『書く人はここで躓く! 作家が明かす小説の「作り方」』を読みました。
初版は2001年。その後2016年に増補新版が出て、2024年に出版された本書は、2016年版の新装版。
本書は小説の書き方を解説したいわゆるハウツー本とは、ちょっと違っています。
著者の宮原昭夫氏が、創作講座の提出作品などを講評添削する経験から得た、「そこそこ書けてはいるけど何かイマイチな作品」の問題点とその直し方を整理し、まとめたものです。
ですので、ある程度、創作経験があることが前提となっており、初心者向けではありません。
とはいったものの、創作経験がなければ読んではいけないといった決まりはもちろんなくて、小説家がどこに気を配って創作しているかを知ることができる舞台裏的資料としても読めるはずです。
創作講座の受講者へのダメ出しが基になっていますから、なぜその書き方がダメなのか、が論理的に説明されています。
論理がなくては、指導ができませんから。
・イマイチな作品がある(結果)
・ダメなポイントはここである(問題の把握)
・それがなぜダメなのか(原因の特定)
・修正のし方(悪因の除去による悪果の解消)
本書の内容を箇条書きにすると、おおむね上記のようになると思われますが、こうして見ると、本書の本質が「問題解決の指南」であることが理解されることでしょう。
いわゆるハウツー本と違うといったのはこのような意味であり、手っ取り早く方法論だけ知りたい人の目的には合致しないに違いありません。
小説の書き方に関して、「説明するな、描写せよ」というのは基本ですが、では「説明」と「描写」の違いを解説しろといわれると、私などは困ってしまいます。
感覚的にはわかっていたつもりでも、理論化・言語化ができていなかったことに気付かされました。
本書は、その理論化・言語化がきちんとなされているので、読んで得るものが大きかったです。
もう感謝しかありません。
本書で挙げられたイマイチな作品の実例と問題点の解説を読み、私の念頭に浮かんだのは、小説ではなく、アニメ「鬼滅の刃」のアニオリ部分でした。
――ああ、そういうことだったか。
自分がなぜアニオリ部分に批判的になるのかが腑に落ちました。
それがアニオリだから――原作と違うから――ではなく、創作手法の観点から悪手と判断されるから、がその理由でした。
具体的に述べるとアニメ感想になってしまうので、本稿ではこれ以上、触れないことにします。
読後、創作とは、実に手間のかかる活動なのだと、しみじみ思いました。
ハウツー本を数冊読んで方法論を学べば面白い小説が書けるようになるかといえば、それは間違いです。
文章表現とは、有限の語彙を組み合わせて新たな表現を生み出す作業ですから、知っている語彙が多いほど、可能性が広がります。
語彙も、ただ「知っている」だけではダメで、「使える」までに馴染んでいなければなりません。
「使える語彙」をひとつ増やすだけでも、膨大な回数の読む・書く・話すという行為を経なければならないはずです。
作品のテーマを選定したり、登場人物を造形するにしても、そこには人間・人生・社会に対する観察と洞察が必要となってきます。
つまりは作者の精神的成熟が関わってくることになります。
一朝一夕でできるはずがないではありませんか!
ハウツー本に謳われている「これであなたも書けるようになる!」的なフレーズは、あくまで宣伝用の惹句であると心得るべきでしょう。