振付師ロリ・ニコル氏が今季浅田真央選手に与えたショートプログラムが「滑っているだけで元気が出るようなプログラム」であるI Got Rhythm
今までどちらかというとSPは浅田選手にとって鬼門でした。対してキム・ヨナ選手はどちらかというとSPの巧者で、SPで点数をがっつり稼ぎながらFSでこけてもSPの貯金で逃げ切った試合もありました。フィギュアスケートは総合得点で競うスポーツですから、いかにSPという出だしが大切か、考えさせられますね。

先日仙台で行われたNHK杯の浅田真央選手のSPは久しぶりの会心の演技でした。ファンの方から見たらジャンプやスピン、ステップといった要素よりも、あの演技直後の浅田選手自身が自分の演技に納得できたような表情の方が印象に残ったのではないでしょうか。

プログラムのオープニングから3Aをはずして2Aで固定したことで、精神的な負担という重石の外れ、彼女が本来持っているのびやかで、且つ軽やかなスケーティングが戻ってきたように見えますし、またそれは、ポニーテールを揺らしながらお姉さんである舞さんのおさがりのオレンジ色の衣装を着て「カルメン」を滑っていた頃の、怖いもの知らずだった頃のスケーティングを彷彿とさせます。ただしあの頃よりもぐっと洗練されていますけどね。
またこのようにしてSPの完成度が高くなることによって、FSで3Aを入れる余裕が出てくるという利点があります。SPで点数を稼いでおけば、FSで3Aを入れて仮に失敗しても総合得点はそれなりに高くなるでしょう。
ただ今季の浅田選手のFSのジャンプ構成だと、SPである程度貯金をしてもFSでジャンプミスが出てしまうと表彰台の真ん中はきついはずです。このジャンプ構成についてはまた他の記事に譲ります。

バンクーバー五輪で金メダルを獲得した韓国の至宝キム・ヨナ選手が、現在羽生結弦選手を指導するブライアン・オーサー氏に師事することを決めた理由の一つに、「トリプルアクセルを習得したい」というものがありました。
3回転ジャンプはアクセルを除いて全て飛べたキム選手。そこまでアクセルジャンプにこだわった理由は、それが自分が唯一飛べない、最も難易度の高い3回転ジャンプだったからなのか、あるいは浅田選手にできて自分にはできないものだったからなのかはよくわかりませんが、オーサー氏は彼女を「君が勝つためにトリプルアクセルは必要ない」と説得したそうです。
そしてオーサー氏のもとで、基礎となるスケーティングを徹底的に繰り返し練習し、確実に飛べるジャンプも繰り返し練習して精度をあげて、どのジャンプにも加点がもらえる程度にもっていきました。
何かを手に入れるためには、何かを手放さなければならないものですが、キム選手は「真央にも飛べるのなら私だって!」という執着を手放し、現行のジャッジングシステムに則したプログラムをより美しく滑ることで、五輪の表彰台の頂点に立ったのです。
そして羽生結弦選手も、再来年のソチ五輪の表彰台の頂点に向かって、オーサー氏が修正してくれた軌道に乗っかって助走をし始めたようですね。
どんなに早く走っても、そして息を切らせても、道を間違えてしまったら目的地には到達できません。だけど羽生選手はスケートアメリカでの失敗を教訓に、オーサー氏が彼に繰り返し伝えていた「スケーティングスキルの向上」に取り組むようになり、その結果がこの95.32という男子SPの世界最高得点です。
羽生選手は性格も素直そうだから、これからもっと伸びていきそうですね。そしてSPで100点を出す日もそう遠くないかもしれません。

高橋大輔選手や鈴木明子選手、そして浅田真央選手を見ていて思うのですが、腐らずに頑張って続けているといつかいいことがあるかもしれませんよね。その最たる例が、アメリカのアシュリー・ワグナー選手かなぁと昨シーズンから感じています。
なんともいえない華やかさが出てきましたよね。恋でもしているのかなぁと思ったのですが、そういう話は聞こえてきません。「練習すれば結果はついてくるということが最近わかるようになった」ということだそうです。
確かに自分がしてきた練習を信じて、コーチを信じるということが、本番で力を出し切るためにとても大切な心構えなのでしょうね。
それにしても昨シーズンから引き続き、とても安定しているのにはプライベートの充実もあるのではないかと、勘ぐってしまいます。だって本当に綺麗になりましたから。
また女子のフィギュアスケート選手達は、浅田選手や村上選手、キム・ヨナ選手、安藤美姫選手のようにすらっとした選手が多いのですが、ワグナー選手はわりとしっかりとした体つきなので、ジャンプが大輪の花のような迫力があります。しかも見ていてまったく転ぶ気がしない。先日行われたエリック・ボンパール杯でも優勝してグランプリファイナル出場をいち早く決めていますし、今もっとものりにのっている選手なのかもしれません。