私の湯治の原点だったと思える仕事があった。

 

 湯治生活を始める10年以上前の話。何気なく眺めていた派遣会社の求人に今まで見たことの無いような案件があり、即クリック、直ぐに仕事が決まった。何事も善は急げ、迷う暇などなく直感で直ぐにクリックしちゃうタイプ。

 

 仕事内容は2泊3日で大型温泉施設で行われる学会の運営。学会自体は2日間なので多くのスタッフは1泊2日の業務になるが、善を急いだ結果選抜された4名だけは準備からお手伝いするため2泊3日の勤務となった。宿泊付きの珍しい仕事だった。「温泉」に反応したのでスタッフ同士相部屋になることなどあまり考えていなかったし、同部屋だからと言って別に仲良くする必要は無いと割り切っていた。とりあえず温泉に入れるだけで十分で多くを望まず。

 

 初日の午後、温泉に到着。選抜された4人の女性、挨拶を済ませてこの時点ではまだよそよそしい空気。初日は会場準備と聞いていたがそれほど仕事が無いようで、喫茶コーナーでコーヒーでも飲んでと指示されて私たち4人はコーヒーを飲みながらくつろいだ。この時点で実は全員が温泉目当てで仕事を引き受けたことが判明、急に仲良くなり始めた。年齢は20代~30代。初日の仕事をサクッと終わらせて部屋の鍵を渡されて4人で部屋に向かう。昔の修学旅行みたいに相部屋の和室で私たちのテンションも上がる。夕食の時間だけ決めてその後は自由時間。私は水着を持参していた。お宿のHPで事前に予習していたらプール付きだったので水着持参でプールで泳いだ。

 

 夕食はバイキングだった。4人で一緒に夕食を過ごしすっかり私たちは仲良しになった。夕食後はそれぞれ温泉に入り、仕事のことなど全く考えないでただただ癒された。温泉に泊まって食事も付いて、これで3日間分のお給料ももらえるわけだからこんなに幸せなことは無い。きっとこの時点で私の湯治心が芽生えてしまったのかもしれない。

 

 2日目の朝、もちろん早起きして朝風呂へ。朝食バイキングも4人で食べ、いよいよ仕事。この日から1泊2日の勤務者が到着して沢山のスタッフで賑わう。私は1人、特殊なポジションで物販コーナーに1人座って店番。2日間でほぼ売れない物販だったのでほとんど座ってくつろいで終わった。2日目の夜も私はプールで泳ぎ、4人で食事をして、各自温泉に入り、楽しい時間を過ごした。

 

 3日目、最終日は朝風呂だけ入って、仕事をして夕方には解散して無事帰宅。2泊3日があっという間で、予想以上に楽しくて温泉も満足だったしこの仕事が良い縁となり同部屋になった4人はその後も仲良く食事に行ったり、温泉に行ったり、楽しく過ごす仲となった。

 

 そしてある時から「10周年を同じ温泉で過ごそう」と決め、実際に出会って10年後同じ温泉にお泊りに行った。いつも私たちは「あんなに楽しい仕事は無かった」「まさかこんなに縁が続くなんて思っても居なかった」と感慨深い思いを抱いていた。

 

 貴重な仕事に巡り会え、出会いに感謝し、湯治の幸せさに気付かせてもらえた。湯治の原点とも言える2泊3日だったと思える。