
 帰国後、富山国際大学を経て、東京情報大学教授。

 ジェルジ・ルカーチ研究の世界的な権威であり、独特の「ポスト・モダン」論を展開しました。

 主要著作
『社会哲学の原像 -ルカーチ<知>の世紀末-』(世界書院、1987年)
『ポスト現代思想の解読 -近代の<原ロゴス>批判に向けて-』(白順社、1992年)
『歴近代の終焉と社会哲学 -東欧革命のアンプリカシオン-』(社会評論社、1994年)
『<現在>市民社会への社会哲学的考察 -六つの講義から日常的ポストモダン状況にある社会を読み解く-』(御茶の水書房、1995年)
『ルカーチの存在論 -欲望・他者・自然のトリオロジー-』(東京農大出版会、2004年)
『ルカーチ入門―マルクス・ルネッサンス』(いなほ書房、2010年)
『ポストモダン状況論―現代社会(2008.9.15リーマンショック・2011.3.11福島以後)の基礎論―』(柘植書房新社、2014年)

石塚先生は語学の達人として有名で、モンゴル語から始まって、
英独仏語はもちろん、スラブ東欧系(ロシア、ハンガリー、ポーランド)の言語も堪能でした。ISA(国際社会学会)でも活躍され、ジェフ・アレグザンダーなど海外の多くの優れた理論家たちと親交がありました。この7月に横浜で予定されている世界社会学会議も楽しみにしていらっしゃいました。

先生は、たいへんに気さくな方でした。
年長者や先輩には丁重でしたが、大家にも学生にも分け隔てなく接していらっしゃいました。
私のような者にまで、時にユーモラスに、時に真剣に、様々なことを教えてくださいました。
学会の懇親会が終わった後、二人きりでお茶を飲む機会が何度もありました。

昨年の社会学史学会では、懇親会が終わり、京都駅の近くの喫茶店で震災のことや復興のこと、ユダヤ人差別のこと、様々に貴重なお話を伺いました。レイシズムに対する深い怒りが伝わってきました。
話に夢中で、先生は新幹線に乗り遅れ、宿を一緒に探すことになってしまいました。たいへん申し訳ないことをしましたが、それも今では大切な思い出です。

先生のご本は難しいのですが、お話はたいへん分かりやすく、多くの学生から、後輩から親しまれていました。

因縁話めきますが、なくなるひと月ほど前の4月15日の夕方、先生から突然携帯に電話がありました。
最初は恵贈した私の本のお礼などでしたが、突然「理事選挙の名簿、来た?」とおっしゃいました。「はい、来ています」と答えると、「実は、○○さん、名簿に載っているけど、この人死んでるよね」「え?、ああ、そうなんですか。」
話はそれで終わってしまいました。
それが、先生からかかってきた最初で最後の電話になってしまいました。

「『愛と妄想のニーチェ』、題名がいいね、愛と妄想の、なんて」・・・電話ではそんな風におっしゃってくださいました。
誰よりも一番感想をお聞きしたい先生でした。あのとき、もっとお話できればと思うと悔やまれます。

個性的でチャーミングで、実にいい先生でした。
ご冥福をお祈りします。

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石塚先生に関わる過去記事です。

ながら勉強(番外編) in Osaka

読み歩き、食べ歩き、一人歩き(58)  飲んでばかり in Osaka

読み歩き、食べ歩き、一人歩き(383) 京都の梅雨晴れ(1)



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