「翔くん・・・船室に僕の電話あるから。
船長に電話かけて。
その間に浮き輪に脚を通しとくから。
それからまた引き上げて」
「わかったっ!」
浮き輪を一度水に沈めて、片脚をなんとか突っ込む。
ロープに腕を巻き付けるようにした。
これなら手の力が入らなくてもなんとかなるだろう。
「智くん!船長とは連絡付いたから。
今、引き上げるからね!」
グイッと浮き輪が引き上げられる。
水の中ではそんなに感じなかった体の重さ。
水面から上がると急に重く感じる。
きっと、浮き輪を引っ張っている翔くんはなおさらだろう。
せめて、少しでも翔くんの負担を少なくしたい。
アンカーの鎖につかまって、体を引き上げようと力を入れた。
翔くんと僕、二人分の力でなんとか僕の体は上がっていく。
じりじりと少しずつしか上がらない。
時には、翔くんの力が緩むのか?
ずり落ちることもある。
上からは翔くんの苦しそうなうめき声も聴こえてくる。
あと、1メートルだったのが、50センチ、30センチ、10センチ。
ちょっとずつ手すりが近くなっていく。
船べりに指先がかかった。
指を引っ掛けて、懸垂で上がれないかな?って。
やってみたけど・・・ダメで。
手すりがしっかり握れるようになってグッと力を入れる。
浮き輪のロープをどこかに固定した翔くんが来て。
僕の服を握って引き上げてくれる。
頭の方からずり落ちるように甲板に落ちた。
二人して、声も出なかった。
はあはあと息が切れて。
でも、こんなことしていられない。
すぐに陸に戻らないと。
「翔くん、船室に入ろう。
扉はないけど、風は防げるから」
船のエンジンのスターターのスイッチを押すと、すぐにブルンとかかった。
陸の方に船首を向けて、フルスロットル。
徐々にスピードが上がっていく。
僕の足元に小さく膝を抱えて、翔くんが座り込んでる。
「翔くん、大丈夫?
ポットの中のコーヒー、まだあったかいかも。
飲んで体あっためてて」
「それは智くんが・・・俺よりも長く水に入ってたんだから」
「翔くんは風邪ひいたら困るでしょ。
仕事に差し支える。
僕は風邪ひいても大丈夫だから。
今は翔くんが優先。
嵐のために頑張ってくれてるんでしょ」
「智くん・・・・」
☆★
さくっと助かりました(笑)
あまり悲惨な状況にはしたくなかったんですもん〜
自己犠牲の智くんみたいなのも大好きなんですけどもね!
でも、これは誕生日デート。
この先、イチャイチャさせたいですよね〜?