今回はこういうお題でいきます。以前に「免疫力信仰は危ない」
という記事を書いたんですが、最近、youtubeを見ていると、
広告で、いかにもうさん臭そうな人物が出てきて免疫力を向上させる
補助食品について話をしていましたが、これをそのまま信じるのは
どうかと思います。

 



その理由は後述しますが、じつは自分も以前は免疫ってとても人間に
とって大切なものなんだろうと思っていました。免疫力を向上させる
というサプリを毎日飲んでたりしたんですよね。
ところがある日、急に体の具合が悪くなりました。それも予想もしない
症状が出たんです。頭が痛い、腹が痛い、発熱するといったものでは
なく、それまでに経験したことがない症状です。

主な症状は3つ。目が乾いて涙が出ない。唾液がまったく出てこない。
鼻の中が乾く。この3つです。なんだそんなのたいしたことはないだろうと
思われるかもしれませんが、これ、じつにやっかいで苦しいんです。

 



まず、つねに目が痒く、痛い。それと、これは関連してるんだと思いますが、
涙というのは鼻腔に流れ込みますよね。ところがそれが出ないので、
鼻の中が乾いてすぐに鼻血が出る。鼻くそがカチンカチン、まるで
コンクリートのかたまりのようになってどんどんたまる。

そして最も苦しいのが唾液が出ないこと。われわれは食事をするとき、
歯でものを噛んで細かくし、唾液にくるんで食道から胃へ流し込み
ますが、それができないんです。つまり食事ができないし、
ふだんもつねに口が乾きます。

で、これはきっと開業医では症例が少ない難しい病気だろうと思って、
紹介状なしに大きな大学病院に行ったんです。まず血液検査をし、
それで一発で病名がわかったんですが、かかったのはシェーグレン
症候群という国に難病指定されているもの。

 



この病気にかかると、血液検査の一般的ではない項目に異常が見られる
んですが、その数値が一目でわかるほど少なくなっていました。
膠原病の一種なんです。50歳が発症のピークで、1:14で
男性よりも女性のほうが多い。しかし子どもでも男性でも症例が
ないわけではありません。

これ、根本的な治療法はないんです。目の乾きには点眼薬、口の
乾きには代用唾液をスプレーするなどの対処療法しかありません。
あとは免疫不全症候群全体に効果があるかもしれないステロイドの投与。
 
食事の際には、口にものを入れるたびにスプレーで口内を湿らせ
なんとか飲み下していました。あとは流動食、ということで
食事の楽しみなんてまったくないんです。何を食べても
味わうなんてできないし、粉のような感触がある。

 


結局、なんとか治ったんじゃないかと思えるまで3年近くかかったんです。
このとき、自己免疫症候群とは怖ろしいものだと心底思いました。
命にかかわるものではないんですが、QOLが下がること甚だしく、
生きてても楽しくないんですね。

幸い今は回復していますが、一時はどうしようかと思ったもんです。
でもこれ、回復する人は珍しいんですよね。その点、運が良かったと
いうしかありません。

さて、医学用語として免疫力という言葉はありません、免疫という
言葉ならあります。まあ医師でも免疫力という言葉を使うケースは
ないわけではないですが、これは患者にわかりやすく説明するなどの
場合が多いんです。ですから、安易に免疫力という言葉を使う
業者などには注意したほうがいいと思います。

 

免疫力という言葉が不適切な理由(ヤフーニュース)

 

それと、今の医療はEBM(Evidence-based medicine)と言われていますが、
では、どうやって効果的に免疫を高めることができるかという
方法はわかってない
んです。はっきりとした根拠はありません。
マウスでの効果は人間とはまったく違います。まあ、総細胞量は人間の
ほうがマウスの数万倍ですし、血液中を流れている物質も違います。

もちろん免疫がないと、人間はそこらのありふれた菌に感染して死んで
しまうんですが、免疫でがんを治すというのはどうでしょう?
免疫は細菌やウイルスに対しては効果を発揮しますが、これらは人間の
細胞とはまったく違うものです。これに対してがんは自分の細胞が
わずかに変異したものだし、様々な免疫をだます機能を持っています。

よく「人間の身体の中で、がんは発生しては小さいうちに消え、またできる

をくり返している」などと言いますが、その過程を観察した

医師や学者はいません。たぶんそうなんじゃないか、ということで

言われているだけです。根拠はないんですね。

 

がん細胞のイメージ



よく民間療法などを紹介した本(多くはそれを扱う業者が書かせている)
には、「〇〇でがんが消えた」なる体験談が出てきます。
そんなの嘘っぱちだとまで言うつもりはありません。ただし、一口でがんが
消えたといっても、そのがんの遺伝子解析まで行なわれている例は
あまりありません。

がんは遺伝子変異ですので、さまざまなタイプがあります。その中には、
できたとしてもしばらくしたら消えてしまうタイプもあるんだと
思います。つまり、最初から長く生きられないがん、あらかじめ、

ある程度育ったところで自己崩壊するようプログラムされているがんです。

 

がんの遺伝子変異



われわれ人間は思い込みの強い生物です。がんに対して野菜スープがいい、
人参ジュース、アガリクスがいい、水素水がいい、ヌカ風呂がいいなどと

言われれば、ああ、効果がありそうだと思い込んでしまいがちなものなんです。
明確な根拠はなく、大規模な治験も行なわれていないのに。

さてさて、ということで、自分はべつに免疫を高める食品などを
とるのをとめているわけではありません
。そのあたりは自己責任です。
ただ自己免疫疾患の中には命にかかわるものもありますし、


命に別状はなくても、皮膚が象のようになったり、蛇のウロコのように
なったりするなど、人前に出られなくなるようなものもあります。
ですから、安易に業者の言うことを信用し、免疫機構にちょっかいを

出しすぎるのは危険だと思います。では、このへんで。

 

怖ろしい自己免疫疾患