いつか僕たちは必ずこの世界からいなくなる――。
日常を生きる心もとなさに、そっと寄り添ったエッセイ集。
ネットニュースで、 三週間前に会った知人の死を知った日。「もうダメだ」と言い続けていた最悪な時代の仲間との再会。「で、お前いつ帰るんだ?」が口癖だった祖父との思い出。恵比寿の焼き鳥屋で見かけたヨーダ似のお爺さんと美少女。日常を生きていく寂しさと、心もとなさにそっと寄り添ったエッセイ集。 文庫特典「巣ごもり読書日記」収録。『夢に迷って、タクシーを呼んだ』改題。

 

 

今年読んだ本の中でダントツのエモさのエッセイでした。

燃え殻さんはSNS出身の作家さんと言えると思う。

今はツイッター(X)で人気になって出版される方々がたくさんいらっしゃる。私も何冊かそういう本を持っている。

これだけ多くなると玉石混交状態なのだけれど、燃え殻さんには文筆の才能がある。

 

私の帯にはなかったけれど、

童話《鉛の兵隊》は、焼かれた後に心臓だけが残りますよね。燃え殻さんの言葉みたいだな。

という斉藤和義さんの言葉がありました。本当それな。

 

燃え殻さんのエッセイはとても身近なことが書かれているし、とても平易で誰にでも読めるものです。

けれどよくあるエッセイのように薄くて表面だけのものではない。

例えまがいものだろうと非難されても奥底に光るものがある。

文章の中に弱くてたくさん傷ついて、そして多分普通の人たちと同じように狡い燃え殻さんがいる。

 

最初から最後まで極上にエモーショナルだった。

どこがどうエモいかは是非読んで感じてもらいたいなと思う。

たった590円で素晴らしい時間を過ごせる。

 

『あの時に鳴っていたチャイムの音すら覚えている』は昔いじめられた相手から気軽な感じでメールが入った話。要領の良い奴は結局いつだって要領よく世の中を渡っていて、昔誰かをいじめた事なんかこれっぽっちも覚えていない。そんな絶望にも燃え殻さんは優しい目を向けてくれる。

この世の中でたった一人でもわかってくれる人が存在していたら生きていけるって思える時もあるはずだ。

 

雑誌掲載のエッセイなので約4ページで一章。中身にはなかなか触れられないし、そもそも感情を揺さぶるものを語るのはとても難しい。

 

最初にも書いたように今年読了している本の中で一番自分に近く感じられて感傷的な気持ちになった。軽度な社会生活不適合者的な匂いがする。