今回はこういうお題でいきます。ロジャー・コーマン氏は、日本では
知る人ぞ知るという存在のハリウッド映画のプロデューサー(制作者)で、
自ら多くの作品の監督をも務めました。B級映画の帝王などと呼ばれ、
その方が、今年の5月9日に98歳で亡くなられてるんですね。
さて、このコーマン氏、かなりの長期間にわたって、低予算の
インディペンデント系娯楽映画を多数産み出しました。
『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』などの作品名は聞かれたことが
ある方もおられると思います。
今は映画の制作ってすごくお金がかかりますよね。制作費1億ドル
(150億円くらい)なんて珍しくなくなりました。また、制作費の
数倍もの宣伝費をかけることもあります。で、映画は興行ですので、
大もうけすることもあれば、失敗して大損することもあるんです。
ロジャー・コーマン氏
それを嫌ったコーマン氏は、徹底して低予算、超短期撮影、薄利多売で
映画をつくり続けていったんです。低予算であれば、もし失敗したとしても
大きなダメージは受けません。ジャンルはギャングもの、ホラー、SFなど、
初期の頃には西部劇もありました。これらに共通する要素が
エロと暴力なんです。そうですね、プロレスのWWEを思い浮かべて
くださればいいかと思います。ちょうどあんな感じの猥雑な雰囲気なんです。
こう書けば顰蹙を買うむきもあるかもしれませんが、もともと
ハリウッド映画とはそうしたもので、ただそれを上品かつ高尚そうな
衣につつんでいるだけだ、というのがコーマン氏の主張でした。
彼のもとから育った映画監督としては、マーティン・スコセッシ、
ジェームズ・キャメロン、フランシス・フォード・コッポラ、ロン・ハワード、
ジョナサン・デミ、ピーター・ボグダノビッチ、ジョー・ダンテ、
役者では、ピーター・フォンダ、ジャック・ニコルソン、
ロバート・デ・ニーロ、デニス・ホッパーなど多士済々です。

さて、今回とりあげるのは、1975年の映画『デス・レース2000年』です。
舞台は、1975年からみれば近未来の2000年。場所はアメリカ連邦。
アメリカ合衆国ではないことにご注意ください。これ、一種の並行世界もの
なんです。また、ディストピアものでもあります。
年に1回、人々の精神的な抑圧を開放するため、デス・レースが開催されます。
ニューヨークからロサンゼルスまでの走破を競う、奇抜な武装を装着した
改造レーシング・カーに乗った5組のレーサーたちが登場します。
で、このレース、到着順位の他に獲得ポイント制になっていて、
その内容は人を殺すこと。男性、女性、子ども、老人と、後者ほど高得点に
なるんです。このあたりブラックですよね。あとは、
あまりストーリーとは関係ないおっぱいポロリも何度も登場します。

さらに選手同士のバトルも許されます。要するになんでもありで、映画の中では
さまざまな殺人の様子が喜劇的に描かれます。例えば、この日は介護される
老人の安楽死に利用されていて、看護師たちは老人たちの車椅子を
道路に並べ、レーサーに轢いてもらおうとします。ですが、レーサーはわざと
道をそれて、老人を並べた医師や看護師を次々に跳ね飛ばしていく・・・
さらに、レースに反対するレジスタンスが爆弾を仕掛けたりしていて、
ハチャメチャなまま結末に突き進んでいくことになります。
主演は『キル・ビル』でビル役を務めたデヴィッド・キャラダインですが、
終始ヘルメットのようなものを被っていて顔は見えません。
また、ロッキーで大ブレイクする前のシルヴェスター・スタローンが
嫌われ者のマシンガン・ジョー役で出ています。
こうストーリーを紹介すると、なんてひどい映画なんだと思われるかも
しれませんが、しょせんは映画の本質なんてこんなもんだ、
たくさん死人が出る映画なんてごまんとあるだろう、そういうのは
きれいな衣装を着せて体裁をつくろってるだけで、
この映画とどこが違うんだ、というコーマン氏の主張があるんですね。
生きた人間ではないから頭をぶっとばしてもいい、などと理由をつけて、
過激な描写がなくなることはないんですね。
ということで、ハチャメチャでブラック、カルト的な作品
『デス・レース2000年』についてみてきました。遅ればせながら、
ロジャー・コーマン氏の御冥福をお祈りします。
安らかにお眠りください。では、今回はこのへんで。



