1日の休暇でリフレッシュした翌朝、朝食業務時に早速姑が「昨日大変だったのよ~、あの子たちは思った以上に動けないから、もう忙しくて。今日から更に大変だけどよろしくね」と言って来た。この頃にはありがたいことに姑たちから気に入られて日頃のお仕事の愚痴やら世間話やら色々とお話をする仲になっていた。そしてこの日からがピークに忙しい。

 

 夜の業務はそれはそれは忙しかった。サービスが行き届かないし、あれが足りないこれが足りない、何処のテーブルの料理が出せていない、目の回る忙しさでそれはまさに戦場だった。姑たちも手が回らないから、私を見つけては「この料理持ってて~!」「○番テーブル見てきて~!」「飲み物行ける?」等彼女たちの手となり足となり動き回った。業務後には「あなたが居なかったらダメだった」「頑張ってくれてありがとう」など優しく声を掛けてくれてありがたかった。どんなに忙しくても残業は無くて、後片付けが山積みでも私は時間になると帰らせてもらった。姑たちは夜中まで働いていたようで翌朝も早いのに大変だっただろう。この職場ではどんなに暇でも8時間、どんなに忙しくても8時間、臨機応変に動くことは無かった。それと同時にどんなに忙しくても休みの人が居るのが不思議だった。忙しい日は総出で戦わなくてはならない戦場で余裕は少しも無いはずなのに。そして今までの経験上繁忙期はフロントの人だろうが支配人だろうがどんなに偉い人でも洗い場に入ったり、手薄なポジションを補っているお宿が多かったが、ここのお宿では他所のポジションの人が手伝うシステムは無く居る人で戦うしかない状況だった。

 

 最悪の戦場は翌日だった、連休ピークに忙しい日、いまだかつて見たことの無いような戦場が待っていた。その日は研修生の一人が休日で戦力減、前日フル戦力でもあれほど忙しかったのに更に忙しい日に戦力ダウンするとは恐ろしい。そして見事に地獄絵図のような戦場だった。お客様をお待たせすることが多く、あっちもこっちも呼ばれては「頼んだのにまだなのか?」「何度も呼んでいるのに全然来てもらえない」等各テーブルで怒られる。更に研修生に頼んだのに研修生が日本語を理解出来ずに「オマチクダサイ」で待たせたままだからお客様のクレームが更にクレームを増してしまう悪循環。お料理を出すのが追い付かず、怒ってお食事の途中で帰ってしまったお客様が居た。こんなお宿は初めてだった。テーブルの呼び出しボタンが沢山光っているが誰も対応できない程忙しい。出来ないものは出来ない、人手が足りなくても居る人で回さなければならない、その現実を会社にわかってもらいたいと姑たちは嘆いていた。そもそも座席が足りずに2回転させなくてはならないのも既に無理な状況だった。お帰りになったお客様の席を直ぐに片付けて次のお客様の準備をしなくてはならないのは分っていても対応できるスタッフが居ない。結果、次のお客様が来てしまいしばらくお待たせさせる。これはフロントが夕食時間をお客様に聞く際に何故もっと時間を空けないのか不思議だった。何でもかんでも詰め込んだ結果、お客様にご迷惑をお掛けする。予め夕食時間を決めても、結局その場で長い時間待たせてしまう。2回転させるのであれば時間に余裕を持つなり、誰かヘルプで手伝ってくれなければとてもではないが間に合わない。

 

 もう、どうにもならない状況でこんなにご立腹なお客様が多いお食事処で本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。繁忙期は高い料金でお泊りに来て、まともなサービスを受けられず、悪い印象しか残らないであろう。繁忙期は絶対に旅行したくないと心から思った。繁忙期の為の短期派遣なのに、今回は私1人しか短期派遣は採らなかったと言う。海外研修生が多い職場で日本人スタッフが少なく、人件費を削るとこのような状況が待っている。結果的にクレームが増え、クレームによっては飲み物代をサービスしていた。バイキング会場でも同様に長蛇の列で捌ききれずに地獄だったと言う。バイキング会場もホールのほとんどが外国人スタッフで多国籍軍で戦うには戦力が弱すぎたようだ。