50代男性、初診の患者さんです。

二週間ほど前、トレーニング中に激しく転んで全胸部を強打。以後痛みが取れないということで来院となりました。

 

「そんなにひどく転んだんですね。」

「はい、すごい音がしました。」

「何か固いものにぶつかりましたか?」

「ただの地面です。」

 

こちらに来る以前に、整形外科に行っており、レントゲン写真をとってなんともないから、内科で診てもらうように言われていたようです。こちらでも胸部写真と心電図を撮り、問題となる所見はありませんでした。

 

「少しずつ良くはなっているんですよね?」

「はいそうなんですが、まだ深呼吸とか走った時に痛くて。以前肋骨を折った時はもう少し早く良くなりましたし、整形外科で異常ないと言われたので、肺や心臓がどうかなっているかと思って。」

「そうなんだね。結局動いた時に痛いんだから、なにか傷はあるんだと思うよ。」

「そうなんですか?何も問題ないって言われたんですけど。」

「そうなんだね。でもちょっとした傷、たとえば打撲とか擦り傷はレントゲン写真には写らないのよ。」

「なるほど。」

「だけど傷が治っていないから、動かすと痛くなるんですよ。なので、大切なことは痛みが治るまで安静にしていることなんです。もしだんだんひどくなるようなら、また詳しく調べてみましょう。」

「そうなんですね、わかりました。」

 

検査で異常がないという事は、実際に何も異常がない場合と、異常があってもその検査では分からない二つの事を意味しています。

特にレントゲン写真など解像度の低い検査の場合にはそれが起こりがちです。しかし、胸部の怪我で、レントゲン写真に異常が発見されず、なおかつ症状が徐々にでも改善していく場合には、その怪我の今後については、これ以上心配する必要はないと思います。

その辺りをきっちりと伝える事がとても大切で、逆にうまく伝わらないと「実際には悪い何かが起こっていて、手遅れになるのではないか」という不安が拭えなくなってしまいますので、注意ですね。