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    • (小脳メモ2, 小脳の線維連絡)

      小脳の求・遠心路求心路苔状線維系古小脳系(前庭小脳)前庭小脳路①:前庭神経節・前庭神経核→索状傍体→同側の片葉小節葉・室頂核(非交叉性)旧小脳系(脊髄小脳)前脊髄小脳路②:脊髄後角基部の細胞(脊髄の前白交連で対側へ交叉)→前脊髄小脳路→(交叉)→上小脳脚→同側の小脳皮質(旧小脳)後脊髄小脳路③:脊髄のClarke胸髄核→後脊髄小脳路→下小脳脚→同側小脳皮質(旧小脳/中間部)(下肢からの入力:非交叉性)楔状束核小脳路:外側楔状束核lateral cuneate nucleus→同側小脳皮質(同側、虫部錐体)(上肢からの入力:非交叉性)新小脳系(橋小脳)橋小脳路④:大脳皮質(主に前頭葉と側頭葉)→橋核→(交叉)→中小脳脚→小脳皮質(新小脳)その他三叉神経脊髄路核からの三叉神経小脳路、網様体小脳路など登上線維系オリーブ小脳路⑤:大脳皮質・中心被蓋路→下オリーブ核→(交叉)→下小脳脚→対側小脳皮質遠心路小脳赤核視床路⑥:小脳皮質→小脳核(歯状核・中位核)→上小脳脚→上小脳脚交叉→赤核→視床VA/VL(ventral anterior/ventral lateral nucleus of thalamus)→大脳皮質一次運動野(→赤核脊髄路は腹側被蓋交叉で、皮質脊髄路は錐体交叉で、再び交叉するので、結局小脳と同側の下位運動ニューロンに作用する。)小脳前提路/小脳網様体路など⑦:小脳虫部→室頂核→(下小脳脚の索状傍体:非交叉性、上小脳脚の鉤状束uncinate fasciculus:交叉性)→同側・対側の前庭神経核、脳網様体(→網様体脊髄路・前庭脊髄路により姿勢反射など錐体外路系の下位運動ニューロンに影響)小脳の線維連絡ヒトの小脳入力線維:出力線維=40:1であり、出力に比べて圧倒的に入力量が多い。小脳の入出力線維は上・中下小脳脚を通り上の表(表-小脳の求・遠心路)のようにまとめられる。小脳半球外側部からの線維は歯状核へ(新小脳系)、小脳半球-虫部の移行部からは中位核へ(旧小脳系)虫部からは室頂核へ投射し(古小脳系)小脳核から遠心路がでる。小脳と赤核、下オリーブ核の線維連絡は、左赤核で記載すると、左赤核-(中心被蓋路)-左下オリーブ核-(下小脳脚)-右小脳皮質/歯状核-(右上小脳脚・上小脳脚交叉)→左赤核。の回路を形成している。(ギラン・モラレ三角Guillain-Mollaret triangle)ギラン・モラレ三角右赤核-(中心被蓋路)-右下オリーブ核-(下小脳脚)-左小脳皮質・歯状核-(左上小脳脚・上小脳脚交叉)→右赤核の回路を形成している。4V:第四脳室fourth ventricleCTT:中心被蓋路central tegmental tractDN:歯状核dentate nucleusICP:下小脳脚inferior cerebellar peduncleIO:下オリーブ核inferior olivary nucleusRN:赤核red nucleus上小脳脚superior cerebellar peduncleTh:視床thalamus旧小脳系(脊髄小脳)(中位核入/出力系)ASCT:前脊髄小脳路anterior spinocerebellar tractPSCT:後脊髄小脳路posterior spinocerebellar tractCTT:中心被蓋路central tegmental tractOCbT:オリーブ小脳路olivocerebellar tractImZ:小脳半球中間部intermediate zone of cerebellar hemisphere(paravernal zone)Pk:purkinje細胞IO:下オリーブ核inferior olivary nucleusSCP:上小脳脚superior cerebellar peduncleICP:下小脳脚inferior cerebellar peduncleRN:赤核red nucleusVA/VL:ventral anterior/ventral lateral nucleus of thalamusIpN:中位核interposed nucleus新小脳系(橋小脳)(歯状核入/出力系)LatZ:小脳半球外側部lateral zone of cerebellar hemisphereDRThT:歯状核赤核視床路dentatorubrothalamic tractPCbT(MCP):橋小脳路(中小脳脚)pontocerebellar tract(middle cerebellar peduncle)OCbT(ICP):オリーブ小脳路(下小脳脚)olivocerebellar tract(inferior cerebellar peduncle)IO:下オリーブ核inferior olivary nucleusCPT:皮質橋路corticopontine tractDN:歯状核dentate nucleusPk:purkinje細胞purkinje cellPoN:橋核pontine nucleusVA/VL:ventral anterior/ventral lateral nucleus of thalamus古小脳系(前庭小脳)(室頂核入/出力系)VZ:小脳虫部域vermian zoneUnF:小脳の鉤状束uncinate fasciculusFN:室頂核fastigial nucluesFNo:片葉小節葉flocculonodular lobeVestN:前庭神経核vestbular nucleusRF:脳幹網様体reticular formationPRsB:索状傍体pararestiform bodyICP:下小脳脚inferior cerebellar peduncleCNⅧ:前庭神経vestbular nerveVestG:前庭神経節vestbular ganglion小脳機能と障害時の症状前庭性小脳片葉小節葉-室頂核系:身体平衡前庭神経→片葉小節葉→室頂核系→前庭脊髄路、網様体脊髄路→脊髄脊髄性小脳虫部-室頂核系:体幹の筋緊張調節中間部-中位核系:四肢の筋緊張調節(前・後脊髄小脳路、副楔状束核小脳路→脊髄小脳(虫部・中間部)→中位核→赤核・視床→赤核脊髄路、皮質脊髄路)橋性小脳外側部-歯状核:連続運動の企図planning(大脳皮質→橋核→小脳半球外側部→歯状核→赤核・視床→大脳皮質一次運動野→赤核脊髄路、皮質脊髄路)障害時には、円滑な巧緻運動の障害、四肢の推尺障害overshoot, undershoot小脳症状は同側に生じる。小脳からの出力は上小脳脚交叉で交叉し、赤核脊髄路や皮質脊髄路でまた交叉するので結局、同側の脊髄と線維連絡するからである。

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    • (小脳メモ1, 小脳内部構造等)

      小脳による運動制御https://www.igaku-shoin.co.jp/seigo/00601/p159_5-18.pdf登上線維の刺激の程度に応じて平行線維からの刺激に対するpurkinje細胞の長期感度が変化する。非運動状態では登上線維は1秒に約1回の低頻度でしか発火しない。しかしハッカのたびごとにpurkinje細胞の樹状突起全体に強い脱分極が生じ、purkinje細胞がスパイクを発する。未経験の運動を行って、それが意図したのとは食い違った場合、登上線維の発火頻度は4サイクルからゼロサイクリまで著明に変化する。これにより平衡線維からの刺激に対するpurkinje細胞の感度が変化して、時間の経過とともに小脳による運動のコントロールが上達すると推測される。小脳による運動制御小脳による運動制御は、前庭小脳、脊髄小脳(小脳虫部と中間部から構成される)、大脳小脳に分けて考えるとわかりやすい。1)前庭小脳前庭小脳は頭の動きや重力に対する頭の相対的な位置の情報が前庭三半規管や耳石器から苔状線維を介して入る。この部位のpurkinje細胞は、前庭神経核に直接投射してニューロンを抑制する。外側前庭神経核lateral vestibular nucleusからは内側および外側前庭脊髄路medial and lateral vestibular tractが発して、体幹の筋や四肢の伸筋(抗重力筋)の動きを調節する。一方、前庭神経核の一部は外眼筋核に作用し前庭動眼反射vestibulo-ocular reflexや視運動反応optokinetic responseを惹起する。2)脊髄小脳後脊髄小脳路posterior spinocerebellar tractと前脊髄小脳路anterior spinocerebellar tractは脊髄灰白質の介在ニューロンから発して、下小脳脚を経由して苔状線維として脊髄小脳に達し下肢の筋や関節の固有感覚を伝える。脊髄小脳のうち、①虫部のpurkinje細胞は室頂核のニューロンを抑制する。室頂核ニューロンは左右の脳幹網様体と前庭神経核に投射しており、前者からは網様体脊髄路reticulospinal tractが発し、後者からは外側前庭脊髄路lateral vestibulospinal tractが発して、抗重力筋の活動を調節する。小脳による運動の制御http://www7.bpe.es.osaka-u.ac.jp/~yasushi/images/Oldstory.pdf運動機能と認知機能に関わる小脳の出力信号の仕分けhttp://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2012/121122_3.htm小脳は長年、運動の実効機能を担っていると考えられてきましたが最近、認知機能、特に行動の認知側面に関わっていることが示唆されています。実際、小脳で処理された情報の出口の1つである小脳核の中位核は連合運動学習などの認知機能に関与していることが知られていますがそれを実証する解剖学的知見が得られませんでした。小脳核(中位核と歯状核)は、運動機能と認知機能に関わる小脳からの信号を部位特異的に仕分けして、大脳や脊髄に出力していることを明らかにしました。シナプスを超えて神経回路を構成するニューロンをラベルすることができる狂犬病ウイルスを用いて、それぞれ運動機能と認知機能の高次中枢である大脳皮質の一次運動野や前頭前野(特に46野)に多シナプス性に入力する小脳核ニューロンの分布を解析しました。その結果、運動情報は後中位核と歯状核の背側部や前中位核から、視床を介して、一次運動野に入力するのに対して、認知情報は後中位核と歯状核の腹側部から、異なる視床の領域を介して、前頭前野に入力することを見出しました。このことは、後中位核が、歯状核と同様に、運動機能と認知機能に関わる2つの出力チャネルを持っているのに対し、前中位核は運動チャネルのみを持っていることを示しており、小脳失調の際に発現する運動障害や認知障害の治療ターゲットを特定するのに寄与できると考えられます。http://plaza.umin.ac.jp/~02nrw-t/utino.pdf小脳は前葉、後葉、前庭性小脳の3葉からなる。前葉と後葉は第一裂で分かれるが前葉は小さい。小脳は正中傍溝によって小脳虫部と両側小脳半球に分かれる。小脳半球はさらに中間部と協議の小脳半球に分かれる。小脳皮質は大脳皮質に比べ薄い。三層構造で表面から分子層、プルキンエ細胞層、顆粒層。入力系は中小脳脚および下小脳脚を介して小脳に入る。オリーブ小脳路は登上線維でプルキンエ細胞に終止する。その他の大部分は苔状線維で顆粒細胞に終止する。中位核(栓状核+球状核)。小脳核(深部灰白質)は4個、外側から歯状核、栓状核、球状核、室頂核。出力系は小脳核から起こり、主に上小脳脚を介して、対側の赤核、視床へ向かう。室頂核からは鈎状束を介して、対側の前庭神経核群などへ向かう。片葉小節葉からは同側の前庭神経内側核へ投射する。小脳性運動失調は推尺障害overshoot, undershootで、小脳虫部の損傷で両側性の駆幹失調が起こり、小脳半球の損傷で同側四肢の運動失調が起こる。片葉小説葉の損傷では前庭機能異常や眼球運動障害が起こる。歯状核=外側核、栓状核=前中位核、室頂核=内側核、球状核=後中位核中位核は前中位核と後中位核に分けられ、前中位核は外側核と、後中位核は内側核と形態的にも機能的にも複合体を作る。前者の中、前中位核は四肢の一般的基本運動に、外側核は四肢の基本運動の外に手の運動にも関与する。後者の中、内側核は平衡運動に、後中位核は躯幹及び頭部の運動の外、一部平衡運動にも関与するものと考えられる。外側核に於ける鋸歯形成は、人、狭鼻猿類並びに広鼻猿類の一部に限り認められ、その発達は外側核の発達に比例する。3小脳核は高級哺乳類では完全に分離独立し、又中位核も前中位核と後中位核とに分離するが、動物が下級になるに従って互に融合の傾向が強くなり、最下級の単孔類では1つの核塊として表わさされる。小脳の内部構造小脳皮質と髄体小脳皮質の組織学的な構造は均一で、表層から順に分子層molecular layer、Purkinje細胞層Purkinje cell layer(神経細胞層)、顆粒層granular layerの3層から成る(図-小脳皮質の三層構造と入出力線維)。表面には横走する細かい小脳溝cerebellar sulcusと小脳回cerebellar foliumがある。小脳白質は髄体corpus medullareといい、小脳回に向かって白質の突起(白質板laminae folium)がある。髄体と白質板は正中矢状断で樹枝状に見えるので、小脳活樹arbor vitae cerebelliと呼ばれる。髄体内部に小脳核が含まれる。小脳皮質の機能帯前庭小脳系を別にすると小脳皮質の機能帯は小脳溝に垂直、すなわち矢状方向に帯状域が順に配列している。内側からA.小脳虫部vermian zone(室頂核へ投射)、B中間部intermediate zone(虫部に隣接する小脳半球内側部で傍虫部域paravermian zoneとも呼ぶ)(中位核へ投射する)、その外方のC外側部lateral zone(歯状核へ投射される)に区分される。また下肢が腹側、上肢がその背側、顔面が最背側に配列する体制局在somatotopiaがある小脳核cerebellar nuclei小脳の出力線維は前庭系を除いた全て、小脳核を経由する。歯状核dentate nuclei(外側核)系統発生学的に新しい灰白質で、第四脳室の後外方に位置する。前内方の第四脳室後上陥凹posterior superior recess of fourth ventricleに向かって開くC字型をしており、その開口部を歯状核門hilus of debtate nucleusという。橋小脳路、オリーブ小脳路を受け、また小脳半球外側部の皮質purkinje細胞からの線維を受けて、歯状核赤核視床路を出す(上の図)視床VA/VLから大脳皮質一次運動野へのfeedback loopをなす線維連絡によって巧緻運動の協調性に関与する。中位核interposed nucleus球状核と栓状核は、外側の歯状核と内側の室頂核の間に位置し、併せて中位核interposed nucleusと称される。いずれも小脳半球-虫部移行部の中間部から入力を受け、上小脳脚より歯状核赤核視床路(小脳核赤核視床路)に関与する他、網様体に出力する。特に手足筋の緊張や協調運動に関与する。栓状核emboliform nucleus(前中位核)歯状核門の内側で栓をするように位置する楔形の核球状核globose nucleus(後中位核)栓状核の内側にある小さな核室頂核fastigial nucleus(内側核)系統発生学的に最も古く、第四脳室の室頂に接して最も内側にある。小脳虫部、片葉小節葉、前庭系からの入力を受け、前庭神経核、網様体に出力し、脊髄の前角細胞に影響する。体幹の平衡や歩行に関与する。ABBk:籠細胞basket cellClmF:登上線維climbing fiberDN:歯状核dentate nucleusGrc:顆粒細胞granular cellICP:下小脳脚inferior cerebellar peduncleIO:下オリーブ核inferior olivary nucleusMCP:中小脳脚middle cerebellar peduncleMoF:苔状線維mossy fiberPk:purkinje細胞purkinje cellPrIF:平行線維parallel fiberSCP:上小脳脚superior cerebellar peduncleSte:星状細胞stellate cell左側断面は体幹の矢状方向に平行な面であり、右側断面は前額面すなわち小脳溝に平行な面である。青:入力線維、赤:出力線維苔状線維MoF、登上線維CFはともに興奮性で、小脳核DNへ達してこれが小脳の主要回路を形成する。すなわち小脳への情報は小脳核へ行ってそこから出力する。両線維はさらに小脳皮質まで達してPurkinje細胞Pkから小脳核に同一入力に由来する抑制性のfeedbackがかかる。またこの経路には籠細胞Bkなどの介在ニューロンも関与する。小脳への入力線維には登上線維climbing fiberと苔状線維mossy fiberの2種類がある。登上線維は下オリーブ核からのオリーブ小脳路の線維であり、分子層まで上行してpurkinje細胞の樹状突起に終わる。苔状線維は、中小脳脚や下小脳脚を通る入力線維の大部分をなし、これは顆粒層の顆粒細胞に終わる。顆粒細胞の軸索は分子層まで上行してT字状に分岐し、体幹の前額面、すなわち小脳溝に平行する平行線維parallel fiberとなる。平行線維はpurkinje細胞の樹状突起と連絡する。この間に種々の側枝を出し、また分子層に分布する籠細胞basket cell、星状細胞stellate cell、顆粒層に分布する抑制性のGolgi細胞などの介在ニューロンと種々の回路を形成する。purkinje細胞は小脳皮質の出力ニューロンで、その軸索の大部分は小脳核に、部分的には前庭神経核に連絡する。小脳核からの出力は上小脳脚から赤核や視床を経由して大脳皮質に投射する。小脳の機能区分小脳虫部は室頂核→大脳皮質・脳幹→腹内側下行系ventromedial descending systemにより近位筋を小脳半球中間部は中位核→大脳皮質・脳幹→背外側下行系dorsolateral descending systemにより遠位四肢筋をコントロールし、外側部は歯状核→大脳皮質一次運動野に投射して随意運動のplanningに関与する図中のhomunculusは脊髄小脳内における脊髄からの入力の体性局在を示す上小脳脚superior cerebellar peduncle(結合腕branchium conjunctivum)主に出力線維からなる。歯状核赤核視床路dentatorubrothalamic tractは歯状核から出て中脳下半の上小脳脚交叉decussation of superior cerebellar peduncleで交叉し、対側の赤核や視床VA/VLに投射する。室頂核からは鉤状束uncinate fasciculus(注・側頭葉前部-前頭葉間の連合線維も同名)が出て、前庭神経核や脳幹網様体に連絡する(前庭脊髄路や網様体脊髄路を介して脊髄運動系に関与)入力線維としては前脊髄小脳路anterior spinocerebellar tractが小脳の主に前葉内側部に分布する。中小脳脚middle cerebellar peduncle(橋腕brachium pontis)入力線維である橋小脳路pontocerebellar tractからなり、下小脳脚の外側に位置する。橋小脳路は大脳皮質一次運動野からの入力を伝える。橋核から出て橋で交叉し、対側の中小脳脚を通って対側の小脳半球皮質に連絡する。脊髄小脳路は前・後の2つに分けられるが、これは発生過程で新小脳路の中小脳脚が2つの脊髄小脳路の間に割り込んだためである。下小脳脚inferior cerebellat peduncle(索状体restiform body)ほとんど入力線維からなり、延髄上部背側部から第四脳室株の外側壁をなす。オリーブ小脳路(→交叉性に小脳半球、小脳核へ)、後脊髄小脳路(同側の胸髄核→虫部上部へ)、前庭小脳路(→虫部、小脳核へ)などが含まれる。前庭神経核と片葉小節葉を結ぶ入出力線維は、下小脳脚内側部の索状傍体juxtarestiform bodyを通る。小脳核と橋小脳路(横断像の模式図)4V:第四脳室fourth ventricleⅥ:外転神経abducens nucleusCNⅦ:顔面神経seventh cranial nerve(facial nerve)CbC:小脳皮質cerebellar cortexCPT:皮質橋路corticopontine tractDN:歯状核dentate nucleusEN:栓状核emboliform nucleusFN:室頂核fastigial nucleusGIN:球状核globose nucleusICP:下小脳脚inferior cerebellar peduncleMCP:中小脳脚middle cerebellar peduncleML:内側毛帯medial lemniscusMLF:内側縦束medial longitudinal fasciculusPCbT:橋小脳路pontocerebellar tractPoLF:橋縦束pontine longitudinal fasciculusPoN:橋核pontine nucleusPyT:錐体路pyramidal tractSCP:上小脳脚suerior cerebellar peduncle

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    • (先天性小脳失調症)

      SCD鑑別のための血液・尿検査若年発症アルブミンコレステロールαフェトプロテイン葉酸VItEIgA乳酸/ピルビン酸アンモニア血中・尿中銅セルロプラスミンホモシステインコレステロール極長鎖脂肪酸ライソゾーム酵素活性アミノ酸分析尿中有機酸中年期発症甲状腺機能VitB1VitB12SSA/SSB抗GAD65抗体抗グリアジン抗体抗TPO抗体抗Tg抗体抗mGLUR1抗体傍腫瘍症候群関連抗神経抗体Hu, Yo, Ri, Tr, VGCC, CRMP5, Ma1, Ma2, PCASCD鑑別の疾患二次性小脳失調症脳血管障害腫瘍アルコール中毒VitB1,B12,葉酸欠乏薬剤性(フェニトイン等)炎症神経梅毒多発性硬化症傍腫瘍性小脳失調症免疫介在性小脳失調症橋本脳症シェーグレン症候群グルテン失調症抗GAD抗体小脳炎甲状腺機能低下症低セルロプラスミン血症脳腱黄色腫症ミトコンドリア病二次性痙性対麻痺脊柱疾患に伴うミエロパチー脊髄の占拠性病変に伴うミエロパチー多発性硬化症NMO脊髄炎HAMアルコール性ミエロパチーAMNVutB1,B12,葉酸欠乏その他鑑別診断二次性小脳失調症の除外が重要である。中年以降発症、進行性の小脳失調症で、明らかな家族歴が認められない場合、免疫介在性小脳失調症、傍腫瘍性小脳失調症を念頭において精査をすすめる必要がある。特に傍腫瘍性小脳失調症は腫瘍の出現に先行して小脳失調症状が出現することがあり注意を要する。若年発症の場合、代謝性疾患、ミトコンドリア病等を念頭に鑑別を進める。痙性対麻痺の場合、VitB12欠乏による亜急性連合変性症、HTLV-1関連脊髄症(HAM)、副腎白質ジストロフィー、多発性硬化症、脊髄炎、脊柱疾患に伴うミエロパチーなどの二次性痙性対麻痺の鑑別が必要である。筋委縮性側索硬化症において、上位運動ニューロン障害が目立つ病型(原発性側索硬化症を含む)があり、注意が必要である。診断基準 主要項目①小脳性ないしは後索性の運動失調、または痙性対麻痺を主要症候とする。②徐々に発病し経過は緩徐進行性である③病型によっては遺伝性を示すがその場合、常染色体優性遺伝性であることが多いが、常染色体劣性遺伝性の場合もある。④その他の症候として、錐体路症候、パーキンソニズム(振戦、筋強剛、動作緩慢)、自律神経症候(排尿困難、発汗障害、起立性低血圧)、末梢神経症候(しびれ感、表在感覚低下、深部感覚低下)、高次脳機能(幻覚(非薬剤性))、失語、失認、失行(肢節運動失行以外)障害などを示すものがある。⑤頭部MRIやX線CTにて小脳や脳幹の萎縮を認めることが多いが、病型や時期によっては大脳基底核病変や大脳皮質の萎縮を認めることもある。⑥二次性小脳失調症を鑑別する(上記)SCD診断カテゴリーDefinite脊髄小脳変性症・痙性対麻痺に合致する症候と経過があり、遺伝子診断か神経病理学的診断がなされている。Probable①脊髄小脳変性症に合致する症候があり、主要項目①②⑤および鑑別診断を満たす。または痙性対麻痺に合致する症候があり、主要項目①②および⑥を満たす。Probable②当該患者本人に脊髄小脳変性法・痙性対麻痺に合致する症状があり、かつその家系内の他の発症者と同一とみなされる。(遺伝子検査がなされていない場合も含む。)Possible脊髄小脳変性症・痙性対麻痺に合致する症候があり、主要項目①②⑤を満たす。または痙性対麻痺に合致する症候があり、主要項目①②を満たすが、⑥が除外できない場合。SCDまずざっくり孤発例(SCD全体の2/3)オリーブ橋小脳萎縮症OPCA中年以降発症。小脳、橋の萎縮。日本のSCDで最も多い病型。初発-初期症状として歩行時ふらつき、手のつかいにくさ等の運動失調。経過とともにパーキンソニズム、起立性低血圧、発汗障害、排尿障害など自律神経の障害も伴う。病理学的に類似点の多い線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群を合わせて多系統萎縮症。皮質性小脳萎縮症(孤発性のうち多系統萎縮症を除いた残りが小脳症候のみの皮質性小脳萎縮症)中年以降発病。パーキンソニズムや自律神経症候が現れることはほとんどない。小脳症状のみ。進行はゆっくり。アルコール、薬物、腫瘍、炎症、血管障害など二次性小脳失調症と鑑別必要。遺伝性(SCD全体の1/3)SCA1(遺伝性OPCA)頻度少ない。20-55歳発病。30代-40代発症が多い。眼振が著しい。外眼筋麻痺、小脳性運動失調(歩行障害での発病が多い)。構音障害。錐体路徴候(腱反射亢進)。SCA3(Machado-Joseph病)と鑑別が困難。SCA2,3等と臨床症状の相同性がある。SCA2とは緩徐眼球運動や腱反射の減弱、SCA3とは錐体外路症候、眼球運動障害の程度・頻度において異なる。CAG伸長の程度により4-74歳まで報告がある。CAG伸長数や罹患期間により各症状の出現頻度や程度は変化する。同一家系内では表現促進現象を認める。遺伝子診断:Ataxin-1遺伝子解析によりCAG反復配列の異常伸長≧39repeatを証明する。眼振:一定方向を向いた時や何もしてない時に眼球が細かく揺れる。眼振のみを止める治療はない。眼振にめまいが伴う時にめまいに対しての治療のみ、あまり効果ない。SCA2(遺伝性OPCA)頻度少ない。2-65歳発病。成年発症が多いがCAG伸長数により発症年齢は様々。同一家系内で表現促進現象を認める。小脳性運動失調と、眼球を上下左右に速く動かすことができず、眼球がゆっくり動く緩徐眼球運動。眼振の頻度は少ない。腱反射低下(polyneuropathy)。構音障害。副症状:筋委縮(進行期)。dystonia、myoclonus、tremor(進行期やCAG伸長数の長い症例)。認知機能の低下(中程度)。fasciculation、myokymia(進行期やCAG数の長い症例)。20歳以前の若年発症者(CAG repeat>45)では症状の進行が速い傾向がある。CAG伸長数や罹病期間により各症状の出現頻度や程度は変化する。。遺伝子診断:Ataxin-2遺伝子解析によりCAG反復配列の異常伸長≧32repeatを証明する。Ataxin-2における27-33repeatのCAG反復配列intermediate lengthは孤発性ALSの発症リスク因子として報告されている。本疾患を疑う重要点:常染色体優性遺伝性の家族歴を有する進行性の小脳性失調症。緩徐眼球運動や腱反射消失は本症の可能性を示唆する。眼振の頻度は少ない。SCA1,2等との症候の相同性あり臨床症候のみで診断するのは困難。SCA3(Machado-Joseph病)日本で最も頻度が高い家族性脊髄変性症。若年-中年発病。運動失調が先に現れ、ビックリ眼、ジストニア、筋委縮等。進行ゆっくり。Ⅰ型:10-30歳代。進行性の錐体路+錐体外路徴候(主にジストニア)Ⅱ型:20-50歳代。小脳失調+錐体路徴候が前景に立ち、錐体外路徴候も呈することがある。Ⅲ型:40-70歳代。小脳失調+末梢神経障害(筋委縮、感覚障害、腱反射低下・消失)を呈する。Ⅳ型:発症年齢は様々。パーキンソン症状+末梢神経障害を呈する。Ⅱ,Ⅰ型の臨床病型をとることが多いが、稀に痙性対麻痺や純粋小脳失調症を呈する場合あり。中核症候:緩徐進行性の小脳失調(体幹失調、四肢失調、失調性構音障害)、錐体路徴候(痙性、腱反射亢進、病的反射陽性)、錐体外路徴候(主にジストニアで、アテトーゼ様運動やパーキンソン症状を呈することがある)、末梢神経障害(遠位筋の筋委縮、感覚障害、腱反射減弱・消失)。副症状:進行性の外眼筋麻痺(外転、上転障害)、注視方向性眼振(水平性が多い)。衝動性眼球運動障害ビックリ眼(眼瞼後退)動作誘発性の顔面・舌の筋線維束攣縮様運動声帯麻痺(嗄声)、前庭機能障害、自律神経障害、レム睡眠行動障害*、情動障害、腰仙骨領域の慢性疼痛を呈することがある。認知機能は保たれる(障害は軽度に留まる)。同一家系内でも臨床症状は多様。頭部MRI:小脳。脳幹(橋、中小脳脚、中脳、上小脳脚)の萎縮、第4脳室の拡大。特に小脳虫部上面に優位の萎縮を認める。小脳虫部・脳幹の萎縮は、リピート数および撮像時年齢と相関する。T2強調・FLAIR像で淡蒼球の異常信号を認めることがある。診断:MJD1遺伝子におけるCAGリピート異常伸長の解析。発症年齢と伸長アレルのCAGリピート数には負の相関関係がある。ホモ接合体例は同じリピート数を有するヘテロ接合体例に比し発症年齢が早く、臨床症状が重症である(遺伝子量効果の存在)。リピート数が少ない患者では臨床診断に苦慮することが多い。本疾患を疑う重要な点:常染色体優性遺伝性の家族歴30-40歳前後発症が多い緩徐進行性の小脳失調症と錐体路徴候を中核症候とし、錐体外路徴候と末梢神経障害が様々な程度で組み合わさる。ビックリ眼、外眼筋麻痺、顔面・舌の筋線維束攣縮様運動は特異性が高い。ジストニア:体を持続的に捻るようなorひきつけるような運動。SCA6(Holmes病)若年-中年期発病。19-71歳(平均43-52歳)。関西圏で多い病型。眼振、歩行障害、構音障害等小脳失調を現す。経過は慢性。小脳症状のみが多い。臨床症状:初発症状は歩行のふらつき、つまずき、構音障害が多い。ほぼ純粋な小脳失調症を呈する。小脳性失調性歩行、四肢の運動失調、構音障害、注視方向性眼振(水平性、下眼瞼向き)頭位変換時のめまい感や動揺視などの症状を伴うことがある。腱反射異常(亢進or低下)、足底反射陽性、痙性、深部覚低下、ジストニアなどの不随意運動、外眼筋麻痺、凹足変形などを伴うことがある。頭部MRI:小脳に限局した萎縮。小脳萎縮は虫部上面に強く、半球で軽度。脳幹や大脳は保たれる。診断:CACNA1A遺伝子におけるCAGリピート異常伸長の解析。本疾患を疑う重要点:常染色体優性遺伝性の家族歴20-66歳発症。45歳前後。緩徐進行性の小脳失調症。ただし腱反射異常、病的反射陽性、軽度の深部感覚障害などは本疾患を否定する根拠にならない。一方、感覚障害、レストレスレッグ症候群、視力異常、筋委縮は来しにくい。頭位変換時のめまい感や動揺視、下眼瞼向き眼振は本症を支持する所見。MRIで小脳に限局した萎縮DRPLA歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症小児-老年期発病。発病年齢によって症状が異なる。世代を経るに従って発病年齢が若くなる表現促進現症が認められる。病型は1.若年型、2.早期成人型、3.遅発成人型若年型では、てんかん、ミオクローヌス、痴呆、早期成人型では、痴呆、小脳失調、舞踏病アテトーゼ、遅発成人型では、小脳失調、舞踏病アテトーゼ。ハッチントン舞踏病との鑑別必要。舞踏病アテトーゼ:脳の運動機能の異常により、筋が正常に動かずに自分の意思とは無関係に持続的にゆっくり動く症状。フリードライヒ失調症日本では遺伝子で確定した家系はない。遺伝性痙性対麻痺(痙性対麻痺はSCD全体の5%)若年発病。優性遺伝と劣性遺伝の場合がある。下肢の痙縮で発病。視神経萎縮、痴呆など合併。診断には多発性硬化症などの痙性対麻痺を除外する。その他病因・病態孤発性のものの大多数は多系統萎縮症。一部小脳症状に限局した小脳皮質萎縮症がある。皮質性小脳萎縮症は単一疾患ではなく複数の疾患が含まれていると考えられ一定の割合で遺伝性のもの(SCA6,SCA31など)が混在している。アルコール多飲や腫瘍に伴って失調症状を示すことがある。遺伝性脊髄小脳変性症は非常に遺伝性異質性の高い疾患である。現在までに50以上の病因遺伝子が同定されている。2016年6月現在、AD-SCDではSCA1-42, DRPLAの30疾患、AR-SCDはフリードライヒ運動失調症、ARSACS、EAOH/AOA-AOA4、SCAN1、SCAR5-23んどの29疾患、X-linked SCDはSCAX1の1疾患において病因遺伝子が報告されている。他に遺伝子座は報告されているが、病因遺伝子が同定されていない疾患が数多く存在する。遺伝性脊髄小脳変性症の中で90%以上が常染色体優性遺伝性SCD(AD-SCD)、残りが常染色体劣性遺伝子SCD(AR-SCD)、稀にX染色体連鎖性小脳変性症も認められる(X-linked SCDはSCAX1の1疾患において病院遺伝子が報告されている)日本のAD-SCDでは、Machado-Joseph病(MJD/SCA3)、SCA6、SCA31、DRPLAの頻度が高い。(この4病型でAD-SCD全体の60-70%)病因遺伝子未同定の遺伝性SCDは全体の10-20%。遺伝性痙性対麻痺も同様に遺伝的異質性が高く、SPG1-76の疾患が存在する。純粋型遺伝性痙性対麻痺で最も多いのはSPG4孤発性痙性対麻痺もある。多くは原因不明だが一部遺伝性の病因遺伝子変異を有する場合がある。その場合、AD, AR, X-linkedの遺伝形式をとる。複合型の遺伝性痙性対麻痺の中で脳梁ひ薄化を伴っている場合、頻度が高いのはSPG11。AD-SCDのSCA1,2,3,6,7,17,DRPLAでは病因遺伝子の翻訳領域におけるCAGという3塩基の繰り返し配列が伸長することにより起こる。CAG繰り返し配列は、アミノ酸としてはグルタミンとなるため、本症は異常に伸長したグルタミン鎖が原因であると考えられる。他に同様にグルタミン鎖の伸長を示すハンチントン病、球脊髄性筋萎縮症と併せて、ポリグルタミン病と総称する。本症の遺伝子診断はこの繰り返し数の長さにて診断している。各々の正常アレルの繰り返し数の上限の目安は、SCA1:39, SCA2:32,, MJD/SCA3:40, SCA6:18, SCA17:42, DRPLA:36である。これを超えた場合、疾患の可能性を考えるが、この周辺の繰り返し数の場合、真に現在の病態に寄与しているかについては臨床症状を加味し慎重に診断する。特にMJD/SCA3, DRPLAにおいては、稀に正常アレルと病的アレル(MJD/SCA3:60以上、DRPLA:49以上)の間の繰り返し数を有するちゅかん型アレルが認められることがあり解釈が難しい場合もある。ポリグルタミン病においては、伸長したポリグルタミン鎖によって作られる凝集体が、細胞内に認められる。このことから伸長ポリグルタミン鎖の凝集体が直接、もしくは間接的に細胞毒性を持つと考えられている。現在は凝集体そのものはむしろ防御的で、それが形成される前の多量体が神経細胞への毒性を持つとする説が強い。伸長ポリグルタミン鎖によってもたらされる細胞毒性の詳しい機序については、転写障害、細胞内カルシウム調節異常、カスペース活性化、ミトコンドリア機能異常、オートファジー障害、興奮性アミノ酸毒性、酸化ストレス、小胞体ストレス、プロテアソーム障害、軸索機能障害、シナプス機能障害、細胞骨格異常など、諸説あり結論がついていない。発病や進行を阻止できる根治的な治療方法の開発につながる病態機序はまだ明らかになっていない。症状運動失調の代表的な症状は、立位・歩行時のふらつき、上肢の運動機能障害、構音障害などである。診察所見は眼振注視方向性眼振が典型的である。SCA6では下眼瞼向き眼振が特徴的で、注視眼振でははっきりしなくても頭位変換眼振としてはよく見られる。構音障害構音障害の特徴は前後の音節が連続的につながってしまったり(slurred speech)、個々の音節が途切れ途切れになったり(scanning speech)、発音が唐突に大きくなったりする(explosive speech)筋トーヌス低下四肢の筋トーヌスは低下し、肩ゆすり試験で上肢の懸垂性pendulousnessが亢進する。測定障害四肢の動きでは測定障害のため、運動の目標に正確に到達できなくなる。運動分解運動分解により手足の動きにおいて目標に直線的に到達させようとしても左右あるいは軸方向にぶれる。リズム異常一定の動作を繰り返してもリズムや振幅が乱れる。これらの症状は上肢では指鼻試験finger-nose-finger test;FNFT、回内回外試験diadochokinesis、下肢では踵膝脛試験heel-knee-shin test;HKSTなどで検出する。企図振戦動作時に誘発され、到達目標に近づくと大きくなる企図振戦が生じる。体幹失調体幹失調のため立位・座位の保持が困難になり、体幹が前後に揺れる症状titubationが生じる。歩行障害失調性歩行は足幅を横に拡げて歩くwide-based gait歩き方が特徴的である。歩幅も一定せず、踏み出す足の位置が不規則にずれる。遺伝性脊髄小脳変性症は運動失調症状以外にも多彩な症状を合併する。眼球運動障害(SCA2, MJD/SCA3)眼球運動失行(AOA1-4)網膜黄斑変性(SCA7)末梢神経障害(MJD/SCA3, AOA1, AOA2, TDP1)運動ニューロン障害(SCA1, SCA36)ミオクローヌスてんかん(DRPLA)認知機能障害(SCA1,SCA17,DRPLA)錐体路徴候(MJD/SCA3, SCA17)パーキンソン症状(SCA2,SCA17,SCA21)ジストニア(MJD/SCA3,SCA17)舞踏病(DRPLA,SCA17)などが代表的である。AD-SCDの多くを占めるポリグルタミン病では、CAG繰り返し配列の長さと、発症年齢に負の相関があり、一般にリピート数が長いほど若年で発症し、重症となる傾向がある。ポリグルタミン病は家系内でも症状が多彩で、世代を経る毎に重症化する傾向(表現促進現象)を認める。痙性対麻痺の場合、症状は歩行障害であることが多く、駆け足、下り坂歩行、階段下りがうまくいかなくなる。診察所見としては、下肢痙性、腱反射亢進、Babinski/Chaddock徴候陽性を認める。疾患によっては認知機能障害、筋委縮、感覚障害、小脳性運動失調、膀胱直腸障害など多彩な症状を認めることがある。診断脊髄小脳変性症の診断は、運動失調症を主体とする進行性の神経症状、画像検査による小脳萎縮の検出、二次性運動失調症の除外により行われる。純粋小脳型は頻度かあrSCA6,SCA31を考える。非純粋小脳型では頻度からMJD/SCA3, DRPLA, SCA1,2,17を考える。MJD/SCA3のビックリ眼、DRPLAおミオクローヌスてんかん、SCA2の緩徐眼球運動、SCA7の網膜黄色変性などは鑑別に有用な症候である。一方、MJD/SCA3, DRPLAでも高齢発症の場合は純粋小脳型の臨床像を呈することがある。AR-SCDの多くは多系統障害型であり、後索障害、錐体路障害、末梢神経障害などを伴う場合が多い。眼球運動失行を認める場合、EAOH/AOA1, AOA2を疑う。EAOH/AOA1の診断には低アルブミン血症が参考になることがある。AOA2はαフェトプロテインが診断に有用である。痙性が強い場合、頻度的にはAR-SACSを疑うが、頭部MRIにおいて橋のT2線状低信号が特徴的な信号である。遺伝性脊髄小脳変性症では遺伝子検査が有用である。特にAD-SCDでは頻度の高い疾患の多くは遺伝子検査が可能である。トリプレットリピート病はPCRによる伸長リピートの検出で容易に診断できる。その他の反復配列伸長による疾患においても、PCRによる反復配列を含んだアレルの検出、repeat-primed PCRによる反復配列伸長の解析で診断可能である。AD-SCDの残りの疾患、及び、AR-SCDの大部分の疾患における遺伝子検査は塩基配列解析が必要であり、診断には労力と経費がかかる。孤立性SCDの場合、二次性の運動失調症の鑑別が前提である。そのうえで、パーキンソン症状、自律神経症状の合併があればMSAを疑う。頭部MRIで特徴的所見を呈していれば確定的である。それ以外の孤発性SCDの大部分は皮質性小脳萎縮症CCAと診断されるが、一定の割合でSCA6, SCA31などの遺伝性SCDが含まれている。痙性対麻痺の場合、二次性痙性対麻痺を除外した後に、純粋型か複合型か、遺伝形式は何か、を考慮しながら診断をすすめる。遺伝子性の場合、多くの病因遺伝子が存在し、それらすべてを検索するのは現実的ではない。純粋型の場合、比較的頻度の高いSPG4をまず念頭において精査を進める両親のいずれも発症していない。純粋小脳型であるSCA6SCA31(その他の多くはSCA31)MJD/SCA3(高齢者)成人発症例SCA8純粋小脳型でない痙縮があるARSACS痙縮がないAFP高値があるAOA2眼球運動失行を伴う失調症2型ataxia with oculomotor apraxia type210-22歳発症。小脳萎縮。軸索型の運動感覚性ニューロパチー、眼球運動失行、αFP高値、AOA1除外。Ataxia telangiectasia毛細血管拡張を伴う失調症1-4歳で発症する進行性の小脳失調症。眼球運動失行、頻回の感染症発症、舞踏病アテトーゼ、眼球結膜の毛細血管拡張、免疫不全、白血病やリンパ腫など悪性腫瘍のリスク。検査所見として末梢血リンパ球の核型分析にて7;14染色体の転座を同定、免疫不全の証明、ATM遺伝子解析。AFP高値がないAOA1/EAOH眼球運動失行を伴う失調症1型ataxia with oculomotor apraxia type1AR-SCDは本邦では少ない。本邦のAR-SCDにはアプラタキシン欠損症(EAOH/AOA1)、AOA2、AR-SACS、VitE単独欠損症等。そのうちEAOH/AOA1の頻度が比較的高い。小児発症型の劣性遺伝性では純粋小脳型を示すことは少なく、他の随伴症状を伴うことが多い。欧米ではこの範疇に入る疾患としてフリードライヒ失調症の頻度が高く有名だが本邦にはいない。本邦でフリードライヒ失調症と考えられていたものの多くはEAOH/AOA1両親のいずれかが発症している。純粋小脳型であるSCA6SCA31MJD/SCA3(高齢者)成人発症例SCA8SCA14SCA15純粋小脳型でないMJD/SCA3SCA1SCA2SCA7SCA17小脳萎縮が明瞭である小脳萎縮が明瞭でないGSSGerstmann-Straeussler-Scheinker(ゲルストマン・ストライスラー・シャインカー病)(ブリオン病)日本では遺伝性ブリオン病はブリオン病全体の19.4%でGSSは全体の3.6%。発症年齢は40-50歳代、若年20-30歳代もみられる。常染色体劣性遺伝性痙性失調症ARSARCS, Charlevoix-Saquenay型(Autosomal Recessive Spastic Ataxia of Charlevoix-Saquenay)12-18ヶ月の幼児期発症で歩行困難や歩行時のふらつきを特徴とする。神経学的には小脳失調、構音障害、痙性麻痺、病的反射陽性、遠位筋の筋委縮、下肢優位の運動感覚性ニューロパチー、水平注視方向性眼振などが見られる。これらはたいていの場合進行性である。カナダケベック州出身のARSACS家系では網膜の視神経乳頭辺縁から放射状に伸びる有髄神経の増生がみられる。このような網膜変化はフランス人、チェニジア人、トルコ人のARSACS家系では稀である。ARSACSの患者は平均41歳で車椅子生活となるが認知機能はよく保たれ晩期までにづ上生活動作は可能である。その他の常染色体劣性遺伝性小脳失調症日本から精神遅滞と末梢神経障害、著しい小脳萎縮を伴う失調症が報告されている。常染色体劣性遺伝性の小脳失調症と軸索型の感覚運動性ニューロパチーを呈するサウジアラビアの1家系は第14染色体長腕(14q31-q32)に連鎖することが知られていたが、TDP1遺伝子(トポイソメラーゼ1依存性DNA損傷修復酵素をコードする)の変異によることが判明した。脊髄後索の変性と網膜色素変性を伴う失調症が記載されている。低ゴナドトロピン性機能不全症を伴う失調症が記載されている。類似の症状をもつ同胞にはコエンザイムQ10の欠損がみられている。失調症、難聴、視神経萎縮を伴い、6p21-p23に連鎖する家系が報告されている。上肢に時々動作時振戦、器を落とす。歯状核、およびこれと連絡する神経路の障害による振戦は運動時に著明である。ことに小脳と中脳を結ぶ上小脳脚(結合腕brachium conjuctivium(Lラテン語))の病変により、いわゆる企図振戦intention tremorが起こるとされる。コップを持たせて水を飲むように命じると口元に近づくほど手が強く震える。これは多発性硬化症、ウイルソン病、その他の小脳疾患で認められる。多発性硬化症では随意運動に際してきわめて激しい不随意運動を伴うことがある。これは振戦と呼ぶにはあまりにも激しいものであり意図動作時運動過多症hyperkineesie volitionnelle(F仏語)という名称の方が適当であるとされている。赤核症候群(赤核の上外側部の障害で、反対側に小脳性運動失調と振戦を呈する)でもこのような激しい振戦を呈することがある。この激しい振戦の責任病巣としては小脳または赤核上部から視床の腹外側核にかけてが重視されているが、脊髄レベル以下の末梢求心性神経線維の関与も推定されている。小脳半球の障害では姿勢時振戦ないしは運動時振戦を認めるが、企図振戦とは異なるとされている。例えば上肢を水平に前方挙上させると、上肢末梢は筋緊張の低下で僅かに下垂し、これを補正しようとして上方への運動が起こり、その反復が振戦としてみられる。4年前の頭CT、小脳回拡大+、第四脳室拡大+小脳半球cerebellar hemisphere、虫部vermisの萎縮+ or 形成不全SCDの進行で企図振戦一過性に↑稀なんだけど(5%未満)一応イーケプラの副作用に振戦はあり神経過敏(わずかな刺激で↑)単純部分てんかん発作緊張亢進飲食と服薬の組み合わせで一過性に 低Ca or 高Ca→振戦(ワイン(の保存剤)やミノマイシンで低Caで振戦)SCDの進行基底核にかかる?←静止時振戦ではないので可能性低い?一般人の健常者でも原因不明の振戦はあり昨年2月の摂食嚥下評価で言葉の出方が悪くなった評価あり(SCDの進行?前頭葉は?)軽度構語障害あり体幹失調、起き上がり・立ち上がりは一部介助、四つ這い移動+車椅子自走VitB6経口投与予定(十分量)Vitb12 1500μgは定期服薬中(肝臓に蓄積)B12に合わせるとビタメジン1.5g(シアノコバラミン1500μg、ピリドキシン塩酸塩150mg、チアミン塩化物塩酸塩150mg)ビタメジン1.0g+メチコバール1錠(500μ)バップフォー40mg(バップフォーは胃下垂疑い(若年男性)で中止した人がいた、食後1-2時間激しい腹痛、1-2時間を過ぎると軽減を繰り返す、腹部X線で胃下垂疑い、でバップフォーかと中止したら症状消失。本当は更に検索必要、若年でもスキルス胃癌等あるので)1.小脳性振戦小脳疾患のうち歯状核、およびこれと連絡する神経路の障害による振戦は運動時に著明である。ことに小脳と中脳を結ぶ上小脳脚(結合腕brachium conjuctivium(Lラテン語))の病変により、いわゆる企図振戦intention tremorが起こるとされる。コップを持たせて水を飲むように命じると口元に近づくほど手が強く震える。これは多発性硬化症、ウイルソン病、その他の小脳疾患で認められる。多発性硬化症では随意運動に際してきわめて激しい不随意運動を伴うことがある。これは振戦と呼ぶにはあまりにも激しいものであり意図動作時運動過多症hyperkineesie volitionnelle(F仏語)という名称の方が適当であるとされている。赤核症候群(赤核の上外側部の障害で、反対側に小脳性運動失調と振戦を呈する)でもこのような激しい振戦を呈することがある。この激しい振戦の責任病巣としては小脳または赤核上部から視床の腹外側核にかけてが重視されているが、脊髄レベル以下の末梢求心性神経線維の関与も推定されている。小脳半球の障害では姿勢時振戦ないしは運動時振戦を認めるが、企図振戦とは異なるとされている。例えば上肢を水平に前方挙上させると、上肢末梢は筋緊張の低下で僅かに下垂し、これを補正しようとして上方への運動が起こり、その反復が振戦としてみられる。小脳疾患では頭部が間断なく揺れる頭部揺動head titubationもみられる。2.生理的振戦physiological tremor疲労、感情的興奮、寒冷時の振戦。この振戦は姿勢時あるいは運動時に出現し一過性でfineなものであり、1秒間に5-15回(Hz)3.本態性および家族性振戦essential and familial tremor静止時にはなくて上肢を前方へ伸ばした姿勢をとらせると、手指によく出現する。振戦の振幅は中-大、振動数は6-10Hz運動時にも振戦を認める、すなわち姿勢時振戦が主体で、運動時振戦もある。運動時に出現しても終末期の増強は認められず、そのほかの神経症候もない。精神緊張で増強し、アルコールや鎮静剤で軽減する。家族性のものは主に思春期から青年期に発症し、同一家族にこのような振戦を認め、常染色体雄性遺伝を示す。本態性ではなんらの原因も認めない。治療は抗痙攣剤(クロナゼパム)、交感神経β遮断剤(プロプラノロール)、精神安定剤(ジアゼパム)を用いる。4.老人性振戦senile tremor老人に起こり次に述べるパーキンソン症候群の振戦と似ているが、随意運動でかえって増強され、筋緊張の亢進や、その他のパーキンソン症候群の症候がないので鑑別しうる。老人性振戦は上肢、頭、下顎、口唇、舌に著明である。ことに座位、立位での頭部振戦が多く、前後に揺れたりyes tremor、左右に揺れたりno tremorする。本症は本態性振戦の孤発、晩発型と考えられている。5.中毒性振戦toxic tremor甲状腺機能亢進症や尿毒症などの内因性疾患や、アルコール、タバコ、水銀、コカイン中毒でみられる。姿勢振戦で、上肢末梢に好発する。バセドウ病の振戦は振幅は小-中で、10Hzぐらい。慢性アルコール中毒の振戦も振幅はfineであるが規則性に乏しい。アルコール中毒による振戦せん妄や慢性水銀中毒はcoarseな振戦をみる。6.パーキンソン振戦パーキンソン病では四肢に粗大な静止時振戦を認め、筋強剛、随意運動障害(無動)を伴う。振戦は上肢ことに手に著明で、静止時at restに認められ、手指の動きは丸薬を丸めるような運動pill-rolling movementである。下肢では足に認められ、座位では足先やかかとで床を叩く動作tapping movementを認めることもある。振戦は一側上肢に始まり、下肢に拡がり、しばらくおいて他側の上下肢にも起こる。振動数は1秒に4-8回である。振戦は上肢を水平位に保持させると軽減ないし消失したり、随意運動で一時的に抑制される。しかし感情的な興奮では増加し、睡眠中は消失する。振戦は頭や下顎、舌に起こることもある。振戦を誘発するには、上肢の力を抜かせて、手を膝の上にのせ、肘と手首を軽く屈曲させる。7.固定姿勢保持困難asterixis、羽ばたき振戦flapping tremor手関節を背屈させ、手指は伸展させて、そのままの姿勢を保持するように指示する。すると手関節、中手指節関節の急激な掌屈と、元の背屈位への復帰が反復し、羽ばたいているように見える。この固定姿勢を保持できないことを固定姿勢保持困難asterixisという。asterixisで起こる手の羽ばたき様の振戦が羽ばたき振戦flapping tremorギリシャ語のsterigmaは支持するの意味で、asterixisは手を一定の位置に保持することができないことをいう。本症は四肢を一定の位置に保つために収縮している筋が間欠的に緊張を失うために起こる。羽ばたき振戦は肝性昏睡、尿毒症、CO2 narcosis、低ナトリウム血症など代謝疾患による脳症の初期、ジフェニルヒダントイン中毒などに出現する重要な徴候である。また両側視床傍正中梗塞症候群、視床出血でも出現する。8.羽ばたき運動肩関節で上肢全体が羽ばたくように大きく動く不随意運動をいう。ウイルソン病で起こる。上肢を伸ばしたまま側方に水平に挙上させ、そのまま保持させると、この運動が出現する。

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  • 09Mar
    • dysphagia関連7(嚥下時における舌骨運動のX線学的研究

      嚥下時における舌骨運動のX線学的研究A cinefluorographic study of hyoid and laryngeal movements during deglutition日本耳鼻咽喉科学会報 Vol.90(1987)No.5p669-679https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka1947/90/5/90_5_669/_pdfA 緒言嚥下とは食塊を口腔から胃へ搬送する一連の運動でありこのために舌や下顎、咽頭、食道の筋群が高度の協調運動を行っている。嚥下運動はすでに1817年にMagendieが3相に区分しており彼は1)bokusが口峡を通り過ぎるまでの口腔期、2)口峡より上食道口通過までの咽頭期、3)上食道口より噴門通過までの食道期に区分している。この区分は運動生理の面からみると第1期は随意期、第2期は不随意期(反射期)、第3期は不随意期におおよそ対応している。この各期のうち2期と3期の区別は比較的容易である。すなわちbolusがすべて食道内へ入り食道の蠕動運動が開始される時点が第3期の始まりである。第2期に関する研究は古くからおこなわれており、食道内圧を測定した研究、X線映画(ビデオ)を用いた研究、筋電図を用いた研究、これらを同時に組み合わせた研究などが報告されているが、1期・2期の境界つまり随意期から不随意期への移行に言及している報告は少ない。平野は筋電図学的立場から、第2期の始まりは輪状咽頭筋の弛緩におおよそ一致すると述べている。嚥下時には内舌筋群・外舌筋群・内外喉頭筋群・舌骨上下筋群等多数の筋が活動しその結果は舌・舌骨・喉頭などの運動として現れる。この点に注目して古川は嚥下時のX線フイルムから甲状軟骨の運動の解析を行い、急速に挙上する時期を反射期の開始としている。今回は嚥下時に作用する多くの筋が付着している舌骨に注目して嚥下時の舌骨・喉頭運動の両者の関係について解析を試み随意期と反射期の受け渡しについて考察を行った。B.目的舌骨は舌と喉頭の中間に位置する器官であり、嚥下時に活動する多くの筋群が付着している。したがって嚥下時にはこの筋群の活動によって舌骨は大きく運動する。嚥下全経過において舌骨はどのような運動を行うかを解析し、嚥下第1期-第2位への移行の状態を舌骨の運動の面から推定することを目的とした。さらに舌骨・喉頭を1つの運動系とみて嚥下の期間中両者はどのように関係しているかを検討した。C.研究対象咽喉頭異常感を訴えて外来受診し、下咽頭・食道透視検査を行った患者のうち器質的・機能的異常が認められず、咽喉頭異常症と診断された成人男性24名。年齢は35-60歳。対象の選定条件としてX線フイルム上嚥下期間中に舌骨体・喉頭が明確に同定しうるもの。D.方法被験者を立位、バリウム嚥下時に頸部側面からX線映画撮影を行い、得られたフイルムからmotion analyzerを用いて舌骨・喉頭運動を解析した。造影剤は硫酸バリウム100w/v%を使用し、1回嚥下量は20mLとした。撮影は1回の嚥下毎に行った。撮影速度は30コマ/秒に固定した。1コマあたりの露出時間は1/68秒。X線条件は6-70kv、1mA。撮影時に前頚部正中に長さ2cmの鉄片を貼布し、フイルム計測時の実長の基準とした。計測点としてフイルム上で認められる次の5点をとった(図1)①第3頸椎前縁上端、②第5頸椎前縁下端、③舌骨体の上端、④舌骨体の下端、⑤甲状軟骨の前縁下端である。このうち①②の2点を結ぶ直線を基準線とし、これと③、⑤をそれぞれ舌骨・喉頭の代表として測定点の移動を見る。④は舌骨の回旋をみるための測定点。またbolusの移動についてはその先端と後端とを測定点とした。フイルムをナック製のmotion analyzerモデル350を用い1コマごと各5点、さらにbolusの出現しているコマでは各7点を座標値としてPC-980・PC-100を用いて処理。各点の移動距離を各座標から計算し、上下方向・前後方向に分解して経時的に運動曲線として表示した。E.結果[1]嚥下時における舌骨運動(1)舌骨体の運動(図2)舌骨は嚥下時には図2に示すように概ね三角形に類似した曲線を描くように運動しており、これを3相からなる運動区分として図のように命名した。第1に比較的ゆっくりと挙上運動を始めるが、この際わずかに後退運動を伴うことが多い(挙上後退運動)次いで第二に舌骨は大きく挙上、同時に急激に前進する(挙上前進運動)そして最大挙上①および最大前進①に停滞した後に第三の運動、すなわち元の位置へと復元するために後退・下降運動を行う(下行後退運動)この舌骨運小津を上下・前後の成分に分けて経時的に記録した曲線の代表的な一例を図3に示す。上のグラフが前後方向(頸椎上の2点を結んだ基準線に対して垂直に移動する運動)下のグラフが上下運動(基準線に対して平行に移動する運動)を表している。これを図4のようにもし気化して区分を試みた。二次元的に見ると舌骨体の運動の軌跡は三角形を形づくり3つの成分に分かれたが、経時的にみると前後・上下ともに運動の速度の違いや、運動が一時ストップする時期があることから5つの成分に分かれた。しかし前後方向運動の後部2つの成分ははっきり区分することが困難でありここは1つとして扱った。1)上下方向運動舌骨上下運動は5つの成分に区分できる。①比較的ゆっくり挙上していく相(挙上第1相)、②続いて急速に挙上する相(挙上第2相)、③②に続き下降する前に最大挙上位置にとどまる相(停滞相)、④停滞相から急速に下降する相(下降第1相)、⑤最後に緩徐な下降を示す相(下降第二相)2)前後方向運動大きく4つに区分できる、a)わずかに後退する相(後退相)、b)急速に前進する相(前進相)、c)bに続き最大前進①にとどまる相(停滞相)、d)元の位置へと復元するために下降する相(復元後退相)この復元後退相は上下方向運動の下降第1相・第2相に相当するが、前後方向ではその区分が明瞭に現れず1つの相とした。3)両方向の運動の時間関係について上下方向運動と前後方向運動は互いに挙上第1相と後退相、挙上第二相と前進相、停滞相と停滞相、下降第一・第二相と復元後退相、というように対応する。挙上第一相と後退相はほぼ同時に開始する。症例によってはごくわずか挙上運動が速く開始されることがあるがその差は最大でも0.06秒である。続いて挙上第二相と前進相に移り、この際多くの症例では(24例中18例)前進相が挙上第二相よりも早く始まるがその差は平均0.02秒であり、分解能からみて判定できない。相の長さについては停滞相は上下方向運動・前後方向運動はほぼ同じであり、また下降第一相+第二相は復元後退相よりも0.08秒長いという結果を得た。(2)舌骨運動における各成分の所要時間および移動距離について(表2)1)上下方向運動a)挙上第一相挙上開始からの比較的ゆっくりとした時期の運動であり所要時間は0.44±0.12秒、平均5.1±2.1mmの挙上を示す。速度は11.5±3.5mm/秒。b)挙上第二相第一相に続く急速に舌骨が上方へと運動する相である。平均0.26±0.15秒、11.2±3.2mmの挙上。速度は37.3±8.5mm/秒と、第一相の3倍以上の値を示す。挙上第一相と第二相の合計が嚥下による舌骨挙上距離で平均16.3±3.9mmである。c)最大挙上位置にとどまる相挙上第一・第二相で最大上昇位置に到達した舌骨はここに停滞する相を有する。その平均時間は0.32±0.08秒である。d)下降第一相cに続いて舌骨は下降を開始する。初期には比較的速い運動であり、その平均時間は0.28±4.2mm/秒と挙上第一相よりも速い。e)下降第二相最後に舌骨はゆっくりとした下降第二相に入り、舌骨は一定の位置へ達し、嚥下による運動を終了する。これには0.47±0.12秒を要し、平均移動距離は4.5±2.6mmである。その速度は9.5±2.4mm/秒である。下降第一相と第二相を合計したものが嚥下時の舌骨下降距離に相当し、平均12.4±3.5mmである。これからわかるように舌骨の嚥下終了時には嚥下前の安静時の位置まで下降しておらず途中の位置に停滞している。2)前後方向運動a)後退相これは上下運動における挙上第一相に相当する。この際後退する場合が多いが、症例によってはほとんど元の位置に停滞したままのもの(すなわち挙上運動のみの例)、あるいは逆に前進するものがあるが、後退する症例が最も多く(24例中14例)、便宜上後退相と命名した。開始時は上下方向運動における挙上第一相とほぼ同じであり、所要時間は0.46±0.14秒、移動距離は平均1.9±1.2mmである。速度は前進した症例・後退した症例をともにその移動距離を絶対値として算出、3.1±0.4mm/秒と非常にゆっくりしたものであった。b)前進相一度わずかながら後退した舌骨は大きく前進する。これは上下方向運動における挙上第二相に相当する。所要時間は0.27±0.06秒。移動距離は10.3±2.5mm。速度は38.2±5.5mm/秒。嚥下時の舌骨運動のなかでは最大の値を示す。c)停滞相最大前進位置に達した舌骨は挙上時と同様にここに停滞する。上下方向運動における停滞相に相当する。時間は平均0.32±0.07秒。d)(復元)後退相最後に舌骨は元の位置に戻るための後退運動を行う。上下方向運動における下降第一・第二相に相当する。上下運動と同様に2段階に分かれて後退する場合もあるが、その境界が明瞭でないため、ここでは単一相とした。このため所要時間は0.67±0.18秒と最も長く、移動距離は8.1±2.4mm、速度は12.1±3.5mm/秒と比較的ゆっくりしたものであった。舌骨はここでも嚥下終了時には安静時の位置まで後退しきっていない。これは後述すうりょうに甲状軟骨の場合と同様である。(3)嚥下時の舌骨の回旋運動について(図5)嚥下時に舌骨は単純な平行運動をしているのではなく、体部を中心として大角が垂直面上で回旋運動を行っている。この回旋は舌骨の上・下端を結ぶ直線と先に設定した基準線との角度を舌骨体の傾きの変化として計測した。後述するようにフイルム上で計測された舌骨体上の上・下端の長さは一定ではなくコマごとに変化している例が多く、信頼できる計測例は5例であった。その結果を図5に示す。安静時には舌骨体の角度は基準線に対して24-30度であるが、運動を開始し挙上後退相に入るとこの角度は大きくなり(すなわち舌骨体は水平に近づき)、挙上後退相の終了付近では38-42度の角度となる。次いで挙上後退相に入るが舌骨体はそのままか、もしくはやや角度を減じながら(すなわち垂直に近づき)運動、この相の終了時には30-35度となり安静時と比較すると傾斜はやや小さくなる。このあと元の位置に下降してくる時にほぼ安静時の角度に復元している。[2]嚥下時における舌骨と甲状軟骨運動との関係について舌骨の運動を計測する際に同時に甲状軟骨の運動も計測した。両者の関係について述べる。古川は嚥下時の喉頭運動を甲状軟骨を代表させて上下方向では5段階に、前後方向では2段階に区分しており、今回の舌骨運動との関係を図6(上下方向運動),図7(前後方向運動)に示した。双方の運動相の区分を記載した。上下方向運動では舌骨と甲状軟骨はよく類似した運動を行い、動揺の経時的区分をすることができる。前後方向運動では甲状軟骨が前進・後退という単純な運動を行うのに対して、舌骨はより複雑であり、停滞相を有することが大きな相違である。甲状軟骨運動の時間経過・移動距離・所要時間を表3に示す。[3]舌骨運動の経時的推移および甲状軟骨の関係について(図8)ここで嚥下時における舌骨と甲状軟骨の時間的経過についてまとめる。嚥下の開始とともにまず舌骨の挙上第一相と後退相が始まり、次いで甲状軟骨の挙上第一相、さらに舌骨の挙上第二相と前進相が始まる。続いて甲状軟骨の挙上第二相が開始、最後に甲状軟骨の前進相へと続く。この時間関係を図8に示す。舌骨と甲状軟骨の挙上第二相が同時に開始している症例(24例中4例)もあった。しかし甲状軟骨が舌骨よりも早く挙上第二相を開始する症例は1例もなかった。嚥下運動後半期においては両者の時間関係が一定しないため図示していない。[4]舌骨・喉頭運動とbolusの移動との関係について(図9)舌骨・甲状軟骨の各運動相はbolusの通過とどのように関係しているのかという点について述べる。bolusの先端が口峡を超える時点は舌骨挙上第二相および前進相の開始後平均0.09±0.02秒である。すなわち舌骨の急速挙上相を反射期の開始とした場合、反射期はbolusが口峡を超える時点、すなわちbolusの移動から見た第二期よりももっと早くから始まっているのである。甲状軟骨との関係でみると甲状軟骨の挙上第二相は舌骨の挙上第二相と嚥下第二期開始との間にあり、舌骨との時間差は0.08±0.05秒であった。前述したように舌骨の挙上第二相と甲状軟骨の挙上第二相との差がほとんどない症例もあった。この場合には舌骨の挙上第二相とbolusの咽頭流入との時間差がほとんどないことになる。しかしbolusの咽頭流入が舌骨の挙上第二相よりも速い症例は1例もなかった。嚥下第二期の終了は舌骨が最大挙上・最大前進位置に停滞している間であるが、甲状軟骨との関係では第二期の終了は停滞相の終了付近に相当している。F.考察舌骨は口腔底、下顎、舌などと喉頭との中間に位置しいわばこれらの器官の間に宙づりにされた格好になっており、多数の筋が舌骨を経由している。これらのうち直接に舌骨に付着する筋だけでも顎二腹筋、茎突舌骨筋、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、胸骨舌骨筋、甲状舌骨筋、肩甲舌骨筋、咽頭舌骨筋、中咽頭収縮筋などがある。これらの筋が活動することで咀嚼、嚥下、発声など巧妙な動作がなされている。したがって舌骨の動きを調べることにより嚥下の動態を観察できると考えられる。(略)筆者は反射期における筋群の急激な活動が舌骨・喉頭運動の変化として表現されるだろうと考えX線映画撮影法を用いて同一フイルムにこの両者の運動(移動)を同時に記録しその軌跡を追うことにより嚥下時に解析を試みた。1.研究対象について今回の症例は全て男性であり、若年者を含んでいない。古川も述べているように女性では喉頭の計測点である甲状軟骨の前下縁の石灰化が十分でなく、計測点を定めることが困難であること、若年者は咽喉頭異常感を訴えることが少ないため症例が集まりにくいこと。造影剤の量については各報告者により異なるが、この量により嚥下の全経過時間、特に嚥下第二期がかわってくる、すなわち造影剤の量が少なければ短く、多ければ長くなるとされている。今回は通常の食事の摂取量に知覚、しかも一回で嚥下可能で二度飲みしない量として20mLと定めすべて1回飲みとした。また筆者は嚥下時の舌骨大角の方向、すなわち垂直方向の舌骨の回旋運動にも注目した。これを舌骨体の上端、下端の2点をとって両者を結ぶ直線の傾きよして測定を試みたがフイルム上に投影される見かけ上の舌骨体の長さ・幅はコマごとに変動を生じる例が多く、定量的な解析を行えるだけの例数が集まらずに定性的な検討に終わった。2.撮影法について被験者は立位としてバリウムを嚥下させた。舌骨の運動は頸部の状態(伸展・前屈)により変化すると思われるが、前屈した状態では舌骨が挙上した際にその撮影が下顎の陰影に重なり計測できないしたがって本研究はある程度頸部を伸展させた状態での測定結果である。この際なるべく自然に近い状態にするために頸部の固定は行っていない。このため嚥下時に頸部が大きく前後に動く症例では基準線・舌骨運動に相対的な変化が現れると考えられるため対象から外した。基準線を第3・第5頸椎間においたのは喉頭は安静時にはほぼ第5頸椎の高さにあること、また嚥下時に舌骨・喉頭はだいたい第3・第5頸椎間を動くこと、さらに基準点の決定が比較的容易であること、などの理由からである。撮影速度は可変式であるが30コマ/秒に固定して行った。bolusの曲がれに重点を置き、その解析を中心に行おうとするならばさらに高速度の撮影が必要だろう。Saunsersらは舌骨・喉頭よりも速い喉頭蓋の運動解析のために30コマ/秒以上の速さが必要であるとし、Ramseyは嚥下時の舌骨・喉頭の観察のためには30コマ/秒を推奨しており、Sheddが24コマ/秒でよいとしている。(略)今回30コマ/秒とした理由として①運動がbolusや喉頭蓋ほど速くなく、コマ数を上げる必要がないこと、②被験者の被曝量をでdきるだけ少なくするため、である。このため1/30秒(0.033秒)以下の時間関係の比較については言及できない。3.嚥下における舌骨運動の区分舌骨運動を上下方向では5段階に、前後方向では4段階に区分した。舌骨運動を上下前後別に測定した例はSaundersや古沢らの報告があるが、区分を試みた報告は少なく松本・古沢らの報告のみである。舌骨の運動経過を上下・前後別に図示したものに古沢らの報告がありその曲線は今回の研究で得たものと類似しているが、時間的な区分や運動距離については触れていない。舌骨運動を古沢は上下方向では5段階に区分し、これは本研究と一致しており、前後方向でも5段階に区分している。これは前述したように復元こう体操を下降第一相・第二相と同じように2つの層に区分したためで、本研究ではその境界がはっきりしないという理由から後退そうは1つの層としてあつかった。また古沢は舌骨運動を運動曲線としては現しておらず、実際の移動距離は椎体高にたいする相対的なものとしており、この天に関してはSaundersの報告も同様である。今回の研究では移動距離を計算する目的もあって移動距離は実測値として求めた。4.測定結果について今回測定した嚥下による舌骨運動の全経過は1.80±0.25秒であり、これは従来の報告とほぼ一致するか、やや大きい値である。従来の主な嚥下運動計測の報告を表4に示した。また各区分ごとの経過時間・運動距離を古沢の報告した学童期における舌骨運動計測と比較したものが票5である。各区分ごとの時間をみると上下方向でほぼ一致したのは舌骨の挙上前進運動器にあたる居城大2層のみで他はすべて1.5-2倍ほど今回の研究の値のほうが大きい。古沢の報告における嚥下全経過時間は約1秒であり、これは票4からもわかるように他の報告に比してかなり小さい値である。これは最初の挙上第1相の開始点および最後の下降大2層の終了天の決定の相違によると思われる。挙上第1層の開始は運動曲線の変化が少ないことから決定が難しい症例が少なくない。筆者は舌骨、喉頭、さらにBolusの移動状態から嚥下の経過を観察したが、これは舌骨だけからみると上記の理由のため見かけ上は第1層が短くなる可能性もあると考えられる。また下降第2相については前述したように舌骨や嚥下がすべて終了したあともしばらく安静時よりもやや高い位置にとどまっており、この時期のとりかたによって下降第2相の長さに差が出たものと思われる。次に停滞相の長さについて述べる。停滞相とは舌骨が最大前進・最大挙上位置にとどまる時期っであり、これは下咽頭腔を最大限に拡張してbolusの通過を助けるという意義があると考えられる。したがって舌骨はbolusが咽頭を通過し、全て食道内に入るまで停滞している必要がある。今回測定した嚥下第2相の長さは約0.60秒であり、これは挙上第2相と停滞相の合計の長さにほぼ一致する。bolusが全て食道内に入ってから舌骨は下降・後退を始めるのであり、これはSunadersの報告とも一致している。筆者の停滞期におけるdataが古沢のそれよりも2倍も大きな理由の1つに造影剤の量の違いが考えられる。古沢は1回嚥下量を5mLとしており、これに対して筆者の研究では20mLで行った。前述したように1回嚥下量が多くなれば嚥下第2期の所要時間は長くなり、このため両者の結果に大きな差がでたものと思われる。次に運動距離について比較してみる。古沢やSundersらは運動距離を椎体高を基準とした相対的な値として現している。椎体高として第4頸椎を代表させ、寺田らの頸椎モアレ写真を基に日本人の第4頸椎平均高を12mmと定めてこれから運動距離を算出したものが表5である。古沢の報告では下降相、あるいは後退相の数値が無く、またSundersらも下降相における結果を提示していない。したがって比較検討できるのは挙上相における運動距離のみである。この表から大きな差があるのは挙上第2相での移動距離である。本研究では舌骨と甲状軟骨の運動を同時に測定しておりこの両者の関連からみるとこの時期には舌骨のみならず喉頭も大きく挙上しておる、その活動量は25-30mmにも達する。この喉頭挙上は後述するように甲状舌骨筋の収縮による部分と、オトガイ舌骨筋などの収縮による舌骨挙上によって牽引される部分とから成っており、喉頭の挙上距離を考えると舌骨も相当量の運動を行っていると考えられる。古沢は挙上第一相と第二相とで役10.0mmとしているが、これは今回得られた結果と比較するとやや小さい数値のように思われる。この理由として加齢による舌骨の位置変化が考えられる。すなわち学童期には舌骨・喉頭はともに高い位置にあり、このため嚥下の際にもあまり大きく運動する必要がない。加齢とともに舌骨・喉頭はしだいにその位置が低下してくるために嚥下時には運動量が大きくなるものと思われる。(ネアンデルタール人のように喉頭の位置が高ければよかったのに)舌骨は喉頭と同様、嚥下終了時には前後・上下方向ともに安静時の位置には戻っていないが、これはすぐ次の嚥下に備えるためと思われる。通常の食事時には次々に食塊が送り込まれてくるが、その際その都度ごとに安静時の位置から運動を繰り返すのでは運動量が多すぎ追従できない恐れがある。やや挙上した位置からであれば容易に挙上第二相に移行でき、連続した嚥下にも対応できるものと考えられる。これは喉頭の場合でも同様であり、やはり嚥下終了時には前後・上下方向ともに安静時の位置まで戻っていない。5.嚥下における舌骨運動観測の意義嚥下における舌骨運動の役割は①挙上・後退することによる舌の保持、②前方への移動およびさらに大きく挙上することによる-同時に挙上する喉頭の作用と相まって-食道入口部の拡大にあると考えられる。すなわちbolusが口腔内から咽頭へ送り込まれる際には舌が後方へ移動し、bolusを後方へ押し込む。この際、舌骨が舌を後下方から保持することが必要であり、さらに咽頭腔を拡大するためにわずかに挙上する。この際、舌骨はその大角が水平に近づいて後下方に倒れ込む舌を保持する。咽頭へ送り込まれたbolusは食道入口部へ向かうが、この際舌骨はさらに挙上、そして大きく前進して下咽頭腔を拡大する。また同時に喉頭をも引き上げ、この作用を増強するとともに誤嚥の防止に役立つ。また舌骨は最大前進・最大挙上位置にとどまり、この間に嚥下第2期が終了する。これはbolusが入口部に全て流入する間、下咽頭腔を拡大しておくためであると考えられる。このように考えると舌骨運動で最も重要なのは挙上第2相と前進相、および停滞相であると考えられる。特に嚥下第2期に相当する挙上第2相・前進相では短時間のうちにこれらの動作を完了しなければならず、これは舌骨の移動速度がこの時期最大であることに現れている。挙上第1相や後退相ではbolusの咽頭流入に備えるためのいわば準備段階であるからこの時期での移動はあまり高速である必要はなく、事実これらはその値がごく小さい。また下降相や復元後退相ではすでにbolusが食道入口部を通過してからの運動で、下降第1相は比較的高速で行われているが、これは喉頭の場合と同様である。6.嚥下第2期の開始点と舌骨運動嚥下第2期とはbolusの面からみると、その先端が口峡をこえる時点から後端が入口部にかかった時点までの期間である。また筋電図的にみると輪状咽頭筋が弛緩している時期に一致するといわれている。これを舌骨の面から考察する。輪状咽頭筋の弛緩の開始した時点を第2期の開始と考えるならば、これは舌骨の挙上第2相の開始に相当すると考えられる。これは甲状軟骨の挙上第2相よりも0.08秒早い。古川は嚥下第2期の開始を甲状軟骨の挙上第2相としたが、舌骨はこれよりも早く急速挙上を開始している。ここで文献上から嚥下時に舌骨・喉頭に関与する筋の作用について考察してみたい。嚥下第2期の主な働きと主に関与する筋の関係はまず舌の運動では内舌筋群、外舌筋群が関与し、舌骨の動きには舌骨上筋群、舌骨下筋群、舌骨咽頭筋、外舌筋が、そして喉頭の位置変化には舌骨上筋群、舌骨下筋群、中・下咽頭収縮筋などが関与する。嚥下時に舌骨を挙上させる筋は解剖学的には顎二腹筋・顎舌骨筋・オトガイ舌骨筋・茎突舌骨筋が考えられ、また喉頭を挙上させる筋としては舌骨上筋4筋と、舌骨下筋では甲状舌骨筋が考えられる。胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋はその筋放電が嚥下時には抑制され、喉頭の挙上にはあまりあkンよしていないとされる。これらの筋のうち最も強力に舌骨を挙上させるのは顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋であり、また喉頭を引く上げるのはオトガイ舌骨筋、そして最も強く挙上させるのは甲状舌骨筋であるという点で緒家の報告は一致している。嚥下初期にはまずオトガイ舌筋が収縮し、次いでオトガイ舌骨筋が収縮する。挙上第1相・第2相がそれぞれ主としてオトガイ舌筋・オトガイ舌骨筋の収縮によると思われるが、この際すでに喉頭もわずかながら挙上を開始しておりこれは舌骨が喉頭を牽引するように引き上げていくためと思われる。このように舌骨と甲状軟骨の動きはわずかに舌骨が先行し、甲状軟骨はそれに追従するような形で運動を開始する。このあと甲状舌骨筋にて喉頭はさらに引き上げられる。吉田はオトガイ舌骨筋の収縮はbolusお先端が口峡を通過する時点より常に速いと報告しており、これはbolusがまだ口腔内にとどまっている時期に舌骨が挙上第2相を開始することを裏づけている。舌骨の挙上第2相開始と嚥下第2期の開始との差は平均0.13秒である。またこのことは口腔内にbolusがあるときからすでにbolusの受け入れ体制が整っているものと考えられる。G.結語正常者の嚥下における舌骨・喉頭運動を分析し次のような結果を得た1.舌骨運動は上下方向では緩徐な挙上期(挙上第1相)、急速な挙上期(挙上第2相)、最大挙上位置にとどまる時期(停滞期)、急速な下降期(下降第1相)、緩徐な下降期(下降第2相)に分かれ前後方向では後退期(後退相)、前進期(前進相)、最大前進位置にとどまる時期(停滞相)、元の位置に復元するための後退期(復元後退相)に分かれる。2.嚥下時にはbolusの通過を助けるためと誤嚥防止のために下咽頭腔の拡大および喉頭を挙上させる必要がある。これたの作用は舌骨の上下・前後運動に反映されていると考えられる。すなわち舌骨が大きく前進することにより下咽頭腔を拡大し、挙上することにより喉頭を引き上げる。誤嚥防止。3.bolusの先端が口峡を通過する以前に舌骨の挙上第2相は始まっている。

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    • dysphagia関連6(自発嚥下時における顎筋、舌骨筋群活動の時系列的検討

      自発嚥下時における顎筋、舌骨筋群活動の時系列的検討The time course of jaw and hyoid muscle activities during swallowing following mastication日本補綴歯科学会誌Vol.45(2001)No.5p582-291https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjps1957/45/5/45_5_582/_pdf摂食咀嚼嚥下は口腔から咽頭への一連の過程として機能するため、嚥下を考える上で嚥下咽頭期のみならず摂食咀嚼機能を含めた嚥下口腔期を理解することが重要である。咀嚼に引き続く自発的な嚥下の際の顎筋、舌骨筋群の活動様式を検索したところ、時系列的に一定の協調運動を行っていることが明らかになった。この活動様式の把握は摂食咀嚼嚥下障害の診断、治療に有意義な情報をもたらすと考えられる。抄録 目的:咀嚼運動に引き続く自発的な嚥下の際の顎筋、舌骨筋群の時系列的な活動様相を明らかにする。方法:被験者は成人有歯顎者9名。被験食品は直径、ゼリー強度、ゾル粘度を一定に調整した球状寒天。被験者には習慣性咀嚼側での咀嚼を指示し、食品摂取から自発的な嚥下終了まで、いずれも両側の咬筋、側頭筋前部、舌骨上筋群・下筋群の筋活動と下顎運動、喉頭運動を同時記録した。結果:咀嚼運動に引き続く自発的な嚥下に際し、咀嚼時とは異なる開閉口ストロークが観察され、この時期に舌骨上筋群・下筋群に第一の活動が認められ、舌骨上筋群・下筋群の順に活動を開始し、ほぼ同時に活動が停止した。次いで閉口動作に伴って、咬筋、側頭筋前部、が活動を開始し、遅れて舌骨上筋群・下筋群が第二の活動を開始し、咬筋、側頭筋前部、舌骨上筋群が静止した後、遅れて舌骨下筋群が静止した。この間下顎は閉口位を保持し、二峰性の喉頭運動波形が観察された。舌骨上筋群・下筋群の第一活動期はtransport stroke、咬筋、側頭筋前部の活動期および舌骨上筋群・下筋群の第二活動期は下顎の固定、口腔送り込み期、嚥下咽頭期が形成されていると推察された。結論:咀嚼から自発的な嚥下に至る過程において顎筋、舌骨筋群は時系列的に一定の協調活動を行っていることが明らかとなった。考察1.方法について1)被験食品について嚥下運動は咀嚼運動と同様、被験食品の性状によって影響を受けることが知られており、嚥下動態に関するこれまでの研究においても、液体として水、舌と口蓋で押しつぶしうる食品としてプリン、固形食品としてレーズン、マフィン、リンゴ、クッキーなどさまざまな被験食品を用いて比較検討がなされてきている。本研究では今後被験食品の量や硬さ、粘度が咀嚼運動に引き続く自発的な嚥下に及ぼす影響を明らかにすることを念頭におき、これら食品の性状を任意に調整しうる寒天を被験食品とした。Daetは大きさ、硬さを任意に変化させた球状寒天を被験食品として用い、食品性状が咀嚼時の下顎運動、顎筋活動に対する影響を報告しており、本研究はこれらの結果と比較検討を行いうる利点も有する。また本実験の嚥下閾あるいは自発的な嚥下回数に関する結果は、今回の被験食品がほぼ一定の性状で調整され、咀嚼の過程を通した食品性状の変化が各試行において一定であり、ほぼ一回の嚥下動作で全量の嚥下を終了しうる正常を備えていることを示している。すなわち今回用いた被験食品は本実験の目的に適した条件を備えたものであったと考えられる。2)被験筋について嚥下に際し、舌骨上筋群は舌骨、喉頭の引き上げ、舌骨下筋群は舌骨の固定や喉頭の引き下げ、といった機能を担っている。また嚥下時には下顎は引き上げられ、上下顎歯が接触する下顎位、すなわち嚥下位に固定される。今回の実験では被験筋として舌骨上筋群・下筋群、咬筋、側頭骨筋前部を選択し、表面電極により筋活動を導出した。山田、塩沢らは、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋が、舌骨上筋群のなかでは特に嚥下咽頭期に対応した活動を示すとしている。しかしながらこれらの筋は深部に位置し、筋活動を導出するためにはワイヤー電極を筋内に刺入する必要がある。表面電極を用いてこれらの筋活動を導出した場合、塩沢らも報告しているように記録された活動は周囲の舌骨上筋群の活動も含んだ集合電位であることは否定できない。そこで、被験者間での差がより少なく、再現性があり、侵襲がないことを念頭に表面電極を顎二腹筋前腹相当部位に貼付し、舌骨上筋群の筋活動を導出、検討した。同様に、舌骨下筋群は胸骨舌骨筋、肩甲舌骨筋、甲状舌骨筋などから構成され、各筋活動を導出するもはワイヤー電極の刺入が必要である。そこで再現性のある方法として、Craryらの報告を参考に表面電極を貼付し、舌骨下筋群の筋活動を導出、検討した。3)喉頭運動の記録について喉頭運動に伴う甲状軟骨の上下動は、嚥下咽頭期を表す重要な指標である。本実験の結果から、各試行ごとに咬筋、側頭筋前部の活動期と舌骨上筋群、舌骨下筋群の第二活動期において二峰性の波形が明瞭に記録された。これは食物が咽頭通過後、甲状軟骨の下方への動きに伴う波形である。この波形は咀嚼運動中および舌骨上筋群・下筋群の第一活動期においては認められず、体動や振動によるものとは明確に区別することができた。すなわちこの波形により嚥下咽頭期を確実に把握できたものと考えられる。なお記録される波形は記録装置を貼付した皮膚の下を甲状軟骨が通過する際の圧の変化である。このため記録装置の貼付位置や頭位変化などによる頸部皮膚の緊張状態の変化により記録装置と甲状軟骨との位置関係が変化する。したがって今回の実験では喉頭運動に関する時間的分析は行わなかった。喉頭運動と筋活動の時間的な関係についての詳細な検討はデジタルビデオやX線ビデオ(Videofluorography)などを用いた喉頭運動の視覚的記録方法により行うべきであろう。2.実験結果について1)各被験者の嚥下閾、咀嚼運動中の嚥下回数および咀嚼に引き続く自発的な嚥下回数河村ら、塩沢ら、Daetは同一試料を摂取した場合の嚥下閾は被験者ごとに差異が認められるが各被験者においてはほぼ一定であると報告している。また嚥下閾には食品の粉砕度や性状が深くかかわってくるとされる。本実験の結果は、咀嚼から嚥下に至る過程が各被験者において比較的安定していたことを示すものである。またPalmerらは水、ピーナッツ、マフィン、リンゴ、ガムを、Hiimaeらは、水、チキン、バナナ、クッキーを被験食品として用い、X線ビデオ(Videofluorography)により咀嚼から嚥下に至る過程の食物動態を観察した結果、咀嚼運動中に食塊の咽頭への送り込みは認められたが、咽頭を通過する狭義の嚥下は認められなかったと報告している。谷本らはペースト状食品としてプリン、軟性線維性食品としてレーズンおよびその混合食品を被験食品として用い、開閉口筋群の活動時期の検討から、咀嚼運動中に嚥下を伴う運動が認められると報告している。本実験では咀嚼運動中には嚥下咽頭期を示す二峰性の明らかな喉頭運動波形は認められなかった。また咀嚼終了後に二回連続した嚥下が観察された割合は6.7%であった。これらinterposed swallow、咀嚼に引き続く自発的な嚥下回数に関しては、食品性状、量を変化させた今後の詳細な検討が必要である。2)咀嚼運動に引き続く自発的な嚥下時における顎筋、舌骨筋群の時系列的な活動様相Palmerらは摂食、咀嚼から嚥下に至る一連の過程において、咀嚼および嚥下時の下顎、舌の運動、食物の動態と各筋筋活動との関係を検索している。また虫本ら、古山も、咀嚼から最終嚥下終了までの各サイクルごとに開閉口筋活動の同期性を判定し咀嚼傾向と嚥下傾向は判別できること、食品の性状、量の違いによる咀嚼傾向と嚥下傾向の特徴を評価できること、さらにこの嚥下動作の評価から咀嚼機能の加齢変化が評価できると報告している。Palmerらは各開口ストロークの最大開口点を基準として分析しており、本研究の分析とは表現方法が異なっているが、食物の咽頭通過が観察される嚥下ストロークでは閉口に伴い咬筋活動が観察され、その後閉口位に至り、オトガイ舌骨筋、顎二腹筋前腹が著明な活動を示し、嚥下咽頭期に至るとしている。またこの嚥下ストロークでは咬筋活動は閉口後も持続し、顎二腹筋活動の初期には重複して観察されるとしている。また虫本らの報告においても、喉頭運動が観察される嚥下ストロークでは、咬筋、側頭筋後部の筋活動と、顎舌骨筋、顎二腹筋前腹の筋活動の活動開始時期が、咀嚼ストロークと比べ時間差が少なく、各被験筋の筋活動の重複が認められるとしている。今回の結果で、喉頭運動が観察される咬筋、側頭筋前部の活動期、舌骨上筋群・下筋群の第二活動期の様相もこれらの報告に一致するものであった。さらに本研究ではこれらの筋群の活動開始時期、静止時期の違いを明らかにしえた。すなわちこの活動期においてはまず下顎を固定するために閉口筋である咬筋、側頭筋前部が活動し、舌骨上筋群の活動により舌骨を上方へ移動させ、舌による食塊の咽頭への送り込みが生じ、嚥下咽頭期が形成されていると考えられる。一方、これらの活動に先行して認められた舌骨上筋群・下筋群の第一活動期はPalmerらによるtransport strokeに相当するものと考えられる。Palmerらの報告では嚥下ストローク直前のストロークでは、開口開始から舌が口蓋前方から後方へ押し付けられ、食物が咽頭へ移送される様子が観察された。そのストロークでは舌運動に伴い顎二腹筋前腹、オトガイ舌骨筋には二峰性の活動が認められ、その活動を反映して開口運動軌跡も咀嚼ストロークとは異なり、いったん閉口に転じ、閉口位に至る前に再び開口に転じるとしている。本実験においても今後被験食品の性状の変化が顎筋、舌骨筋群の活動に影響を及ぼすことも考えられ、詳細な検討が必要である。咀嚼運動から嚥下に至る顎口腔機能を考える上では嚥下咽頭期を含む狭義の嚥下のみならず、その準備段階としてのこれらのストロークを含めた運動に対する検討も必要である。また一般の被験食品を用いた際には厳密には食品の性状を規定しこれらを変化させることは難しい。今回得られた知見は今後被験食品の性状を変化させた際の研究の基礎となるものであり嚥下障害の診断治療を行ううえで有意義な情報となるものである。Ⅴ.結論1.咀嚼に引き続く自発的な嚥下に際し、咀嚼に伴う最後の咬筋、側頭筋前部のバースト状活動の静止とほぼ同時期に、舌骨上筋群・下筋群は開口動作に伴う活動(第一活動期)を開始し、閉口動作に移行するまで比較的長く持続した。その間、咬筋、側頭筋単于は活動を静止したが、閉口動作に伴って活動を開始し、比較的長く接続した。この間、下顎は閉口位を保持した。舌骨上筋群・下筋群は第一活動期の後、活動がいったん静止し、その後、閉口位が保持されている時期にさらなる活動(第二活動期)が観察された。この時期に嚥下咽頭期の喉頭運動を反映する甲状軟骨の上下動を伴う二峰性の波形が観察された。これらの結果から舌骨上筋群・下筋群の第一活動期はtransport strokeに相当し、咬筋、側頭筋前部の活動期および舌骨上筋群・下筋群の第二活動期に、下顎の固定および口腔送り込み期と嚥下咽頭期が形成されると推察された。2.本実験の結果から咀嚼から自発的な嚥下終了に至る過程における顎筋、舌骨筋群の時系列でみた協調活動様式が明らかになった。Ⅱ.方法1.被験者および被験食品被験者は顎口腔系に機能以上とその既往を認めない健康な成人有歯顎者9名(男性9名。年齢23-32歳、平均25.4±2.2歳)とした。被験食品にはアクリル樹脂製の型枠(工匠プラスチック,仙台,特注)にて球状(直径15mm)に調整した寒天を用いた。食品の硬さはゼリー強度730g/cm3、粘度はゾル粘度20cpと一定に設定した。2.顎筋、舌骨筋群筋活動、下顎運動および喉頭運動の記録被験者をシールドルーム内の歯科用治療椅子に頭部を固定することなく安静状態で座らせた。つまようじに刺した被験食品を被験者に手渡し、食品摂取から自発的な嚥下が狩猟するまでの顎筋、舌骨筋群の筋活動と下顎運動、喉頭運動をデータレコーダ(TEAC,XR7000)に同時記録した。記録は各被験者について5試行ずつ行った。このとき被験者には、習慣性咀嚼側による咀嚼を指示した。また下顎運動記録の基準位を得るため各試行の開始前と終了後に、咬頭□合位で下顎を保持することを指示した。筋活動は、咬筋、側頭筋前部、舌骨上筋群および舌骨下筋群から表面筋電図を両側性に導出し、記録した。咬筋、側頭筋前部の筋活動は、電極間距離20mmに固定した直径2mmの銀-塩化銀皿状表面電極を、筋繊維走行に沿って貼布し、双極導出した。舌骨上筋群の筋活動は顎二腹筋前腹相当部位に、舌骨下筋群の筋活動は甲状軟骨の側方約1cmの胸骨舌骨筋相当部位に、それぞれ電極を貼布して双極導出した。導出した筋電図は生体信号用増幅器(日本電気三栄,バイオトップ6R12)にて5~1,500Hzで帯域濾過後増幅し、メモリスコープ(日本光電,VM-68G)上で観察した。下顎運動は、Mandibular kinesiograph(Myotronics,MK-5)を用いて、下顎切歯点の三次元的な運動軌跡として記録した。喉頭運動は高感度圧トランスデユーサー(共和電業,PSL-200GA)を組み込んだ自作の圧記録装置を甲状軟骨上方の皮膚上に貼布し、嚥下咽頭期にみられる甲状軟骨の上下動に伴う圧変化とした。3,分析実験終了後、筋電図、下顎運動軌跡記録をサンプリング時間0.5msecでA/D変換し、シグナルプロセッサ(日本電気三栄7T18)に入力し、分析に供した。本研究での分析項目は、各被験者の食品摂取から嚥下開始までの咀嚼回数、すなわち嚥下閾、および嚥下時の開口開始点を基準とした各日献金の活動開始および静止までの時間、活動持続時間などの筋活動の時間的要素とした。これらを比較することにより時系列的な顎筋、舌骨筋群の活動様相について検索した。嚥下閾は下顎運動軌跡の垂直成分波形から咀嚼回数を算出することにより求めた。各被験筋の筋活動開始、静止までの時間は、シグナルプロセッサのモニターに表示した下顎運動軌跡の垂直成分上で嚥下時の開口開始点、筋電図上で筋活動開始点、静止点をカーソルを用いて手動で指定することにより求めた。なお筋活動開始点はbaseline activityの2SDを超えた時点、筋活動静止点はbaseline activityの2SDに戻った時点として設定した。各被験筋の筋活動開始、静止までの時間は、被験者9名それぞれ5試行の合計45試行の平均値として求めた。統計学的解析には各被験者における5試行の平均値を代表値として用い、分散分析(ANOVA)とTukey testによる多重比較を用いた。Ⅲ.結果1.各被験者の嚥下閾、咀嚼運動中の嚥下回数および咀嚼に引き続く不発的な嚥下回数各被験者の平均嚥下閾を表1に示す。嚥下閾は4.6±0.5~19.2±1.6回に分布し、被験者間での嚥下閾は異なった。しかし、各被験者個々の標準偏差は小さく、全被験者において今回の比肩食品を咀嚼、嚥下する過程は比較的安定していた。さらに本実験では、筋電図、喉頭運動波形から咀嚼運動中の嚥下interposed swallowは認められなかった。また、咀嚼に引き続く自発的な嚥下は全45試行中3試行(6.7%)のみで、2回連続する嚥下として観察された。ほかのすべての試行では嚥下は1回で終了していた。なお2回嚥下が観察された試行に関しては1回目の嚥下を対象として分析した。2.自発的な嚥下時の顎筋、舌骨筋群活動咀嚼に引き続く自発的な嚥下の際の顎筋、舌骨筋群活動の一例を図1に示す。嚥下時の下顎運動軌跡は、咀嚼運動に伴う開閉口ストロークに引き続き、持続時間が比較的長い開閉口ストロークとして観察された。このときの運動経路は咀嚼ストロークとは明らかに異なり、この図のように途中でいったん閉口動作に伴うものが数多く観察された。次いで閉口位に至った後、喉頭運動記録装置による二峰性の波形が明瞭に観察された。これらの開閉口動作、喉頭運動に対応し、顎筋、舌骨筋群には以下のような活動がみられた。咬筋、側頭筋前部の咀嚼に伴う最後のバースト状活動の静止とほぼ同時期に、舌骨上筋群、舌骨下筋群は開口運動に伴った活動(第一活動期)を開始し、比較的長く持続した。その間、咬筋、側頭筋前部は活動を静止していたが、下顎が閉口動作に移行し閉口位を保持している時期に、持続時間の比較的長い活動が認められた。舌骨上筋群、舌骨下筋群は第一活動期の後、いったん活動が静止したが、咬筋、側頭筋前部の活動期とほぼ同時期に、さらなる比較的持続時間の長い活動(第二活動期)が観察された。喉頭運動波形はこの活動期に同期して記録された。これらの下顎運動、喉頭運動に対応した筋活動の様相はすべての被験者において同様に認められた。3.自発的な嚥下時の顎筋、舌骨筋群活動に関する時系列的分析1)舌骨上筋群、舌骨下筋群の第一活動期とこれらに先行する咬筋、側頭筋前部の活動期について本研究では舌骨上筋群、舌骨下筋群の第一活動期とこれらに先行する咬筋、側頭筋前部の活動期における各被験筋の活動開始点、活動静止点を第一の分析項目として設定した。図1いこれらの時系列的な活動様相に関しての分析区間(点線で囲まれた部分)を示す。なお計測にあたっての時間的な基準点は、嚥下時の開口開始点とした。図2ならびに表2に9名の被験者各5試行の平均値を示す。票2は左右側すべての被験筋の活動開始点、静止点の平均時間を示したものである。いずれの筋においても左右側間には有意な差を認めなかった。そこで以下に右側被験筋間での時系列的な協調活動様相を述べる。舌骨上筋群、舌骨下筋群の第一活動期は、舌骨上筋群は開口開始に130±110msec先行して活動が開始し、650±340msec後に活動が静止した。舌骨下筋群は開口開始に30±140msec先行して活動が開始し、700±350msec後に活動が静止した。活動開始までの時間は被験筋間で統計学的有意差が認められた(ANOVA,p>0.05)すなわち咀嚼から嚥下へと移行する時期において、開口運動に伴う舌骨上筋群の活動がまず開始し、次いで舌骨下筋群が活動を開始した。これらの開始時期とほぼ同時に咀嚼運動に伴う最後の咬筋、側頭筋前部の活動が静止した。その後、舌骨上筋群は約780msec、舌骨下筋群は約730msec活動が持続し、ほぼ同時に活動が静止した。2).咬筋、側頭筋前部の活動と舌骨上筋群、舌骨下筋群の第二活動期次に、咬筋、側頭筋前部の活動期と舌骨上筋群、舌骨下筋群の第二活動期を第二の分析項目として設定した。分析区間を図1(実線で囲まれた部分)に、結果を図3、表3に先と同様に示す。咬筋、側頭筋前部は開口開始からそれぞれ830±600、840±580msec後に活動を開始し、1,760±760、1,800±740msec後に静止した。咬筋を基準として舌骨上筋群、舌骨下筋群の第二活動期を比較すると、舌骨上筋群は咬筋の活動開始から200±170msec遅れて活動を開始し、舌骨下筋群はさらに90±120msec遅れて活動を開始した。これらの筋活動は、咬筋の活動静止から舌骨上筋群が160±290msec、舌骨下筋群は210±280msec遅れて静止した。また最後の咀嚼ストロークに伴う咬筋、側頭筋前部の活動が静止した後、咬筋、側頭筋前部が活動を開始するまでの時間は、咬筋が900±690msec、側頭筋前部が920±670msecであった。この活動期における活動開始、活動静止までの時間は、被験筋間で統計学的有意差が認められた(ANOVA,p<0.05)多重比較の結果、咬筋と舌骨上筋群間、咬筋と舌骨下筋群間、側頭筋前部と舌骨上筋群間、側頭筋前部と舌骨下筋群間の活動開始点、咬筋と舌骨下筋群間の活動静止点に統計学的有意差が認められた(Turkey test,p<0.05)すなわち嚥下咽頭期を含むこの時期においては、咬筋、側頭筋前部の活動がまず先行して開始し、これらの活動は、約850-960msec持続し、咬筋、側頭筋前部、舌骨上筋群が活動を静止した後、舌骨下筋群の活動が静止した。

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    • dysphagia関連5(嚥下時における舌骨の運動様相と食塊移送の検討)

      嚥下時における舌骨の運動様相と食塊移送の検討Spatial and temporal relationship between swallow-rellated hyoid movement and bolus propulsion during swallowing日本顎口腔機能学会誌Vol.20(2015)No.1p22-32https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka1947/90/5/90_5_669/_pdf抄読 本研究は、嚥下障害のある患者と健常者の舌骨運動時間と距離、舌骨位、および食塊移送のタイミングを比較することにより嚥下障害における病態の1つと考えられる舌骨位の下垂が嚥下機能にどのように影響しているかを検証することを目的とした。対照は嚥下障害を主訴として来院され嚥下造影検査を行った65名の患者(以下患者群)、対照として健常被験者10名(以下健常群)とした。また第4頸椎前下縁を基準として舌骨位を計測し、患者群と健常群で比較を行った。患者群では食塊移送時間が口腔、咽頭ともに延長しており、更に食塊の咽頭流入は嚥下反射惹起を示す急速な舌骨挙上と比べ有意に先行していた。第4頸椎を基準とした場合、患者群と健常者群に明らかな舌骨位の違いは認めなかった。疾患別の検索を行うと嚥下反射以降は各疾患とも類似した舌骨の動きが認められたが、嚥下反射前は複雑な軌跡を示した。いくつかの疾患では嚥下反射惹起前の舌骨の移動距離と移動時間に正の相関関係が認められたため、舌骨位が嚥下反射惹起遅延に影響を与えている可能性が考えられた。Ⅰ 緒言嚥下は広義には食塊を口腔から胃へ搬送する一連の消化管活動を指す。中でも食塊が咽頭を通過する協議の嚥下、嚥下咽頭期には、咽頭・喉頭の筋の他、舌、舌骨筋群などが関与し、嚥下のパターン発生器の制御舌で一定の活動様式を示す。その際、咽頭筋や舌筋とともに舌骨上筋群が収縮して舌骨が上前方に移動し、これに追従する形で舌骨下筋群の収縮により喉頭が挙上し、併せて輪状咽頭筋の弛緩と収縮が連続的に生じて食塊は食道入口部を通過する。一方これらの活動は、食塊が喉頭に進入するのを防ぐ気道防御にも関わっており、複雑で緻密に制御された動きは、ヒトを含めたすべての哺乳類でわずか0.6から1.0秒程度で遂行される。脳血管疾患や加齢などの理由によりこの嚥下反射時の一連の活動の協調性が崩れることで、食塊の咽頭残留、喉頭侵入や誤嚥を生じ、結果、死の原因ともなりうる誤嚥性肺炎を招く。以上のような嚥下咽頭期は嚥下障害の臨床において最も大切な評価対象となる。嚥下障害における、主たる病態のひとつに喉頭や舌骨下垂があげられる。舌骨・喉頭複合体の前方移動量の低下は、喉頭侵入、誤嚥のリスクを高めていたという報告や、頭頸部腫瘍術後患者は舌骨移動量の減少が認められたという報告がなされている。しかしながら食塊移送に伴う嚥下反射のタイミングで示される時間的要素と、舌骨位やその移動量で示される空間的要素との協調性を定量的に調べた報告は少ない。嚥下障害を主訴に来院された患者と健常者の嚥下動態を比較して、安静時の舌骨位や嚥下咽頭期における舌骨の運動様相および食塊移送との協調性について検証することを目的とした。Ⅱ.研究方法1.被験者および検査方法対象は嚥下障害を主訴として来院され、嚥下造影Videofluorography,VFの実施に同意した65名の患者(男性55名、平均年齢71歳)(患者群)および対照として20-30代の健常被験者10名(男性8名、平均年齢29歳)(健常群)とした。患者群の内訳は神経筋変性疾患16名、脳血管疾患12名、口腔腫瘍術後8名、呼吸器疾患10名、消化器疾患10名、その他の疾患9名であった。VF検査時点で、いずれの患者も直接訓練を含む何らかの経口摂取を行っていた。また患者群においてはVF施行時に誤嚥がみられなかった症例を選択した。その理由として検査食であるとろみ付液体を誤嚥するような重度の嚥下障害患者は舌骨・喉頭の運動量が極めて小さい場合が考えられ、それらのデータを含めることによる分散の増大、舌骨位計測の偏りを避けるためである。(略)被験者は90度座位、頸部中間位の姿勢をとらせた。検査食は2%w/wのとろみ付与(トロミアップパーフェクト、日清オイリオ)を施した40%w/v硫酸バリウム溶液3mLとし、検査者が被験者の舌下部にシリンジにて注入した後に、被験者が各自のタイミングで嚥下(Dropper type swallow)するように指示し、VF側面画像(図1)の撮影を行った(ULTIMAX 80,東芝メデイカル)撮影時、おとがい下部正中に直径11mmの鉄球を貼布し、これを実測値計測の際の基準とした。撮影された映像を30コマ/秒のサンプリング速度にてパソコンに取り込んだ。2 画像の解析方法画像解析は画像ソフト(ImageJ ver.1.4.5,National Institutes of Health)を用いて行った。画像結果よりA 随意嚥下開始に伴う舌尖の運動開始、B 舌骨挙上運動開始、C嚥下反射開始に伴う急速な舌骨挙上開始、D舌骨の最前上方位到達、E舌骨の急速下行開始、F嚥下終了後の舌骨安静位、の各時刻を舌尖の運動開始を基準として計測した。(図2)舌骨位および運動の計測に際し、過去の報告に基づき、第4頸椎の前下縁を原点、第2頸椎および第4頸椎の前下縁を通過する直線をY軸、Y軸に直行して原点を通過する軸をX軸とした座標系を設定した。各計測項目の画像における舌骨大角前下縁の座標点を舌骨位とし、原点からのX-Y座標点(mm)で計測した(図1)さらに、食塊移送の状態を調べる目的で、Ⅰ食塊先端が下顎枝後縁を通過(食塊の咽頭流入開始)、Ⅱ食塊後端が食道入口部に到達、Ⅲ食塊後端が食道入口部を通過の各時刻を舌尖の運動開始を基準として求めた(図2)全パラメーターを対象として、健常群と患者群の平均値を比較した。また疾患別の検索では平均値の比較に加え、舌骨挙上開始から急速な舌骨挙上までの舌骨移動時間、および移動距離に関して、値の相関関係を検討した。3.統計検定健常群と患者群の同一のイベント間に要した時間や動きの比較にはマンホイットニーのU検定、同一群内の舌骨運動と食塊流入のタイミングの比較にはウイルコクソン符号順位和検定、舌骨移動時間と移動距離の相関関係はスピアマンの順位相関係数を用いて解析を行い、いずれも5%以上を有意水準とした。Ⅲ.結果1.舌骨の動きと食塊移送にかかる時間経過との比較舌尖の運動開始を基準とした舌骨運動と食塊移送の時間経過を比較すると、患者群では遅延していた。(図3)また各イベント間に要した時間の比較では、健常群に比べ、患者群では舌尖の運動開始から舌骨挙上開始、および舌骨挙上開始から嚥下反射惹起に伴う急速な舌骨挙上までの時間が、有意に延長し、食塊移送にかかる時間も延長していた(図4)嚥下反射開始を示す急速な舌骨挙上を基準として、食塊の咽頭流入の指標となる食塊先端の下顎枝後縁通過を比較すると、健常群では有意差は認められないものの、急速な舌骨挙上が先行する傾向を認めたが、患者群では有意に食塊移送が先行し、嚥下反射惹起前の食塊の咽頭部早期流入傾向を示した。(図5)一方、嚥下反射終了を示す舌骨急速効果開始と食塊後端の食道入口部通過を比較したところ、健常群では有意差は認めないが、食塊移送が遅れる傾向が認められた(図5)また食塊移送に関して患者群では食塊の咽頭内通過時間が有意に延長していた。(図6)2.頸椎を基準とした健常群、患者群の舌骨位の違い第4頸椎を原点とした舌骨運動の軌跡を比較したところ、舌骨最前上方位、安静位を含め、患者群と健常群の舌骨位に有意な差は認められなかった(図7)しかしながら各イベントの舌骨位に関して、患者群では、変動係数がX座標(0.145-0.191)、Y座標(0.412-0.802)で、健常群はX座標(0.080-0.142)、Y座標(0.300-0.997)であり、両群ともY座標ではX座標に比べより大きな個人差が認めた。またX座標に関しては健常群より患者群の方が変動係数は大きく、水平移動量の個人差が考えられた。3.疾患別による舌骨の移動時間と移動距離舌骨移動時間に関して各イベント間に要した時間の比較では、いずれの疾患も健常群と比べると嚥下反射惹起に伴う急速な舌骨挙上までの時間が延長しており、これらに有意差は認められないものの、疾患により、相違を認めた(図8)一方急速な舌骨挙上(反射惹起)以降の各イベントは同様な時間経過となっていた。舌骨の移動軌跡に関しては、各疾患とも反射惹起以降の軌跡に比べ、反射惹起前は、複雑な運動を呈していた(図9)舌骨位の有意差は認めなかったが、患者群は上方への移動量が少ない反面、前方移動量が大きい傾向が認められた。嚥下半反射惹起前の舌骨挙上開始から急速な舌骨挙上までの舌骨移動距離と要した時間との間の相関を調べたところ、呼吸器疾患と消化器疾患では正の相関を認めたが、神経筋変性疾患や脳血管疾患、口腔腫瘍術後では相関関係が認められなかった(図10)Ⅳ.考察1.食塊移送のタイミング患者群では、舌尖の運動開始から舌骨の急速挙上開始まで、すなわち随意運動開始から嚥下反射惹起までの時間が延長していたが、その後の舌骨運動の時間経過、すなわち嚥下咽頭期における舌骨運動にかかる時間については両群間で差が認められなかった。過去の報告では咽頭への食塊流入に対する嚥下反射惹起の遅れにより喉頭侵入のリスクが高まったという報告があり、特に高齢者にその傾向が認められている。また嚥下障害を呈する筋委縮性側索硬化症例では、嚥下反射前の食塊咽頭早期流入、クリアランスタイムの延長があり、喉頭侵入、誤嚥のリスクが高いこと、同様に、脳梗塞患者で誤嚥のある患者は嚥下反射惹起遅延や、咽頭通過時間の延長に加え、喉頭閉鎖時間の短縮を認めたことを報告されている。本研究では患者群において、口腔、咽頭内の食塊移送時間がともに延長していた。特に嚥下咽頭期では咽頭への食塊流入に対する嚥下反射惹起時間の遅延を認め、これらの嚥下運動の協調性が崩れていたことは、喉頭侵入や咽頭残留につながるリスクを増長すると考えられる。咽頭期の食塊移送と喉頭挙上、咽頭収縮のタイミングに関して、食塊の物性の違いにより嚥下タイミング、喉頭挙上時間の変化が生じ、食塊量が多くなるほど移送時間が延長することが知られている。本研究では1種類の検査食であったが、食塊の物性や量の違いによる嚥下のタイミングの変化や、舌骨の運動様相の検索も必要である。2.舌骨位測定の基準と舌骨移動量舌骨位は健常群と患者群で有意な差が認められなかった。その理由の1つは基準点の設定位置の問題が考えられた。これまでの報告では舌骨位やその運動量測定の基準点を頸椎としているものが多く、本研究でもその中でも特に報告の多い基準点の1つである第4頸椎前下縁を原点とし、第二、第四頸椎前下縁を結ぶ線をY軸とするものを選択した。一方で、第三頸椎上端と第五頸椎下端をY軸とし、第五頸椎を原点としている報告もある。Steeleらは頸椎間距離が男性で女性よりも有意に大きかったと述べており、健常者においても頸椎椎間板の加齢変化として狭小化が生じ、頸椎や、椎間板自体が様々な要因で変化していることが考えられる。本研究の結果においても、舌骨位のY座標の変動係数は健常群、患者群ともに大きく、頸椎や椎間板の男女差や年齢差などが影響した可能性が考えられた。また測定方法に関して、第二・第四頸椎を基準にした場合と、第二・第五頸椎を基準にした場合、舌骨位の計測結果に有意に差が認められている。さらに画像解析痔の測定誤差は考慮しなければならない。健常若年者と健常高齢者を対象としたVF画像を解析し、、カンペル平面を基準面とした場合には舌骨の動きと食道入口部の開大に相関が認められ、嚥下造影検査の基準としてカンペル平面は有用であったと述べた研究がある。一方で、下顎下縁平面を1つの基準として、液体の連続嚥下の際に、舌骨の挙上が、下顎下縁平面を超えない場合に、機械的な喉頭侵入像がより多く認められており、下顎にたいする舌骨・喉頭複合体の挙上量や位置は嚥下動態を反映する可能性は考えられる。舌骨は舌骨上筋群と下筋群により結ばれ、下顎と喉頭の中間位にある解剖学的な点を考慮しても、舌骨・喉頭下垂という病態を考える上で、頸椎を基準として舌骨位を考えることには議論の余地があると考えられた。舌骨の移動量に関しては本研究では健常群における水平移動量が9.56±2.18mm、垂直移動量が16.0±6.7mmであった。健常被験者で同量の食塊3mLの液体を用いた過去の報告では、水平移動量が9.7±1.4mmで、垂直移動量が12.1±1.1mmであり、また過去の評論では5mL以下の食塊のみに注目すると、水平移動量約9.0-18.0mm、垂直移動量が約7.8-18.0mmと幅のある範囲で示されており、これらの値と本研究の舌骨移動量は大きく剥離していないものの、舌骨移動量の計測は、被験者の嚥下機能、年齢層のみならず、検査食の物性や量、計測指標の違いによりその数値は異なると考えられた。また頸椎を基準にした場合、患者群は健常群に比べると舌骨の上方移動量はやや減少し、前方移動量が増加する傾向にあり、過去の報告の健常高齢者のデータと一致していた。前方移動量の増加は加齢、もしくは嚥下機能低下による舌骨・喉頭複合体の挙上不足を補う代償的なものであり、また、これらの個人間の差が患者群の舌骨位のX座標の変動係数にも表れた可能性が考えられた。今後、筋電図や舌圧計測などを駆使して舌骨移動量の違いを評価する方法を考えていきたい。3.舌骨移動時間と舌骨移動距離の関係本研究では患者群において、随意嚥下開始から嚥下反射惹起までの時間が健常群に比べ延長していたが、その後の急速な舌骨挙上以降の舌骨運動の時間経過、すなわち嚥下咽頭期における舌骨運動に関わる時間については両群で差が認められなかった。さらに患者群では健常群に比べ舌骨移動時間や移動距離において標準偏差が大きく、バラツキが認められたため、原疾患による何らかの違いが予測された。嚥下反射惹起前の舌骨位および移動時間に注目した結果、疾患別の違いが認められた。舌骨移動距離に関する過去の報告では、特定の疾患のみに注目した報告が散見され、頭頸部腫瘍術後患者で舌骨挙上、および前方移動量が低下していた。あるいは脳血管疾患患者を対象に誤嚥のある患者は舌骨の挙上時間が短い傾向にあったという報告がある。一方舌骨移動時間に関する既報として、Kendallらは、嚥下障害のある高齢者と健常高齢者、健常若年者の食塊の咽頭流入と舌骨移動のタイミングを比較し、高齢者では食塊の咽頭移送に対する舌骨挙上開始の遅れが有意に認められたと述べている。この報告の中で、嚥下反射惹起の舌骨挙上のサイクル時間に差が認められなかったという結果は、本研究で得られた嚥下咽頭期の舌骨移動時間が健常群、疾患群の両群で差がなかったという知見と一致している。舌骨移動距離と移動時間の相関関係を分析した研究は我々が知りうる限りでは過去に報告例がない。舌骨挙上開始から急速舌骨挙上までの舌骨移動距離が短い患者は、嚥下反射惹起前の舌骨位が、反射惹起地点に近い高位にあり、より短い時間で嚥下反射惹起が可能であり、舌骨移動距離が長い(舌骨・喉頭下垂)患者は舌骨が反射惹起地点より遠く、嚥下反射惹起には時間を要すといえる。今回、呼吸器疾患、消化器疾患に舌骨移動距離と移動時間の間に正の相関を認めたが、神経筋変性疾患や脳血管疾患、口腔腫瘍術後症例では相関が認められなかった。神経筋変性疾患や脳血管疾患は神経学的な問題、口腔腫瘍術後患者は器質的な問題が嚥下反射惹起遅延の理由になり、舌骨位そのものへの影響が少なかったのかもしれない。一方、呼吸器疾患や消化器疾患症例における反射惹起(移動時間)の遅れは、嚥下関連器官の神経学的や器質的な機能低下がないため、舌骨・喉頭下垂を含めた舌骨位(移動距離)の影響が直接反映され、そのことが舌骨移動距離と移動時間の正の相関関係に示されたと考えられる。本研究の限界として以下の点があげられる。1つは対照群を若年健常者としているため、群間の比較では嚥下障害の他に加齢要因が関わってくる可能性を無視できないことである。加えて食塊の物性、量による嚥下動態や舌骨位の違いの検討も必要であろう。今後は健常高齢者を対象として追試を行うことに加え。母集団を増やし、病態に応じた細分類を目指すとともに、スクリーニング検査上の臨床症状との間で対応するパラメーターを検討し、舌骨位などから、嚥下障害パターンの予測、診断の一助となる可能性を期待する。Ⅴ.結果患者群では食塊移送時間が口腔、咽頭ともに延長しており、嚥下運動パターンと食塊位置のバランスが崩れていた。これらは喉頭侵入や咽頭残留につながると考えられた。第四頸椎を基準とした場合、患者群と健常群に明らかな舌骨位の違いは認めなかった。疾患別の検索を行うと、嚥下反射以降は各疾患とも似たような舌骨の動きが見られたが、嚥下反射前は単曲線では示されない複雑な軌跡を示し、反射惹起の遅れはその移動距離と移動時間の相関関係から舌骨位の影響が大きいと考えられる疾患が存在した。

      テーマ:
    • dysphagia関連4(ヒト茎突舌骨筋の舌骨停止部のSEM観察)

      ヒト茎突舌骨筋の舌骨停止部のSEM観察Scanning electron microscopic study of the insertion of the human stylohyoid muscle into the hyoid bone歯科基礎医学会誌Vol.43(2001)No.1 p8-15https://www.jstage.jst.go.jp/article/joralbiosci1965/43/1/43_1_8/_pdf抄録 舌骨は嚥下や発声において複雑な運動を示す。茎突舌骨筋は舌骨を後上方に引き上げる筋で、舌骨に付着する部位はこれまで明確にされていなかった。SEMを用いて観察した結果、茎突舌骨筋は正中部を除く舌骨体下面に広く付着していることが明らかになった。この筋の付着部に熱さ0.5-1mm、長さ10-17mmn線維軟骨塊が舌骨体の下面に沿って求められた。茎突舌骨筋の腱線維束は線維軟骨に入る前に、他の舌骨付着筋と錯綜していた。また線維軟骨塊の内部においても同様の錯綜が認められた。このように線維軟骨塊に多くの筋が入り込むことは、嚥下運動などにおいて、筋で指示されている舌骨がその位置を変える運動を円滑にしている。嚥下運動において舌骨は同時に回転運動を行うことがすでに知られている。多くの筋が線維軟骨塊に入り込むことは、この線維軟骨塊を固定することを可能にしている。したがって舌骨は線維軟骨塊を軸として、オトガイ舌骨筋や甲状舌骨筋により前後に回旋すると考えられた。緒言舌骨を含む喉頭領域の運動は嚥下や発声に大きく関与しており、その運動は古くからX線テレビや映画などを用いて2次元的、3次元的に調べられてきた。またヒトと他の動物との比較解剖学的な研究からヒトとサルの舌骨は他の骨と関節を持たず、筋で吊り下げられていることが指摘されている。このことは舌骨の運動が3次元的でその解析が難しいことを示唆している。このような舌骨の複雑な運動を行うために多くの小筋、舌骨上・下筋や咽頭収縮筋が舌骨に付着している。しかしこれらの筋の舌骨付着部については多くの報告があるが、成書においての記載は一致していない。最近ネアンデルタール人が言語を発したかどうかについて論争が、舌骨の形態をもとにして活発になっているように、舌骨への筋の付着部を明らかにすることは、舌骨の運動を考察する上で重要である。また嚥下運動時などの舌骨の位置変化や回旋運動が明らかにされているが、その考察は行われていない。舌骨体は矢状断面において「く」の字形に曲がっている。このため舌骨後面はくぼんでいる。この舌骨後面は筋がなく、喉頭脂肪体を入れる場を提供している。これ以外の舌骨体は筋に覆われている。つまり舌骨体前面はオトガイ舌骨筋が広く付着し、舌骨体上縁にはオトガイ舌骨筋の下部筋線維束が停止する。これ以外の舌骨上・下筋は、舌骨の全面下部に順次付着し、それぞれの筋の付着部は交錯しないと考えられていた。しかし舌骨体下縁においてオトガイ舌骨筋の一部と顎舌骨筋後部筋側、それに胸骨舌骨筋や肩甲舌骨筋がそれぞれ重複して停止することが報告されている。このことから舌骨の筋付着部位は再検討の必要があると考えられる。舌骨上・下筋のなかで、オトガイ舌骨筋と顎舌骨筋については再検討がなされているが、そのほかの筋については行われていない。そこで、舌骨上筋の1つである茎突舌骨筋についての再検討を行うことにした。この筋の付着部の位置については、舌骨体上縁、舌骨体と舌骨大角の結合部付近の下部、それに舌骨大角の舌骨体基部と、種々の報告があり、一致していない。しかもこれまでの方法は肉眼的な解剖をもとに、付着部に小孔などで印をつける方法をとっており、多くの小筋が付着する舌骨においては、この方法は適切でない。そこで本研究ではSEMを用いて茎突舌骨筋の舌骨付着部を明らかにし、他の舌骨上・下筋とともに、嚥下や発声における舌骨の運動に茎突舌骨筋がどのように関与しているかについて考察を行た。材料と方法(略)解剖学実習用の成人遺体13体(49歳-93歳まで)を使用した。舌骨上筋を剖出して観察したあと、舌骨下縁の直下で水平断して頭部をはずし、その後、舌骨と舌骨上筋を取り出した。これらは茎突舌骨筋を剖出してからデジタルマイクロスコピー(Keynence社,VH-7000)を用いて撮影を行った。次に、茎突舌骨筋以外の筋を舌骨から取り除き、Plamk-Rychlo液で2日間脱灰した後、中和処理した。茎突舌骨筋はその舌骨付着部を1cmほど舌骨側に残して取り去り、この筋の腱が舌骨に入る方向に沿って、前頭断に近い方向で切断した。この場合、舌骨体は少し弯曲しているので、舌骨の正中部から大角の基部までができるだけ1つの切断面に入るように、舌骨の正中部の前面と舌骨大角の基部の後面を結ぶ線で、舌骨を前頭断に近く切断した。これらの試料はタンニン・オスミウム法で導電染色したあと、アルコール系列で脱水し、t-ブチルアルコールを通して凍結乾燥を行った。次に金パラジウムを薄く蒸着し、走査型電子顕微鏡(日立S3500N)で観察と撮影を行った。考察茎突舌骨筋と顎二腹筋後腹における両筋の位置関係は、多くの成書において、茎突舌骨筋の舌骨付着部が二分して顎二腹筋を挟み込むとされている。しかし日本人においては、茎突舌骨筋が顎二腹筋の内側を通るものが70%あるいは58.5%と報告されており、人種差のあることが知られている。今回用いた試料は、例数が少ないが、26例中22例(84%)で茎突舌骨筋が顎二腹筋の内側にみられたことから、典型的な日本人の型を示しているといえる。この茎突舌骨筋が舌骨に付着する部位について、これまで種々の異なる報告があり、一致した見解が得られていなかった。今回の観察により茎突舌骨筋の付着部は茎突舌骨筋と顎二腹筋の位置関係に関わらず、線維軟骨塊(Fig.11:*)を介して、正中部を除く舌骨体底に広く付着していることが明らかになった(Fig.11:2)またこの部位には胸骨舌骨筋や肩甲舌骨筋が付着し、オトガイ舌骨筋の一部と顎舌骨筋が、線維軟骨塊を介して広く付着することも明らかにされている。したがって、舌骨下縁の線維軟骨塊には、左右やや後方から茎突舌骨筋、左右やや前方から顎舌骨筋、前方からオトガイ舌骨筋、そして下方から胸骨舌骨筋や肩甲舌骨筋が入り込むことになる。この線維軟骨塊は、微細な線維の集合体として観察されたが、走行の異なる線維束が混在していたことから、線維軟骨塊に入り込む各筋の腱線維が線維軟骨塊のなかで交錯していることが明白であった。これは顎舌骨筋の停止部にみられる形態と一致している。一般に近の付着部位では筋繊維に続く腱線維、線維軟骨、石灰化した線維軟骨、そして骨と並んでいる。これらの報告では線維軟骨の軟骨細胞は線維の方向に沿って並ぶが、舌骨の線維軟骨塊の軟骨細胞は散在し、不規則に配列していた。これは腱背に即が線維軟骨塊のなかで錯綜していることを示すものである。また線維軟骨塊に入り込む前の段階でも、各腱線維束が錯綜していたことから、茎突舌骨筋は線維軟骨塊に入る前と、入ってからの両部位において他の筋の腱線維と交錯することで、線維軟骨塊の強固に結合していると考えられた。四足動物に比べてヒトの喉頭部の形態は特殊であり、舌骨が頭蓋骨と関節を作らないことと、気道が屈曲していることなどの特徴がある。四足動物の茎突舌骨筋はヒトに比べて筋束の発達が悪く、イヌでは退化的でさえある。これに対してヒトとサルの茎突舌骨筋は発達がよい。一方哺乳動物のなかで舌骨が頭蓋骨から遊離しているものは少なく、ヒトとサルでみられる。このように茎突舌骨筋の発達と舌骨の頭蓋からの遊離は何らかの関連性がありそうである。四足動物の舌骨は数個の軟骨によって茎状突起と一体化しており、頭蓋骨と関節で連結している。さらに舌骨大角が甲状軟骨と関節をもつものも多い。発生学的に舌骨と茎状突起は連続した第二鰓弓軟骨に由来するので、四足動物の茎状突起を含めた舌骨装置は基本形を保っていりことになる。この頭蓋に関節する四足動物の舌骨装置は筋で吊り下げられたヒトの舌骨に比べて運動の自由度が少ないことを示している。四足動物の場合、頭部の気道と喉頭はほぼ垂直に並び、しかも鼻腔と喉頭は位置が低いため、嚥下運動に伴う舌骨の運動は、前後運動(ヒトでは上下運動)が主体になっていると考えられる。また四足動物では頸部が水平位をとるため、舌骨や喉頭はこれらに直接付着する筋の他に、頸筋膜や深頸括約筋によって頭蓋や頸椎で指示されると考えられる。また四足動物の舌骨体下縁は茎突舌骨筋の起始部よりも前方(ヒトでは上方)にあることが多いことから、茎突舌骨筋は舌骨の指示よりも主に舌骨を後方に引く働きをしていると考えられる。これらのことは四足動物の茎突舌骨筋は舌骨の指示にはあまり働かず、主に嚥下時に舌骨を後方へ引いて食塊の乗った舌根部を後方へ引く働きを行っていることを示していると考えられる。これに対してヒトは発達した茎突舌骨筋をもつ。ヒトの舌骨は頭蓋と連絡をもたないことが特徴で、これは運動の自由度が高いことを示している。また四足動物の気道が直線的であるのに対してヒトの気道は屈曲している。これは直立に伴い頭蓋が前下方に屈曲したために頭蓋底と脊椎のなす角(craniovertebral angle,occipito-vertebral angle)が小さくなったことで生じたと考えられている。この屈曲によってヒトの喉頭部は下方に押され、舌骨体下縁は第四頸椎体の下縁(成人男性)、または第四頸椎体の中央(成人女性)の高さに位置することになる。直立によって下降した喉頭部には重力がかかることになるので、舌骨や喉頭を引き上げるために多くの筋が関与する。このなかで茎突舌骨筋の起始部は四足動物でもヒトでも、頭蓋と頸椎の結合部に近く位置している。しかし、ヒトは直立に伴う頭蓋底の屈曲によって、茎突舌骨筋の起始部が舌骨よりも高い頭蓋底に位置することになる。したがってヒトの茎突舌骨筋は舌骨を後上方に引き上げる部位に位置することになる。直立する時間の多いサルにおいて、ヒトと同様に茎突舌骨筋が発達していることは、直立の影響が茎突舌骨筋の発達に関与することを示している。またヒトの喉頭は下降が著しいが、サルの喉頭はヒトほど下降していない。それにもかかわらず茎突舌骨筋が両者で発達していることは、喉頭の下降が茎突舌骨筋の発達に直接関与していないことを示している。これらのことは茎突舌骨筋の発達は気道の屈曲に伴って生じたことを示している。つまり嚥下運動は直線的な気道においては前後方向の動きで済んでいたが、気道が屈曲したことによって、屈曲に合わせた二方向の運動が必要となったわけである。舌骨はこの気道の屈曲部に位置していることから、上下方向と前後方向に自由に動くことが要求され、これに対応して舌骨と頭蓋の関節結合は消失し、かわりに筋が舌骨と頭蓋を結ぶことになったと考えられる。この結果、舌骨は自由な運動を得、この頭蓋の屈曲で舌骨を後上方に引く位置にきた茎突舌骨筋が発達したと考えられる。これまで多くの報告から嚥下時の舌骨の挙上は主にオトガイ舌骨筋と顎舌骨筋によるとされている。x線を用いた報告によると、嚥下時の舌骨の動きはわずかに後上方に挙上した後、急速の上前方に大きく挙上し、そのあと一定時間滞在した後、下後方に戻る。解剖学的にみて、オトガイ舌骨筋は舌骨を前方へ、顎舌骨筋はそれを上方に引くから、両者が同時に働いた場合、嚥下時のように舌骨を上前方に引くことになる。解剖学的には舌骨を挙上する筋として顎二腹筋、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、茎突舌骨筋が考えられる。このなかで実際の嚥下時に茎突舌骨筋が主要な筋とならないのは、茎突舌骨筋が舌骨の後上方に位置しているらめ、単独では舌骨を後上方に引き、オトガイ舌骨筋や顎舌骨筋と協力しても、舌骨を上方に引き上げるためである。つまり茎突舌骨筋は舌骨を前方に引くことができないため、嚥下運動の初期に、舌骨をわずかに後上方に引いて、食塊を後方に送る舌を支えることと、前上方に挙上した舌骨を後方に戻す運動に関与するにとどまると推察される。一方、嚥下時に舌骨が回旋運動することが報告されている。この回旋運動は外側面から見て、舌骨体軸と垂線のなす角度が、舌骨の安静期、挙上後退期、挙上前進期においてそれぞれ41.2、50.5、36.6、あるいは、24-30、38-42、30-35と変わる一連の運動を言う。しかしこの運動時に舌骨体がどの部位を軸として回旋するかは明らかではない。今回の結果を含めて線維軟骨塊には、茎突舌骨筋、オトガイ舌骨筋の一部、顎舌骨筋の後部筋束、それに肩甲舌骨筋などが、種々の方向から線維軟骨塊に付着することが明らかになってきた。またこれらの筋は下顎神経、顔面新規柄、頸神経と、多くの神経支配を受けている。このように神経支配の異なる筋が狭い部位に集中して付着する部位は舌骨にだけみられる特徴で、ある。線維軟骨塊に入るこれらの筋の腱線維が種々の方向から入り込んで、互いに錯綜して走ることは、舌骨への結合を強化し、同時に線維軟骨塊に付着する筋同士の結合を強めて、舌骨の移動を円滑にすると考えられる。一方舌骨体下面という狭い領域に多くの方向からやってきた筋が線維軟骨塊を介して舌骨に付着することは、これらの筋が舌骨の回旋に関与しないことを示している。つまり多方向からやってくる筋が舌骨体下面の狭い領域に付着することで、舌骨を固定し、舌骨体下面以外に付着する筋が線維軟骨塊を回転軸として舌骨の回旋を行うと推察される(Fig.12)これは、嚥下運動などで舌骨の位置が移動しても条件は同じである。嚥下に伴う舌骨の回旋運動は、線維軟骨塊を軸とすると、軸から上方に延びる舌骨体前面にオトガイ舌骨筋が付着することで舌骨の前方回旋運動を行い、舌骨大角に付着する甲状舌骨筋や一部の中咽頭収縮筋が舌骨の後方回旋運動を行うと考えられた。また嚥下時の第一段階で舌骨が挙上後退するときに、舌骨の後方回旋運動が起こるのは、甲状舌骨筋が喉頭を強く引き上げる運動を反映していると思われた。結論茎突舌骨筋の舌骨付着部を主にSEMを用いて観察し以下の結論を得た。1.茎突舌骨筋の舌骨付着部は従来いわれていた舌骨大角基部、あるいは舌骨体と舌骨大角の結合部ではなく、正中部を除く舌骨体下面に広く付着していた。2.茎突舌骨筋の舌骨付着部に厚さ0.5mmないし1.0mm、長さ10ないし17mmの線維軟骨塊が認められた。この線維軟骨塊は舌骨体下面に広く分布していた。3.茎突舌骨筋の腱線維束は、線維軟骨塊に入り込む前に、他の筋の腱線維束と錯綜していた。4.茎突舌骨筋の腱線維束は、線維軟骨塊のなかで、他の筋の腱線維束と錯綜していた。5.茎突舌骨筋が多くの舌骨上・下筋と錯綜していたことは、これらの筋が他害に舌骨への結合を強め合うと考えられた。以上のことから茎突舌骨筋を含む多くの筋は種々の方向から舌骨体下面に拡がる線維軟骨塊に付着することで舌骨の位置移動を円滑にし、しかも線維軟骨塊を軸とした回旋運動を可能にしていると結論づけられた。結果本研究で用いた13体26側の茎突舌骨筋のなかで、茎突舌骨筋が顎二腹筋の内側を通る型は22例あり、残り4例は茎突舌骨筋の舌骨停止部側が二分して、顎二腹筋をその間n挟み込んでいた。いずれの場合も茎突舌骨筋は舌骨体と舌骨大角の結合部付近で舌骨体下縁に停止していた(Fig.1)舌骨下縁で切断した部位を下面からみると、胸骨舌骨筋と甲状舌骨筋の断面が認められ、これらは舌骨体から舌骨大角の前半部に付着していた(Fig.2)茎突舌骨筋はこれらの筋の付着部に外側後方から交叉して入り込んでいた。また、顎舌骨筋の後部筋束が舌骨下縁の同じ部位に外側方向から入り込んでいた。茎突舌骨筋が二分して顎二腹筋を挟み込む例においても、その舌骨付着部は舌骨下縁にみられた。この例の顎二腹筋を取り外し、茎突舌骨筋の舌骨付着部の外側下端を切断して、上方に翻すと、茎突舌骨筋の内側端が、リング状の腱膜を形成して顎二腹筋を固定していたことがわかる(Fig.3)また、茎突舌骨筋の腱の一部は舌骨に直接入り込まず、リング状の腱膜の付着していた(Fig.3:*)このように茎突舌骨筋は顎二腹筋の内側にある場合と、顎二腹筋を筋束で挟むいずれの場合でも、最終的には腱線維となって舌骨下縁に達し、10mmから17mmの長さに渡って舌骨体下縁に沿って走っていた。オトガイ舌骨筋を舌骨から取り去ると、舌骨の前面が露出される。舌骨体は「く」の字形をしており、屈曲部が舌骨体前面の中央に左右に走る線として現れる(Fig.4)この線の舌骨体後端に舌骨小角の結合部が位置している。茎突舌骨筋は、舌骨体と舌骨第各の結合部付近から、舌骨体前面にほぼ平衡な方向で舌骨体下縁に入り込んでいる。この茎突舌骨筋の舌骨付着部を茎突舌骨筋の走行に沿って前頭断に近い方向で切断すると、茎突舌骨筋の舌骨付着部と舌骨小角が断面として現れる(Fig.5)舌骨体の断面において、舌骨体の周囲は緻密骨で取り巻かれている。舌骨体下縁に厚さ0.5ないし1mm、長さ10ないし17mmの線維軟骨塊が断面として現れる。線維軟骨塊は正中部でその厚さが薄くなっている。茎突舌骨筋は、線維軟骨塊に外側後方から2.5ないし3mm以上の長さに渡って入り込んでいる(Fig.5,6)この茎突舌骨筋の腱線維束は厚さ約0.5mmあり、舌骨体下面に沿って走りながら、ところどころで上方に向きを変えて線維軟骨塊に向かっていた(Fig.7)線維軟骨塊は平滑な断面として現れ、軟骨細胞の入っていた跡が孔として多数散在していた(Fig.7)茎突舌骨筋の腱線維束は、線維軟骨塊の下方に入り込んでおり、短径17μm前後の楕円形の断面が集合体を作っている像が認められた。また、これと交叉する別の腱線維束も認められた(Fig.8)拡大鏡で線維軟骨塊を観察すると、軟骨細胞に特有な円形や半円形の液体が認められた(Fig.9)細胞周囲は多数の微細な線維で形成されており、同じ断面の中に横断や銃弾された微細線維が混在して認められた。この線維の密度や走行の違いから、直径20ないし40μmの円形の領域がしばしば識別できた。(Fig.9)舌骨体下縁部は厚さ15ないし40μmの緻密骨が層板をなしていた(Fig.10)舌骨体下面に向かう線維軟骨塊の微細な線維がところどころに観察された。

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